正規部分群と剰余群(商群)

正規部分群の定義
  • 群 GG の部分群 NN が正規部分群であるとは,
    任意の g∈G,n∈Ng \in G, n \in N に対して g−1ng∈Ng^{-1} n g \in N である
    ことを表す。
  • 正規部分群は「その剰余集合が群になる(剰余群が定まる)」ので嬉しい

この記事では,部分群の中でも重要な正規部分群とそこから得られる剰余群(商群)を解説します。

正規部分群に関する記号・英語

  • NN が GG の正規部分群であるとき,N◃GN \triangleleft G と書きます。

  • 群は GG という記号を使って表すことが多いです。群は英語で group というからです。

  • g の次のアルファベットが h であることから,部分群は HH と書くことが多いです。また subgroup にちなんで SS と書く文献も多いです。

  • 正規部分群は英語で normal subgroup というため,NN と書くことが多いです。HH や SS をそのまま用いる場合もあります。

正規部分群の例

正規部分群の例をいくつか見ていきましょう。

例1~アーベル群(可換群)

GG がアーベル群(可換群)なら,任意の部分群 NN は正規部分群である。実際, g−1ng=ng−1g=n∈N g^{-1} n g = n g^{-1} g = n \in N

例えば,Z\mathbb{Z} はアーベル群なので,nn の倍数の集合 nZn \mathbb{Z} は Z\mathbb{Z} の正規部分群です。

次は,可換ではない群における正規部分群の例です。

例2~置換群

nn 次置換群 Sn\mathfrak{S}_n を考える。

nn 次交代群 An\mathfrak{A}_n は,Sn\mathfrak{S}_n の元のうち,sgn\mathrm{sgn} が 11 になる元の集合だが。これは正規部分群になる。

実際,g∈Sng \in \mathfrak{S}_n,h∈Anh \in \mathfrak{A}_n とすると sgn (g−1hg)=sgn (g−1)⋅sgn (h)⋅sgn (g)=sgn (g)−1⋅sgn (h)⋅sgn (g)=sgn (h)=1\begin{aligned} &\mathrm{sgn} \ (g^{-1} h g)\\ &= \mathrm{sgn} \ (g^{-1}) \cdot \mathrm{sgn} \ (h) \cdot \mathrm{sgn} \ (g)\\ &= \mathrm{sgn} \ (g)^{-1} \cdot \mathrm{sgn} \ (h) \cdot \mathrm{sgn} \ (g)\\ &= \mathrm{sgn} \ (h)\\ &= 1 \end{aligned} であるため g−1hg∈Ang^{-1} h g \in \mathfrak{A}_n である。

 \:

一方 H={(1),(12)}H=\{ (1) , (12) \} は正規部分群ではない。

実際, (13)−1(12)(13)=(123)(13)=(23)∉H\begin{aligned} (13)^{-1} (12) (13) &= (123) (13)\\ &= (23)\not\in H \end{aligned} である。

また,自明な部分群は正規部分群です。

例3~自明な部分群

群 GG に対して N={1G}N = \{ 1_G \} とすると,NN は正規部分群。

剰余群(商群)

定理

GG を群,NN をその正規部分群とする。

  1. 左剰余集合 G/NG / N と右剰余集合 N\GN \backslash G は一致する。
  2. G/NG/N は,以下の演算 ×\times に関して群になる(これを剰余群(または商群)という)。
剰余群の演算

gN,g′N∈G/Ng N , g' N \in G / N に対して,その積 ×\times を gN×g′N=(g⋅g′)NgN\times g'N=(g\cdot g')N と定める。ここで,×\times は G/NG /N における積であり,⋅\cdot は GG における積である。

左剰余集合 G/NG / N とは,{gN∣g∈G}\{gN\mid g\in G\} のことです。gNgN という集合を集めた「集合の集合」です。

例えば G=ZG=\mathbb{Z} で NN を「3の倍数全体の集合」とすると gN={N,1+N,2+N}gN=\{N,1+N,2+N\} です。

1の証明

gN=NggN=Ng を示す。そのために,gN⊂NggN\subset Ng を示す(同様に Ng⊂gNNg\subset gN もわかる)。

x∈gNx\in gN なら,ある n∈Nn\in N が存在して x=gnx=gn となる。つまり xg−1=gng−1xg^{-1}=gng^{-1} となるが,NN は正規部分群より xg−1=n′xg^{-1}=n' となる n′∈Nn'\in N が存在。つまり x=n′gx=n'g となる n′n' が存在。よって x∈Ngx\in Ng

よって G/N={gN∣g∈G}={Ng∣g∈G}=N\G\begin{aligned} G / N &= \{ g N \mid g\in G \}\\ &= \{ N g \mid g\in G \}\\ &= N \backslash G \end{aligned}

2の証明
  • 積 ×\times の定義が well-defined であることを示す。つまり,代表元 g,g′g,g' の選び方によらず gN×g′NgN\times g'N は同じ集合になることを示す。つまり,g1N=g2Ng_1N=g_2N かつ g1′N=g2′Ng'_1N=g'_2N なら (g1⋅g2)N=(g1′⋅g2′)N(g_1\cdot g_2)N=(g_1'\cdot g_2')N を示せばよい。これは,以下のようにわかる。
    (g1⋅g2)N⊂(g1′⋅g2′)N(g_1\cdot g_2)N\subset(g_1'\cdot g_2')N を示す(逆も同様)。 x∈g1g2Nx\in g_1g_2N なら,ある n,n1,n2∈Nn,n_1,n_2\in N が存在して x=g1g2n=g1′n1g2′n2n=g1′g2′(g2′−1n1g2′)n2n∈g1′g2′Nx=g_1g_2n=g_1'n_1g_2'n_2n=g_1'g_2'(g_2'^{-1}n_1g_2')n_2n\in g_1'g_2'N

  • G/NG/N は ×\times に関して群になることを示す。実際,群の公理を満たすことは簡単に確認できる。

    • 結合則は,GG の結合則からわかる。
    • 単位元は eNeN になる。ただし GG の単位元を ee とした。
    • gNgN の逆元は g−1Ng^{-1}N になる。

剰余群の例

剰余群の例をいくつか見てみましょう。

例4~mod n

G=ZG = \mathbb{Z} は(加法について)アーベル群であるため,任意の部分群は正規部分群であった。

N=nZN = n \mathbb{Z} は部分群である。

剰余群 G/NG/N は Z/nZ\mathbb{Z} / n \mathbb{Z} である。

例5~対称群と交代群

G=SnG = \mathfrak{S}_n に対して N=AnN = \mathfrak{A}_n は正規部分群であった。

G/NG / N は2元からなる群である。そのような群は Z/2Z\mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} しか存在しない。

よって G/N≃Z/2ZG/N \simeq \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z} である。

その他の例は準同型定理をの記事で紹介します。

その他正規部分群にまつわる話題

位数2の部分群

定理

群 GG の指数2の部分群 HH は正規部分群である。

証明

任意の g∈Gg \in G に対して gHg−1=Hg H g^{-1} = H を示せばよい。g∈Hg \in H であれば明らかであるため,g∈G−Hg \in G - H(HH の元ではない GG の元)で考える。

ここで剰余類 G/HG/H を考えよう。

指数2であるため,G/HG/H は,2つの元からなる。一方は,単位元の剰余類 eHeH である、もう一方は gHgH と表される剰余類である。

ゆえに G=H⊔gHG = H \sqcup gH である。(⊔\sqcup は共通部分が空である和)同様に H\GH \backslash G で考えることで G=H⊔HgG = H \sqcup Hg である。

よって,Hg=gHHg = gH であることが従う。

こうして g∈G−Hg \in G - Hについて gHg−1=Hg H g^{-1} = H であることが分かる。

以上より任意の g∈Gg \in G に対して gHg−1=Hg H g^{-1} = H であるため,HH は正規部分群である。

部分群の正規部分群

これらの命題は同型定理の解説をするときに使います。群論の議論の練習として押さえておきましょう。

命題1

NN を GG の正規部分群,HH を GG の部分群とする。

  1. NH={hk∣h∈N,k∈H}NH = \{ hk \mid h \in N , k \in H \} は GG の部分群である。
  2. N∩HN \cap H は HH の正規部分群である。
証明
  1. 部分群とその具体例 で述べたように HN=NHHN = NH であることを示せば十分である。
    h∈Nh \in N,k∈Hk \in H とすると hk=kk−1hk hk = k k^{-1} h k である。NN は正規部分群であるため k−1hk∈Nk^{-1} h k \in N であって,NH=HNNH = HN を得る。

  2. 部分群とその具体例 で N∩HN \cap H が部分群になることは示した。正規性を示す。
    k∈Hk \in H を任意に取る。 k−1(N∩H)k⊂k−1Hk⊂H k^{-1} (N \cap H) k \subset k^{-1} H k \subset H\\ である。また k∈Gk \in G でもあるため,NN の正規性から k−1(N∩H)k⊂k−1Nk⊂N k^{-1} (N \cap H) k \subset k^{-1} N k \subset N\\ である。よって k−1(N∩H)k⊂N∩Hk^{-1} (N \cap H) k \subset N \cap H である。

命題2

群 GG の正規部分群 NN,KK は K⊂N⊂GK \subset N \subset G を満たしているとする。また KK は NN の正規部分群であるとする。

このとき剰余群 N/KN / K は G/KG/K の正規部分群である。

証明

gK∈G/KgK \in G/K,hN∈N/KhN \in N/K を任意に取る。

(gK)−1hKgK=Kg−1h(gg−1)KgK=K(g−1hg)K=(g−1hg)K∈N/K\begin{aligned} (gK)^{-1} hK gK &= K g^{-1} h (gg^{-1})K gK\\ &= K (g^{-1} hg) K\\ &= (g^{-1} hg) K\\ &\in N/K \end{aligned} より正規部分群であることが従う。

注意点

正規部分群の正規部分群は元の群の正規部分群になるとは限りません。

G=S4G = \mathfrak{S}_4 とします。

H={(1),(12)(34),(13)(24),(14)(23)}H = \{ (1) , (12)(34) , (13)(24) , (14)(23) \} とおきます。(→ クラインの四元群 といいます)

実はこれは正規部分群になっています。

証明

g∈Sng \in \mathfrak{S}_n(一般の nn でOK)を取る。

Sn\mathfrak{S}_n の元は互換((pq)(pq) の形をした元)の積で表されるため,(pq)−1g(pq)(pq)^{-1} g (pq) を考えればよい。

(pq)−1g(pq)(pq)^{-1} g (pq) は gg に現れる pp を qq に,qq を pp に変えた元になる。

よって h∈Hh \in H に対して (pq)−1h(pq)∈H(pq)^{-1} h (pq) \in H となる。

K={(1),(12)(34)}K = \{ (1) , (12)(34) \} は HH の正規部分群になります。

計算

{(13)(24)}−1(12)(34){(13)(24)}\{ (13)(24) \}^{-1} (12)(34) \{ (13)(24) \} は (12)(34)(12)(34) の 11 と 33 を,22 と 44 を入れ替えたものである。

つまり (34)(12)=(12)(34)(34)(12) = (12)(34) である。

(14)(23)(14)(23) についても同様。

しかし KK は GG の正規部分群ではありません。

計算

(13)−1(12)(34)(13)=(23)(14)∉K(13)^{-1} (12)(34) (13) = (23)(14) \notin K

正規部分群の概念はガロア理論でも重要になってきます。