直交行列の5つの定義と性質の証明

直交行列の同値な5つの定義,同値であることの証明,性質および具体例を解説します。

直交行列の定義

直交行列は5つの同値な条件で定義される

n×nn\times n の実正方行列 UU に対して,以下の5つの条件は同値です。この条件のいずれか1つでも(従って全部)満たすとき UU を直交行列と言います。

直交行列の同値な5つの定義
  1. U=U1U^{\top}=U^{-1}

  2. UUnn 本の行ベクトルが正規直交基底をなす

  3. UUnn 本の列ベクトルが正規直交基底をなす

  4. 任意の xRnx\in \mathbb{R}^n に対して Ux=x\|Ux\|=\|x\|

  5. 任意の x,yRnx,y\in\mathbb{R}^n に対して UxUy=xyUx\cdot Uy=x\cdot y

  • 5つとも重要です,覚えましょう。
  • 「正規直交」とは,全てのベクトルの長さが 11 で異なる二本のベクトルの内積が 00 であることを意味します。
  • 4は「変換でベクトルのノルム(長さ)が変わらない」,5は「変換で二つのベクトルの内積が変わらない」ことを表しています。

二次元の回転行列: Rθ=(cosθsinθsinθcosθ)R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} は直交行列である(直交行列の定義1~5をそれぞれ確認してみるとおもしろい)。

以下では,直交行列の4つの性質を紹介したあと,上の5つの条件が同値であることを証明します。

性質1:直交行列の行列式は1か-1

直交行列の性質1

直交行列の行列式は 11 または 1-1

例えば,Rθ=(cosθsinθsinθcosθ)R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} の行列式は 11 ですね。

証明

「積の行列式=行列式の積」なので,

1=detI=det(UU1)=detUdetU1\begin{aligned} 1 &= \det I\\ &=\det (UU^{-1})\\ &=\det U\det U^{-1} \end{aligned}

ここで,直交行列の定義1より,上式は

detUdetU \det U\det U^{\top}

と等しい。さらに,detU=detU\det U=\det U^{\top} を使うと,結局 1=(detU)21=(\det U)^2 である。

よって detU=±1\det U=\pm 1 を得る。

性質2:直交行列の逆行列も直交行列

直交行列の性質2

直交行列の逆行列も直交行列

例えば,Rθ=(cosθsinθsinθcosθ)R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} の逆行列は (cosθsinθsinθcosθ)\begin{pmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\-\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} で直交行列ですね。

証明

直交行列の定義1〜3を使う。

UU が直交行列

UU の列ベクトルが正規直交基底をなす

UU^{\top} の行ベクトルが正規直交基底をなす

U1U^{-1} の行ベクトルが正規直交基底をなす

U1U^{-1} が直交行列

性質3:対称行列は直交行列で対角化可能

直交行列の性質3

対称行列は直交行列で対角化できる。

詳細は 対称行列の固有値と固有ベクトルの性質の証明 で解説しています。

ちなみに複素数バージョンだと「エルミート行列はユニタリー行列で対角化できる」となります。

性質4:直交行列の固有値の絶対値は1

直交行列の性質4

直交行列の固有値 λ\lambda について,λ=1|\lambda|=1

注:一般に,固有値 λ\lambda は複素数です。

例えば,Rθ=(cosθsinθsinθcosθ)R_\theta=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} の固有方程式は λ22λcosθ+1=0\lambda^2-2\lambda\cos\theta+1=0 より λ=cosθ±isinθ\lambda=\cos\theta\pm i\sin\theta となり λ=1|\lambda|=1 ですね。

証明

直交行列 UU の固有値を λ\lambda,固有ベクトルを x(0)x (\neq \boldsymbol{0}) とする。このとき, Ux=λxUx=λx=λx \begin{aligned} Ux &= \lambda x\\ \therefore \|Ux\| &= \|\lambda x\| = |\lambda| \|x\| \end{aligned} ここで,直交行列の定義4(※)より Ux=x \|Ux\| = \|x\| であるから,2式より x=λx \|x\| = |\lambda| \|x\|

x0\|x\| \neq 0 より, λ=1 |\lambda| = 1

※厳密には,xx が複素ベクトルのときにも Ux=x\|Ux\|=\|x\| であることを確認しておく必要があります。

性質5:直交行列の積も直交行列

直交行列の性質5

直交行列 U,UU,U' に対して UUUU' も直交行列

証明

UUx=Ux=x \| UU' x \| = \| U'x \| = \| x \| より従う。

5つの定義が同値であることの証明

直交行列の同値な5つの定義(再掲)
  1. U=U1U^{\top}=U^{-1}

  2. UUnn 本の行ベクトルが正規直交基底をなす

  3. UUnn 本の列ベクトルが正規直交基底をなす

  4. 任意の xRnx\in \mathbb{R}^n に対して Ux=x\|Ux\|=\|x\|

  5. 任意の x,yRnx,y\in\mathbb{R}^n に対して UxUy=xyUx\cdot Uy=x\cdot y

まず1,2,3の同値性を証明します。

1と2が同値であることの証明

UU の第 ii 行(横ベクトル)を uiu_i^{\top} とおくと,UUUU^{\top}ijij 成分は uiuju_i^{\top} u_j となる。よって,1と2の条件はいずれも uiuju_i^{\top} u_ji=ji=j のとき 11iji\neq j のとき 00 であることを表している。

1と3が同値であることの証明

1と2が同値であることの証明とほぼ同じ(UU=IU^{\top}U=I を考える)。

ここから,1→5→4→3を証明することで5と4を仲間に入れます。

1ならば5の証明

UxUxUyUy の内積は,xUUyx^{\top}U^{\top}Uy

であり,UU=IU^{\top} U=I なのでこれは xxyy の内積と一致する。

5ならば4の証明

5で y=xy=x とすると Ux2=x2\|Ux\|^2=\|x\|^2,つまり Ux=x\|Ux\|=\|x\|

4ならば3の証明

UUii 列目を uiu_i とおく。

x=eix=e_i (第 ii 成分が 11 で残りが 00 であるような縦ベクトル)を4に入れると ui=1\|u_i\|=1 が分かる。次に x=ei+ej(ij)x=e_i+e_j\:(i\neq j) を4に入れると ui+uj=2\|u_i+u_j\|=\sqrt{2} が分かる。両辺二乗すると,uiuj=0u_i\cdot u_j=0 が分かる。

直交行列の例

  • 置換行列(各行,各列に 11 が一つずつある行列) (010100001)\begin{pmatrix}0&1&0\\1&0&0\\0&0&1\end{pmatrix}

  • アダマール行列(の定数倍) 12(1111111111111111)\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix}1&1&1&1\\1&-1&1&-1\\1&1&-1&-1\\1&-1&-1&1\end{pmatrix} →アダマール行列の定義と性質

なお,直交行列の概念を複素行列に拡張したものをユニタリー行列と言います。

私は置換行列が結構好きです。