随伴行列

随伴行列の定義

行列 AA に対して,転置して複素共役を取った行列 A=AA^{\ast} = \overline{A^{\top}} を,随伴行列(共役転置行列・エルミート転置行列)という。

転置行列の意味・重要な7つの性質と証明

簡単な例

(i101+i)\begin{pmatrix} i&1\\0&1+i \end{pmatrix} の随伴行列は (i011i)\begin{pmatrix} -i&0\\1&1-i \end{pmatrix} です。

随伴行列が元の行列と一致する場合もあります。例えば (1ii1)\begin{pmatrix} 1&i\\-i&1 \end{pmatrix} の随伴行列は (1ii1)\begin{pmatrix} 1&i\\-i&1 \end{pmatrix} です。この他にも実数係数対称行列は随伴を取っても不変です。

このように随伴行列が元の行列と一致する行列を エルミート行列 といいます。

簡単な性質

転置行列の意味・重要な7つの性質と証明と近しい性質があります。複素共役があるため,軽微に異なるところがあります。

随伴行列の性質

任意の行列 AA に対して,

  1. (A)=A(A^{\ast})^{\ast}=A

任意の正方行列 AA に対して,

  1. trA=trA\mathrm{tr}\:A^{\ast}=\overline{\mathrm{tr}\:A}
  2. detA=detA\det A^{\ast}= \overline{\det A}
  3. AA^{\ast} の固有値は AA の固有値の複素共役である。
  4. AA のランクと AA^{\top} のランクは等しい

ABAB が定義できるサイズのとき

  1. (AB)=BA(AB)^{\ast}=B^{\ast}A^{\ast}

AA が正則なとき,

  1. (A)1=(A1)(A^{\ast})^{-1}=(A^{-1})^{\ast}

証明ですが,転置行列の意味・重要な7つの性質と証明にある同様の性質に複素共役を取ればOKです。

随伴行列と内積

複素ベクトル空間 Cn\mathbb{C}^n において,x=(x1xn)x = \begin{pmatrix} x_1\\ \vdots\\ x_n \end{pmatrix}y=(y1yn)y = \begin{pmatrix} y_1\\ \vdots\\ y_n \end{pmatrix} の内積は xy=x1y1++xnyn x \cdot y = x_1 \overline{y_1} + \cdots + x_n \overline{y_n} と表されます。つまり, xy=xy x \cdot y = x^{\top} \overline{y} です。これを元にすると次の定理が成り立ちます。

定理

x,yx , ynn 次元ベクトルとする。このとき次の式が成立する。 x(Ay)=(Ax)y x \cdot (Ay) = (A^{\ast} x) \cdot y

証明

x(Ay)=xAy=x(A)y=xAy=(Ax)y=(Ax)y\begin{aligned} x \cdot (Ay) &= x^{\top} \overline{Ay}\\ &= x^{\top} \left( {\overline{A}}^{\top} \right)^{\top} \overline{y} \\ &= x^{\top} A^{\ast \top} \overline{y}\\ &= (A^{\ast} x)^{\top} \overline{y}\\ &= (A^{\ast} x) \cdot y \end{aligned}

ユニタリ行列の定義の同値性

ユニタリ行列の定義と性質の証明 の性質を示します。

直交行列は UU=IU^{\top} U = I を満たすのでした。

ユニタリ行列(UU=IU^{\ast} U = I を満たす行列)を直交行列の複素数版と考えてみると同様な性質があります。

定理

次の条件は同値である。

  1. UU はユニタリ行列である。
  2. UU の行ベクトルは正規直交基底である。
  3. UU の列ベクトルは正規直交基底である。
  4. Ux=x\| Ux \| = \| x \|
  5. (Ux)(Uy)=xy(Ux) \cdot (Uy) = x \cdot y

定義が同値であることを確認しましょう。

2番と3番はほとんど同じ条件であるため,1・3・4・5の同値性を確かめます。

141 \Rightarrow 4

証明

Cn\mathbb{C}^n のベクトルの内積 xy=xyx \cdot y = x^{\top} \overline{y} で表される。

よって Ux2=(Ux)(Ux)=(Ux)Ux=xUUx=xx=x2\begin{aligned} \| U x \|^2 &= (Ux) \cdot (Ux) \\ &= (Ux)^{\top} \overline{Ux} \\ &= x^{\top} U^{\top} \overline{U} \overline{x}\\ &= x^{\top} \overline{x}\\ &= \| x \|^2 \end{aligned} となる。

454 \Rightarrow 5

証明

内積について,中線定理 x,y=14(x+y2xy2+ix+iyixiy)\begin{aligned} \langle x,y \rangle &= \dfrac{1}{4} (\| x+y \|^2 - \| x-y \|^2\\ &\qquad \quad + i \| x+iy \| - i \| x-iy \|) \end{aligned} が成立する。→ ノルム空間

ここで Ux+Uy=U(x+y)=x+y \| Ux + Uy \| = \| U(x+y) \| = \| x+y \| であるため, (Ux)(Uy)=xy (Ux) \cdot (Uy) = x \cdot y となる。

525 \Rightarrow 2

証明

UUnn 本のベクトルを {vi}i=1,,n\{ v_i \}_{i = 1 , \cdots , n} とおく。

Cn\mathbb{C}^n の単位ベクトルを {ei}i=1,,n\{ e_i \}_{i = 1 , \cdots , n} とする。(eie_iii 成分のみが 11 でその他の成分が 00 である列ベクトル)

このとき vi=Uei v_i = U e_i が成り立つ。

よって vivj=(Uei)(Uej)=eiej={1(i=j)0(ij)\begin{aligned} v_i \cdot v_j &= (U e_i) \cdot (U e_j)\\ &= e_i \cdot e_j\\ &= \begin{cases} 1 &(i=j)\\ 0 &(i \neq j) \end{cases} \end{aligned} となり,正規直交基底であることが分かる。

212 \Rightarrow 1

証明

UUnn 本のベクトルを {vi}i=1,,n\{ v_i \}_{i = 1 , \cdots , n} とおく。このとき U=(v1vn)U = \begin{pmatrix} v_1 \cdots v_n \end{pmatrix} である。

計算すると, (UU)ij=vivj (U^{\top} \overline{U})_{ij} = v_i \cdot v_j である。

vivj=vivjv_i^{\top} \overline{v_j} = v_i \cdot v_j であり,{vi}\{ v_i \} は正規直交基底であることから (UU)ij={1(i=j)0(ij) (U^{\top} \overline{U})_{ij} = \begin{cases} 1 &(i=j)\\ 0 &(i \neq j) \end{cases} が従う。こうして UU=IU^{\top} \overline{U} = I となる。

随伴行列が関係する用語

随伴行列は様々なところで登場します。

中線定理を使うところが大変でしたね。