正規部分群と剰余群(商群)
- 群 の部分群 が正規部分群であるとは,
任意の に対して である
ことを表す。 - 正規部分群は「その剰余集合が群になる(剰余群が定まる)」ので嬉しい
この記事では,部分群の中でも重要な正規部分群とそこから得られる剰余群(商群)を解説します。
正規部分群に関する記号・英語
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が の正規部分群であるとき, と書きます。
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群は という記号を使って表すことが多いです。群は英語で group というからです。
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g の次のアルファベットが h であることから,部分群は と書くことが多いです。また subgroup にちなんで と書く文献も多いです。
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正規部分群は英語で normal subgroup というため, と書くことが多いです。 や をそのまま用いる場合もあります。
正規部分群の例
正規部分群の例
正規部分群の例をいくつか見ていきましょう。
がアーベル群(可換群)なら,任意の部分群 は正規部分群である。実際,
例えば, はアーベル群なので, の倍数の集合 は の正規部分群です。
次は,可換ではない群における正規部分群の例です。
次置換群 を考える。
次交代群 は, の元のうち, が になる元の集合だが。これは正規部分群になる。
実際,, とすると であるため である。
一方 は正規部分群ではない。
実際, である。
また,自明な部分群は正規部分群です。
群 に対して とすると, は正規部分群。
剰余群(商群)
剰余群(商群)
を群, をその正規部分群とする。
- 左剰余集合 と右剰余集合 は一致する。
- は,以下の演算 に関して群になる(これを剰余群(または商群)という)。
に対して,その積 を と定める。ここで, は における積であり, は における積である。
左剰余集合 とは, のことです。 という集合を集めた「集合の集合」です。
例えば で を「3の倍数全体の集合」とすると です。
を示す。そのために, を示す(同様に もわかる)。
なら,ある が存在して となる。つまり となるが, は正規部分群より となる が存在。つまり となる が存在。よって
よって
-
積 の定義が well-defined であることを示す。つまり,代表元 の選び方によらず は同じ集合になることを示す。つまり, かつ なら を示せばよい。これは,以下のようにわかる。
を示す(逆も同様)。 なら,ある が存在して -
は に関して群になることを示す。実際,群の公理を満たすことは簡単に確認できる。
- 結合則は, の結合則からわかる。
- 単位元は になる。ただし の単位元を とした。
- の逆元は になる。
剰余群の例
剰余群の例
剰余群の例をいくつか見てみましょう。
は(加法について)アーベル群であるため,任意の部分群は正規部分群であった。
は部分群である。
剰余群 は である。
に対して は正規部分群であった。
は2元からなる群である。そのような群は しか存在しない。
よって である。
その他の例は準同型定理をの記事で紹介します。
その他正規部分群にまつわる話題
その他正規部分群にまつわる話題
位数2の部分群
群 の指数2の部分群 は正規部分群である。
任意の に対して を示せばよい。 であれば明らかであるため,( の元ではない の元)で考える。
ここで剰余類 を考えよう。
指数2であるため, は,2つの元からなる。一方は,単位元の剰余類 である、もう一方は と表される剰余類である。
ゆえに である。( は共通部分が空である和)同様に で考えることで である。
よって, であることが従う。
こうして について であることが分かる。
以上より任意の に対して であるため, は正規部分群である。
部分群の正規部分群
これらの命題は同型定理の解説をするときに使います。群論の議論の練習として押さえておきましょう。
を の正規部分群, を の部分群とする。
- は の部分群である。
- は の正規部分群である。
群 の正規部分群 , は を満たしているとする。また は の正規部分群であるとする。
このとき剰余群 は の正規部分群である。
, を任意に取る。
より正規部分群であることが従う。
注意点
注意点
正規部分群の正規部分群は元の群の正規部分群になるとは限りません。
とします。
とおきます。(→ クラインの四元群 といいます)
実はこれは正規部分群になっています。
(一般の でOK)を取る。
の元は互換( の形をした元)の積で表されるため, を考えればよい。
は に現れる を に, を に変えた元になる。
よって に対して となる。
は の正規部分群になります。
は の と を, と を入れ替えたものである。
つまり である。
についても同様。
しかし は の正規部分群ではありません。
正規部分群の概念はガロア理論でも重要になってきます。