群の剰余類とラグランジュの定理

群論における以下の用語を,例を使いながらわかりやすく説明します。

  • 剰余類(右剰余類・左剰余類)
  • 剰余集合(右剰余集合・左剰余集合)
  • 部分群の指数
  • ラグランジュの定理

剰余類

定義(左剰余類)

GG を群,HH をその部分群とする。gGg \in G に対して gH={ghhH}gH=\{gh\mid h\in H\}gg左剰余類という。

  • gHgHGG の部分集合です。つまり,左剰余類はもとの群の部分集合です。
  • gg が左にある」のが左剰余類です。
  • G,H,gG,H,g という3点セットを決めると左剰余類が決まります。
例1

整数全体の集合 Z\mathbb{Z} は加法に関する群である。H={3の倍数全体}H=\{3の倍数全体\}GG の部分群である。このとき,

  • 11 の左剰余類は 1+H1+H,つまり 33 で割って 11 余る整数全体の集合
  • 55 の左剰余類は 5+H5+H,つまり 33 で割って 22 余る整数全体の集合

左剰余類と右剰余類

gg の左剰余類とは,gHgH のことでした。同様に,HgHg のことを gg右剰余類と言います。

例1のように,もとの群 GG が可換なときは gH=HggH=Hg なので左剰余類と右剰余類は一致します。このとき,単に剰余類と言います。

一方,例2のように右剰余類と左剰余類が一致しない場合もあります。

例2

GG33 次置換群 S3\mathfrak{S}_3H={(1),(12)}H = \{ (1) , (12) \} とする(恒等置換と「1122 の交換」)。

(13)G(13)\in G の左剰余類と右剰余類は,それぞれ

  • (13)H={(13),(123)}(13) H = \{ (13) , (123) \}
  • H(13)={(13),(132)}H (13) = \{ (13) , (132) \}

となり,両者は異なる。

剰余集合

定義(左剰余集合)

{gHgG}\{gH\mid g\in G\} のことを左剰余集合と言う。

  • つまり,(G,HG,H を固定して,gGg\in G を動かしたときの)左剰余類をすべて集めたものです。剰余類は集合なので,剰余集合は集合の集合です。
  • 左剰余集合のことを G/HG/H と書きます。 G/H={gHgG}G/H=\{gH\mid g\in G\}
例1の続き

整数全体の集合 Z\mathbb{Z} は加法に関する群である。H={3の倍数全体}H=\{3の倍数全体\}GG の部分群である。このとき, Z/H={H,1+H,2+H}\mathbb{Z}/H=\{H,1+H,2+H\} である。Z/H\mathbb{Z}/H は3つの集合からなる集合です。

左剰余集合と右剰余集合

左剰余集合と同様に {HggG}\{Hg\mid g\in G\} のことを右剰余集合と言います。右剰余集合を H\GH\backslash G と書くことがあります。

例1では右剰余集合と左剰余集合は一致しますが,例2では異なります。

例2の続き

GG33 次置換群 S3\mathfrak{S}_3H={(1),(12)}H = \{ (1) , (12) \} とする。

  • 左剰余集合を計算すると, {{(1),(12)},{(13),(123)},{(23),(132)}}\{\{(1),(12)\},\{(13),(123)\},\{(23),(132)\}\}
  • 右剰余集合を計算すると, {{(1),(12)},{(13),(132)},{(23),(123)}}\{\{(1),(12)\},\{(13),(132)\},\{(23),(123)\}\} となり,両者は異なる。

実は,例2と同じ GG でも,HH を変えると右剰余集合と左剰余集合が一致します!

例3

GG33 次置換群 S3\mathfrak{S}_3HH33 次交代群 A3\mathfrak{A}_3 とする。

G={(1),(12),(13),(23),(123),(132)}H={(1),(123),(132)}\begin{aligned} G &= \{ (1) , (12) , (13) , (23), (123), (132) \}\\ H &= \{ (1) , (123) , (132) \} \end{aligned} である。

  • 左剰余集合を計算すると, {{(1),(123),(132)},{(12),(13),(23)}}\{\{(1),(123),(132)\},\{(12),(13),(23)\}\}
  • 右剰余集合を計算すると, {{(1),(123),(132)},{(12),(13),(23)}}\{\{(1),(123),(132)\},\{(12),(13),(23)\}\} となり,両者は一致する。

それでは,いつ剰余集合が一致するのでしょうか。実は HH正規部分群であるときに剰余集合が一致します。また別の記事で紹介します。

【発展】両側剰余類と両側剰余集合

GG とその部分群 H,KH,K があるとき,gGg\in G に対して

HgK={hgkhH,kK}HgK=\{hgk\mid h\in H,k\in K\}

のことを両側剰余類と言います。両側剰余類全体の集合を両側剰余集合といい,H\G/KH \backslash G / K と書きます。

例4(ブリュア分解)

G=GL2(C)G = \mathrm{GL}_2 (\mathbb{C}) とする。

BB2×22 \times 2 上三角行列全体の成す GG の部分群とする。

B\G/BB \backslash G / B がどうなるか調べる。

gGg \in Gg=(abcd)g = \begin{pmatrix} a&b\\c&d \end{pmatrix} と表す。

  1. c=0c = 0 のとき,gBg \in B であるため,ggII の両側剰余類に入る。

  2. c0c \neq 0 のとき,ggJ=(0110)J = \begin{pmatrix} 0&1\\1&0 \end{pmatrix} の両側剰余類に入ることを示す。b1=(pq0r),b2=(pq0r)b_1 = \begin{pmatrix}p&q\\0&r\end{pmatrix},\:b_2 =\begin{pmatrix} p' & q'\\0 & r'\end{pmatrix} とおくと, b1Jb2=(qppr+qqrprq) b_1 J b_2 = \begin{pmatrix} qp'& pr' + qq'\\ rp' & rq' \end{pmatrix} である。これより kCk \in \mathbb{C} として p=1,p=ckq=akc,q=dkr=k,r=bcadc\begin{alignedat}{3} p &= 1, & p' &= \dfrac{c}{k}\\ q &= \dfrac{ak}{c}, & \quad q' &= \dfrac{d}{k}\\ r &= k, &r' &= \dfrac{bc-ad}{c} \\ \end{alignedat} とすると b1Jb2=gb_1 J b_2 = g である。

こうして GG の両側剰余集合は {BIB,BJB}\{ BIB , BJB \} となる。

実は,一般の nn に対して B\GLn(C)/BB \backslash \mathrm{GL}_n (\mathbb{C}) / BSn\mathfrak{S}_n と全単射です。(BBn×nn \times n 上三角行列とします。)

剰余類と同値関係

x,yGx,y\in G とします。

xy    x1yHx\sim y\iff x^{-1}y\in H によって二項関係 \sim を定めると,

  • \sim は同値関係になります。

さらに,

  • 左剰余類 xHxH は(xx が属する)同値類になります。
  • 左剰余集合は,この同値類に関する商集合になります。

右剰余類についても, xy    xy1Hx\sim y\iff xy^{-1}\in H で定めれば同様です。

参考:同値関係といろいろな例

部分群の指数

部分群の指数とは,「GG の位数が HH の位数の何倍か」を表す整数です。

命題と定義

GG を群,HH をその部分群とする。このとき,

  1. 任意の gGg \in G に対して gH=Hg=H|gH| = |Hg| = |H|
  2. G/H=H\G|G/H| = |H \backslash G|

が成立することが知られている(これらは位数が無限でも成立する)。

(G:H)=G/H=H\G(G:H) = |G/H| = |H \backslash G| と定義し,これを HHGG に対する指数という。

【参考】

証明のスケッチ
  1. ϕ:G/HH\G\phi : G/H \to H \backslash Gϕ(gH)=Hg1\phi (gH) = H g^{-1}ψ:H\GG/H\psi : H \backslash G \to G / Hψ(Hg)=g1H\psi (Hg) = g^{-1} H と定義すると.これらは互いに逆写像になる。よって ϕ\phiψ\psi は全単射である。

  2. ϕ:HgH\phi : H \to gHϕ(h)=gh\phi (h) = gh と定めるとこれは全単射である。全射性は明らか。
    単射性を示す。ϕ(h1)=ϕ(h2)\phi (h_1) = \phi (h_2) と仮定する。このとき gh1=gh2gh_1 = gh_2 である。両辺に g1g^{-1} を掛けて h1=h2h_1 = h_2 を得る。
    同様に ψ(h)=hg\psi (h) = hg とすることで HHHgHg は全単射とわかる。

いくつか例を確認しましょう。

例2と例3の続き

G=S3G = \mathfrak{S}_3 とする。H={(1),(12)}H = \{ (1) , (12) \}K=A3K = \mathfrak{A}_3 とする。

このとき G/H={(1)H,(13)H,(23)H}G/K={(1)K,(12)K}\begin{aligned} G / H &= \{ (1)H , (13) H , (23) H \}\\ G / K &= \{ (1)K , (12) K \} \end{aligned} であるため (G:H)=3(G:H) = 3(G:K)=2(G : K) = 2 である。

元の群が無限群でも部分群を上手く取れば,指数が有限になることがあります。

例5

G=ZG = \mathbb{Z}H=nZH = n \mathbb{Z}nn の倍数からなる部分群)とすると G/H=Z/nZG / H = \mathbb{Z} / n \mathbb{Z} であるため,G/H=n|G/H| = n である。

つまり (G:H)=n(G:H) = n である。

ラグランジュの定理

ラグランジュの定理は,剰余集合と位数(集合の濃度)の関係についての大定理です。

定理

HHGG の部分群とする。このとき G=(G:H)H|G| = (G:H) |H| である。

※ 位数が無限でも成立する。

これまでの例と合わせてラグランジュの定理を使ってみましょう。

例2と例3の続き

G=S3G = \mathfrak{S}_3H={(1),(12)}H = \{ (1) , (12) \}K=A3K = \mathfrak{A}_3 とする。

このとき G=6|G| = 6H=2|H| = 2K=3|K| = 3 である。

ラグランジュの定理より G=(G:H)HG=(G:K)K\begin{aligned} |G| &= (G:H) |H|\\ |G| &= (G:K) |K| \end{aligned} であるため,(G:H)=3(G:H) = 3(G:K)=2(G:K) = 2 であることがわかる。

ラグランジュの定理の証明

証明

G<|G| < \infty であるときの証明を記す。(無限のときは大変ではないため省略)

  • g1Hg2Hg_1 H \neq g_2 H であれば g1Hg2H=g_1 H \cap g_2 H = \emptyset であることを示す。

対偶を示す。

g1,g2Gg_1 , g_2 \in G に対して g1Hg2Hg_1 H \cap g_2 H \neq \emptyset であるとする。

このとき,ある h1,h2Hh_1 , h_2 \in H があって,g1h1=g2h2g_1 h_1 = g_2 h_2 となる。両辺に右から h11{h_1}^{-1} を掛けると g1=g2h2h11g_1 = g_2 h_2 {h_1}^{-1} である。よって g1g2Hg_1 \in g_2 H であるため g1Hg2Hg_1 H \subset g_2 H である。

逆に g2Hg1Hg_2 H \subset g_1 H でもあるため,g1H=g2Hg_1 H = g_2 H である。

  • 結論

G/HG/H の代表元を g1,g2,,gng_1 , g_2 , \cdots , g_n とする。(ここで n=(G:H)n = (G:H) となる)

このとき G=i=1ngiH G = \bigcup_{i=1}^n g_i H である。iji \neq j であれば giHgjH=g_i H \cap g_j H = \emptyset であるため G=i=1ngiH G = \bigsqcup_{i=1}^n g_i H である。

\bigsqcup は互いに共通部分を持たない和

よって G=i=1ngiH=i=1nH=(G:H)H\begin{aligned} |G| &= \sum_{i=1}^n |g_i H|\\ &= \sum_{i=1}^n |H|\\ &= (G:H) |H| \end{aligned} を得る。

ラグランジュの定理の系

次の事実はラグランジュの定理からすぐに従います。

GG を有限群,HHGG の部分群とする。

  1. HH の位数は GG の約数である
  2. gGg \in G とすると,gg の位数は GG の位数の約数である
証明
  1. 明らか

  2. gg によって生成される群 g\langle g \rangle の位数が gg の元の位数である。g\langle g \rangleGG の部分群であるから題意が従う。

練習問題

練習問題1

GG を位数 1212 の群とする。GG は位数が 55 の元を持たないことを示せ。

証明

GG の元の位数は GG の位数の約数であるため,GG の元の位数としてあり得るのは 1,2,3,4,6,121,2,3,4,6,12 である。よって位数 55 の元を持たない。

練習問題2

GG は位数が素数 pp である群とする。このとき GG は巡回群(1つの元によって生成される群)であることを示せ。

証明

GG の元 gg の位数は pp の約数であるため,11pp のいずれかである。

g1Gg \neq 1_G とする。

gg の生成する群 g\langle g \rangleGG の部分群である。ここで gg の位数は pp であるため,g=p| \langle g \rangle | = p である。

GG の位数も pp であるため,g=G\langle g \rangle = G であることがわかる。

よって GG は巡回群である。

フェルマーの小定理の証明

ラグランジュの定理の系を用いてフェルマーの小定理の証明をしてみましょう。

定理

pp は素数,aapp の倍数ではない正整数とすると ap11 (mod p) a^{p-1} \equiv 1 \ (\mathrm{mod} \ p) である。

証明

条件を満たす aaZ/pZ\mathbb{Z} / p \mathbb{Z}00 ではない元であるとみなせる。

Z/pZ\mathbb{Z} / p \mathbb{Z}00 ではない元は積について群になる。この群の位数は p1p-1 である。

よって aa の元の位数は p1p-1 の約数である。つまり aap1p-1 回掛けると Z/pZ\mathbb{Z} / p \mathbb{Z} の単位元となる。

これはまさに 1 (mod p)1 \ (\mathrm{mod} \ p) と一致する。

指数が素数の部分群は美しい性質を持つことが多いです。これはまた別の機会に紹介しましょう。