ライプニッツの不等式の3通りの証明

ライプニッツ(Leibniz)の不等式

三角形 ABCABC の三辺の長さを a,b,ca,b,c,外接円の半径を RR とおくと, a2+b2+c29R2a^2+b^2+c^2\leq 9R^2 が成立する。

ライプニッツの不等式を3通りの方法で証明します。

  • 方法1:辺の長さの情報に変換して代数的に証明する
  • 方法2:重心と外心の距離が非負であることを用いる
  • 方法3:角度の情報に変換してイェンゼンの不等式を用いる

幾何不等式の証明テクニックが凝縮されています。

1:辺の長さの情報に変換して証明する

計算はそこそこ大変ですが,機械的な計算で解けます!

方針

幾何不等式の最もオーソドックスな解法です。外接円の半径と三角形の面積の関係ヘロンの公式を用いて不等式を a,b,ca,b,c だけで表してから代数的に証明します。3変数三次の対称な不等式なので,展開すれば機械的に証明できます。

証明

S=abc4RS=\dfrac{abc}{4R} およびヘロンの公式より,示すべき不等式は,

9a2b2c216(a2+b2+c2)s(sa)(sb)(sc) 9a^2b^2c^2\geq 16(a^2+b^2+c^2)s(s-a)(s-b)(s-c)

である。右辺のヘロンの公式の部分を気合いで展開すると(注1)a2,b2,c2a^2,b^2,c^2 だけで表せることが分かり, A=a2,B=b2,C=c2A=a^2,B=b^2,C=c^2 とおくと以下のようになる。

9ABC(A+B+C)(2AB+2BC+2CAA2B2C2) 9ABC\geq (A+B+C)(2AB+2BC+2CA-A^2-B^2-C^2)

ここでもう一度気合いで展開すると A3+B3+C3+3ABCA2B+AB2+B2C+BC2+C2A+CA2 A^3+B^3+C^3+3ABC \geq A^2B+AB^2+B^2C+BC^2+C^2A+CA^2

となりSchurの不等式そのものなので成立する。

注1:ヘロンの公式の証明をなんとなく覚えていれば展開したときに a2,b2,c2a^2,b^2,c^2 しか出てこないことが分かるので,安心して(この方針で解けるのかなあという不安なしで)展開できます。複雑な式の展開に関しては対称式を素早く正確に展開する3つのコツを参考にしてください。

2:重心と外心の距離が非負であることを用いる

重心を用いて計算しましょう。

本質的なポイントの1つは AG2=2b22c2a29 \mathrm{AG}^2 = \dfrac{2b^2-2c^2-a^2}{9} と表されることです。→ 三角形の五心と頂点までの距離

重心の議論

中線定理より AB2+AC2=2(AM2+BM2) \mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2 = 2(\mathrm{AM}^2 + \mathrm{BM}^2) である。整理することで AM2=AB2+AC22BM22=2b2+2c2a24\begin{aligned} \mathrm{AM}^2 &= \dfrac{\mathrm{AB}^2 + \mathrm{AC}^2 - 2\mathrm{BM}^2}{2} \\ &= \dfrac{2b^2+2c^2-a^2}{4} \end{aligned} を得る。

AGAM=23\dfrac{\mathrm{AG}}{\mathrm{AM}} = \dfrac{2}{3} であるため AG2=2b2+2c2a29 \mathrm{AG}^2 = \dfrac{2b^2+2c^2-a^2}{9} である。

pic

同様に BG,CG\mathrm{BG},\mathrm{CG} も計算できる。

重心の性質を用いる方法

次の事実が成立します。

定理

三角形 ABC\mathrm{ABC} とその内部の点 P\mathrm{P} について AP2+BP2+CP2 \mathrm{AP}^2+ \mathrm{BP}^2 + \mathrm{CP}^2 が最小になるのは,P\mathrm{P} が三角形 ABC\mathrm{ABC} の重心であるときである。

つまり,三角形 ABC\mathrm{ABC} の重心を GG とすると AP2+BP2+CP2AG2+BG2+CG2 \mathrm{AP}^2 + \mathrm{BP}^2 + \mathrm{CP}^2 \geqq \mathrm{AG}^2+\mathrm{BG}^2 + \mathrm{CG}^2 が成り立ち,P=G\mathrm{P} = \mathrm{G} のとき等号が成立する。

三角形の頂点からの2乗距離の和は重心で最小になる

これを用いて証明しましょう。

証明

3R2=AO2+BO2+CO2 3R^2 = \mathrm{AO}^2 + \mathrm{BO}^2 + \mathrm{CO}^2 である。

前述した事実を P=O\mathrm{P} = \mathrm{O} で考えると 3R2=AO2+BO2+CO2AG2+BG2+CG2=2b2+2c2a29+2c2+2a2b29+2a2+2b2c29=a2+b2+c23\begin{aligned} 3R^2 &= \mathrm{AO}^2 + \mathrm{BO}^2 + \mathrm{CO}^2 \\ &\geqq \mathrm{AG}^2 + \mathrm{BG}^2 + \mathrm{CG}^2\\ &= \dfrac{2b^2+2c^2-a^2}{9} \\ &\quad + \dfrac{2c^2+2a^2-b^2}{9} \\ &\quad+ \dfrac{2a^2+2b^2-c^2}{9}\\ & = \dfrac{a^2+b^2+c^2}{3} \end{aligned} が成り立つ。

辺々払って 9R2a2+b2+c2 9R^2 \geqq a^2+b^2+c^2 を得る。

OG\mathrm{OG} を直接計算する方法

OG\mathrm{OG} を直接計算してもよいでしょう。

方針

重心 GG と外心 OO の距離を頑張って求めると目標の式が登場します。その際,三角形 AOMAOM と辺 AMAM の内分点 GG に注目することで機械的に計算できます。→スチュワートの定理の証明とその仲間

証明

外心と重心の距離

BC\mathrm{BC} の中点を M\mathrm{M} とおくと,

  • 定義より,AO=R\mathrm{AO}=R
  • 三平方の定理より,MO2=R2a24\mathrm{MO}^2=R^2-\dfrac{a^2}{4}
  • 中線定理より,AM2=2b2+2c2a24\mathrm{AM}^2=\dfrac{2b^2+2c^2-a^2}{4}

よって,スチュワートの定理または余弦定理を用いて OG\mathrm{OG} を求めることができる。

今回は余弦定理によって計算してみよう。まず cosOAM=OA2+AM2OM22OAAM \cos \angle \mathrm{OAM} = \dfrac{\mathrm{OA}^2 + \mathrm{AM}^2 - \mathrm{OM}^2}{2\mathrm{OA} \cdot \mathrm{AM}} となる。同じく余弦定理によって OG2=OA2+AG22OAAGcosOAM=OA2+49×AM22OAAGOA2+AM2OM22OAAM=OA2+49×AM223(OA2+AM2OM2)=13OA229AM2+23OM2=13R229×2b2+2c2a24+23(R2a24)=R219(a2+b2+c2)\begin{aligned} \mathrm{OG}^2 &= \mathrm{OA}^2+\mathrm{AG}^2 -2 \mathrm{OA} \cdot \mathrm{AG} \cos \angle \mathrm{OAM}\\ &= \mathrm{OA}^2 + \dfrac{4}{9}\times \mathrm{AM}^2\\ &\quad - 2 \mathrm{OA} \cdot \mathrm{AG} \cdot \dfrac{\mathrm{OA}^2 + \mathrm{AM}^2 - \mathrm{OM}^2}{2\mathrm{OA} \cdot \mathrm{AM}}\\ &= \mathrm{OA}^2 + \dfrac{4}{9}\times \mathrm{AM}^2\\ &\quad - \dfrac{2}{3} \left( \mathrm{OA}^2 + \mathrm{AM}^2 - \mathrm{OM}^2 \right)\\ &= \dfrac{1}{3} \mathrm{OA}^2 -\dfrac{2}{9}\mathrm{AM}^2 + \dfrac{2}{3} \mathrm{OM}^2\\ &= \dfrac{1}{3} R^2 - \dfrac{2}{9} \times \dfrac{2b^2+2c^2-a^2}{4} + \dfrac{2}{3} \left( R^2-\dfrac{a^2}{4} \right) \\ &= R^2 - \dfrac{1}{9} (a^2+b^2+c^2) \end{aligned} を得る。ただし途中,重心の性質 AGAM=23\dfrac{\mathrm{AG}}{\mathrm{AM}} = \dfrac{2}{3} を用いた。

OG2=R2a2+b2+c29 OG^2=R^2-\dfrac{a^2+b^2+c^2}{9}

よってライプニッツの不等式が成立する。

3:角度の情報に変換してイェンゼンの不等式を用いる

読者の方に提供していただいた方法です,感謝!

方針

外接円の半径と辺の長さに注目すると正弦定理が思いつきます。角度の情報に変換して三角関数に対するイェンゼンの不等式を用いるのも幾何不等式では定番の手法です。

証明

正弦定理より示すべき不等式は以下と同値:

sin2A+sin2B+sin2C94 \sin^2A+\sin^2B+\sin^2C\leq \dfrac{9}{4}

さらに,倍角の公式 sin2A=1cos2A2\sin^2 A=\dfrac{1-\cos 2A}{2} などより,以下と同値である。

cos2A+cos2B+cos2C32 \cos 2A+\cos 2B+\cos 2C \geq -\dfrac{3}{2}

これはKlamkinの不等式を知っていれば一発。

知らない場合はもう少し頑張る。三角形の内角における和積公式cos\cos 積和より,この式は以下と同値。

14cosAcosBcosC32 -1-4\cos A\cos B\cos C\geq -\dfrac{3}{2}

整理する。

cosAcosBcosC18 \cos A\cos B\cos C\leq \dfrac{1}{8}

鈍角三角形または直角三角形のときは左辺は 00 以下になるので,OK。

また,鋭角三角形のときは,相加相乗平均の不等式と(cos\cos00 から π2\dfrac{\pi}{2} の間で上に凸なので)イェンゼンの不等式を使えば証明できる。

cosAcosBcosC(cosA+cosB+cosC3)3{cos(A+B+C3)}3=18\begin{aligned} &\cos A\cos B\cos C\\ &\leq \left(\dfrac{\cos A+\cos B+\cos C}{3}\right)^3\\ &\leq \left\{\cos\left(\dfrac{A+B+C}{3}\right)\right\}^3=\dfrac{1}{8} \end{aligned}

外心と内心の距離からオイラーの不等式。外心と重心の距離からライプニッツの不等式が導かれます。

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