正規行列の意味と3つの代表例
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正方行列 が を満たすとき, を正規行列(normal matrix)と言う。
ただし, は の随伴行列(共役転置)を表します。
※正則行列(逆行列が存在する行列)とはまったくの別物です。
正規行列の例
正規行列の例
正規行列の中でも,以下の3つが重要です。
1. エルミート行列(対称行列)
- を満たす行列のことをエルミート行列と言います。→エルミート行列とその性質,ユニタリ対角化の証明
- 成分が実数の場合は対称行列です。
- エルミート行列は正規行列です。 が簡単に確認できます。
2. 歪エルミート行列(交代行列)
- を満たす行列のことを歪エルミート行列と言います。
- 成分が実数の場合は交代行列です。→交代行列の定義と性質
- 歪エルミート行列は正規行列です。 が簡単に確認できます。
3. ユニタリ行列(直交行列)
- を満たす行列のことをユニタリ行列と言います。→ユニタリ行列の定義と性質の証明
- 成分が実数の場合は直交行列です。
- ユニタリ行列は正規行列です。 が簡単に確認できます。
正規行列の意味
正規行列の意味
定義式 だけを見ていても「正規」っぽさがわからないですね。
正規行列の意味を理解するためには,以下の定理が重要です。
が正規行列 はユニタリ行列で対角化可能(※)
※「あるユニタリ行列 と対角行列 が存在して と表せる」という意味です。
つまり,正規行列は「固有ベクトルたちで直交基底が作れる行列」と言えます。
では定理1を証明します。
こちらは簡単。 なら であり
対角行列は正規行列()なので
任意の正方行列はユニタリ三角化できる(有名な定理。行列のサイズに関する帰納法で証明できる):
ただし はユニタリ行列で は上三角行列。
が正規行列なら, より を得る。つまり は正規行列。正規かつ上三角なら対角行列(→後述の補題)なので は対角行列。つまり はユニタリ対角化になっている。
正規行列かつ上三角行列なら,対角行列。
成分計算すればわかる。例えば 行列の場合は
に対して
-
と の 成分が等しいなら
よって -
さらにこの結果を使って, と の 成分が等しいなら
よって
行列の場合も 成分を から まで順番に計算していけばよい。
正規行列と固有値
正規行列と固有値
正規行列において,固有値分布が特殊な場合がさきほど紹介した3つの行列になります。
正規行列 について,
- のすべての固有値が実数 はエルミート行列
- のすべての固有値が純虚数(または ) は歪エルミート行列
- のすべての固有値が絶対値 はユニタリ行列
複素数平面で図示するとおもしろいです。
定理の 向きは「エルミート行列」「歪エルミート行列」「ユニタリ行列」の有名な性質である。それぞれ以下の記事で証明している:
以下, を証明する。
が正規行列なら,定理1よりユニタリ対角化可能:
よって,
- の固有値が実数なら より となり はエルミート行列
- の固有値の実部が なら より となり は歪エルミート行列
- の固有値の絶対値が なら より となり はユニタリ行列
「重要な3つの行列を含む」という意味でおもしろいですが,一般の正規行列が活躍する応用を私は知りません。誰か教えてください!