一般線型群・ユニタリ群・直交群

群構造を成す行列の集合を行列群という。代表的なものに GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})O(n)O(n)U(n)U(n) がある。

この記事では,一般線型群を始めとした重要な行列群を紹介します。

これらは線型代数で登場するのみならず,多様体論やリー群論,表現論など現代数学の様々な場面で登場する重要な概念です。

なお,この記事では Mn(k)M_n (k) で体 kk を成分とする n×nn \times n 行列全体を表します。

注:この記事では単位行列を InI_n で表します。

一般線型群

一般線型群

行列式が 00 ではない行列が成す群を一般線型群といいます。

定義

GLn(C)={XMn(C)detX0} \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid \det X \neq 0 \}

general linear の頭文字を取って GL と表記されます。今回は C\mathbb{C} 上で考えていますが,実数上で考えた GLn(R)\mathrm{GL}_n (\mathbb{R}) も同様に定義されます。

一般線型群は,正則行列から成る集合とも言えます。

A=(1234)A = \begin{pmatrix} 1&2\\3&4 \end{pmatrix}GL2(C)\mathrm{GL}_2 (\mathbb{C}) の元である。実際 detA=1423=20 \det A = 1\cdot 4 - 2 \cdot 3 = - 2 \neq 0 である。

また, B=12(4231) B = -\dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} 4&-2\\ -3&1 \end{pmatrix} とおくと,AB=BA=I2AB = BA = I_2 となる。このように AA は逆行列を持つ。

群構造があることを確認しましょう。

群を成すことの証明
  • 積について閉じていること

X,YGLn(C)X,Y \in \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) を取る。行列式の基本的な定義・性質・意味 より det(XY)=detXdetY0 \det (XY) = \det X \det Y \neq 0 より XYGLn(C)XY \in \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) である。

  • 単位元

単位行列 InI_n が単位元である。

  • 逆元

行列式が 00 でないことと逆行列が存在することは同値である。→行列が正則であることの意味と5つの条件

特殊線型群

行列式が 11 である行列が成す群を特殊線型群といいます。

定義

SLn(C)={XMn(C)detX=1} \mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid \det X = 1 \}

special linear の頭文字を取って SL と表されます。成分が実数である SLn(R)\mathrm{SL}_n (\mathbb{R}) も同じように定義されます。

これが群を成すことは一般線型群と同様に確かめられます。また,特殊線型群は一般線型群の正規部分群となります。

正規部分群と剰余群(商群)

直交群

直交群

直交行列から成る群を直交群といいます。

つまり,転置行列が逆行列になる行列から成る群を直交群といいます。

定義

O(n)={XMn(R)XX=In} O (n) = \{ X \in M_n (\mathbb{R}) \mid X^{\top} X = I_n \}

orthogonal の頭文字を取って O で表されます。また基本的に実行列であることに注意してください(複素行列で考える場合は O(n,C)O(n,\mathbb{C}) と書きます)。

群を成すことの証明

以下,転置について (XY)=YX(XY)^{\top} = Y^{\top} X^{\top} となることに注意する。

直交行列の積は直交行列である。

実際,X,YO(n)X,Y \in O(n) を取ると (XY)XY=YXXY=In (XY)^{\top}XY = Y^{\top} X^{\top}XY = I_n より XYO(n)XY \in O(n) である。

単位元

同じく単位行列である。

逆元

直交行列の逆行列は直交行列である。

実際,XO(n)X \in O(n) を取ると XX=InX^{\top} X = I_n から X1=XX^{-1} = X^{\top} であるため, (X1)X1=(X1)X=(XX1)=In (X^{-1})^{\top} X^{-1} = (X^{-1})^{\top} X^{\top} = (X X^{-1})^{\top} = I_n である。

特殊直交群

定義

直交群と特殊線型群の共通部分を特殊直交群という。

SO(n)=SLn(R)O(n)={XO(n)detX=1}\begin{aligned} SO(n) &= \mathrm{SL}_n (\mathbb{R}) \cap O(n)\\ &= \{ X \in O(n) \mid \det X = 1 \} \end{aligned}

ユニタリ群

ユニタリ群

ユニタリ行列から成る群を直交群といいます。

つまり転置行列が逆行列になる行列から成る群を直交群といいます。

定義

U(n)={XMn(C)XX=In} U (n) = \{ X \in M_n (\mathbb{C}) \mid X^{\ast} X = I_n \}

unital の頭文字を取って U で表されます。群の定義を満たすことは,直交群同様に確認できます。

ユニタリ行列の行列式

転置行列と同様に随伴行列と行列式の関係式もあります。

detX=detX \det X^{\ast} = \overline{\det X}

随伴行列

これを用いると det(XX)=detXdetX=detX2 \det (X^{\ast} X) = \det X^{\ast} \det X = |\det X|^2 となります。他方, det(XX)=detIn=1 \det (X^{\ast} X) = \det I_n = 1 ですので, detX2=1detX=eiθ (θR)\begin{aligned} &|\det X|^2 = 1\\ &\Rightarrow \det X = e^{i\theta} \ (\theta \in \mathbb{R}) \end{aligned} が分かります。

特殊ユニタリ群

特殊直交群同様に特殊ユニタリ群が定義されます。

定義

直交群と特殊線型群の共通部分を特殊ユニタリ群という。

SU(n)=SLn(R)U(n)={XU(n)detX=1}\begin{aligned} SU(n) &= \mathrm{SL}_n (\mathbb{R}) \cap U(n)\\ &= \{ X \in U(n) \mid \det X = 1 \} \end{aligned}

位相群としての性質

位相群

ここから先は前提知識として位相空間論の基礎が必要です。

位相空間論への第一歩~開集合・閉集合について

位相の構造が入る群を位相群といいます。また多様体の構造が入る群をリー群といいます。

定義(位相群・リー群)
  • GG が位相空間であって,積を取る操作 (g,h)gh(g,h) \mapsto gh と逆元を取る操作 gg1g \mapsto g^{-1} が連続写像になる場合,GG位相群という。

  • GG が多様体であって,積を取る操作 (g,h)gh(g,h) \mapsto gh と逆元を取る操作 gg1g \mapsto g^{-1} が多様体の射になる場合,GGリー群という。

行列群の位相構造

定理

この記事で紹介した群 GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})O(n)O(n)SO(n)SO(n)U(n)U(n)SU(n)SU(n) は位相群(リー群)の構造を持つ。

証明

n×nn \times n 行列を Cn2\mathbb{C}^{n^2}Rn2\mathbb{R}^{n^2})の部分集合とみなすことで位相構造が定まる。

行列の積や逆行列は,成分の多項式で表される。多項式関数は連続関数になるため,位相群の定義を満たす。

リー群の構造を持つことの証明は省略する。

今回紹介した行列群を,Cn2\mathbb{C}^{n^2}Rn2\mathbb{R}^{n^2})の部分集合とみなしたとき,開集合もしくは閉集合になります。

定理

GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})Cn2\mathbb{C}^{n^2} の開部分集合である。

SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})O(n)O(n)SO(n)SO(n)U(n)U(n)SU(n)SU(n)Cn2\mathbb{C}^{n^2}Rn2\mathbb{R}^{n^2})の閉部分集合である。

証明

一般に連続写像 f:XYf : X \to Y に対して,f1(開部分集合)f^{-1} (\text{開部分集合}) は開部分集合であり,f1(閉部分集合)f^{-1} (\text{閉部分集合}) は閉部分集合である。

GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})

det:Mn(C)C\det : M_n (\mathbb{C}) \to \mathbb{C}nn 次の多項式として表すことができる。

GLn(C)=(det)1(C\{0})SLn(C)=(det)1({1})\begin{aligned} \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) &= (\det)^{-1} (\mathbb{C} \backslash \{ 0 \})\\ \mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) &= (\det)^{-1} (\{ 1 \}) \end{aligned}

で,C\{0}\mathbb{C} \backslash \{ 0 \} は開,{1}\{ 1 \} は閉であるため,それぞれ主張が従う。

O(n)O(n)

f:Mn(R)Mn(R)f : M_n (\mathbb{R}) \to M_n (\mathbb{R})f(X)=XXf(X) = X^{\top} X により定義する。これは連続写像になる。

O(n)=f1({In}) O(n) = f^{-1} (\{ I_n \}) で,{In}\{ I_n \} は閉であるため主張が従う。

U(n)U(n)

O(n)O(n) と同様に証明できる。

SO(n)SO(n)SU(n)SU(n)

閉部分集合の共通部分は閉部分集合である。

コンパクト性

行列群のコンパクト性を紹介します。コンパクトについては 位相空間論の基礎~コンパクト空間・点列コンパクト空間の意味 をご覧ください。

  • GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) はコンパクトではない。

  • O(n)O(n)SO(n)SO(n)U(n)U(n)SU(n)SU(n) はコンパクトである。

証明

これらの群は Mn(C)Cn2M_n (\mathbb{C}) \simeq \mathbb{C}^{n^2}Mn(R)Rn2M_n (\mathbb{R}) \simeq \mathbb{R}^{n^2})の部分群である。

ユークリッド空間の部分集合がコンパクトであることと有界閉集合であることは同値であるため,有界集合かどうかを調べればよい。

GLn(C)\mathrm{GL}_n (\mathbb{C})SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C})

任意の tCt \in \mathbb{C} について (t11)GLn(C) \begin{pmatrix} t & \\ & 1 &\\ && \ddots \\ &&& 1 \end{pmatrix} \in \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) であるため,有界ではない。(SLn(C)\mathrm{SL}_n (\mathbb{C}) も同様)

O(n)O(n)SO(n)SO(n)U(n)U(n)SU(n)SU(n)

O(n)O(n) のときのみ紹介する。(その他も同じ)

直交行列の5つの定義と性質の証明 より,XO(n)X \in O(n)X=(x1x2xn) X = \begin{pmatrix} x_1 & x_2 & \cdots & x_n \end{pmatrix} nn 次元列ベクトル nn 本を並べたものとみなしたとき,{x1,x2,,xn}\{ x_1, x_2 , \cdots , x_n \} は正規直交基底となる。

よって xi=1\| x_i \| = 1 であるため,XX の各成分の絶対値は高々 11 である。よって O(n)[0,1]n O(n) \subset [0,1]^{n} と有界になる。

発展的な内容

リー群については リー群入門~定義と線型リー群の例 をご覧ください。

行列群は様々な代数においてよい具体例になります。