ユニタリ行列の定義と性質の証明

ユニタリ行列の同値ないくつかの定義と,その性質を説明します。 ユニタリ行列の定義

定義

n×nn \times n の複素行列 UU について,以下の(同値な)どれかの条件を満たすときユニタリ行列(unitary matrix)と言います。

ユニタリ行列の定義
  1. U=U1U^{*}=U^{-1}

  2. UUnn 本の行ベクトルが正規直交基底をなす

  3. UUnn 本の列ベクトルが正規直交基底をなす

  4. 任意の xCnx\in \mathbb{C}^n に対して Ux=x\|Ux\|=\|x\|

  5. 任意の x,yCnx,y\in\mathbb{C}^n に対して UxUy=xyUx\cdot Uy=x\cdot y

直交行列とほとんど同じですが,以下のような違いがあります。

  • UU^{*} とは UT\overline{U^T} のことです(転置をとって複素共役をとったもの)。

  • 複素ベクトルの内積は x=(x1,,xn),y=(y1,,yn)x = (x_1, \dots, x_n), y = (y_1, \dots, y_n) のときxy=x1y1++xnynx \cdot y =\overline{x_1}y_1 + \cdots +\overline{x_n}y_nで定義されます。xx の側で複素共役をとることに注意しましょう。これがないと x2=xx\|x\|^2 = x \cdot x が負になったり虚数になったりしてしまいます。(yy の側で複素共役をとる流儀もあります。)

5つの定義の中では,5つ目の定義が感覚的に重要です。「xUxx \mapsto Ux という変換で内積が保たれる」ということを意味しており,ユニタリ行列とは内積を変えないような変換を表す行列だと理解できます。(ユニタリ unitary は「単位的」である,つまり変換の前後でベクトルの内積が 11 倍になるという意味です。)

例1

U=12(11ii)U=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1&1\\-i&i\end{pmatrix} はユニタリ行列です。例えば定義2を確かめるには

x=12(1,1),y=12(i,i)x = \frac{1}{\sqrt{2}}(1, 1), y = \frac{1}{\sqrt{2}}(i, -i)としてxx=12(12+12)=1x \cdot x = \frac{1}{2}(1^2+1^2)=1yy=12((i)(i)+ii)=1y \cdot y = \frac{1}{2}\left((-i)\cdot\overline{(-i)}+i \cdot \overline{i}\right) =1xy=12(1i+1(i))=0x \cdot y = \frac{1}{2}\left(1 \cdot \overline{i} + 1 \cdot \overline{(-i)}\right) = 0と計算すればよいです。

例2

直交行列はユニタリ行列です。実行列に対しては U=UTU^{*} = U^{T} なので,定義1の U=U1U^{*}=U^{-1} が直交行列の条件 UT=U1U^T = U^{-1} になるからです。

性質

ユニタリ行列は直交行列の拡張なので,直交行列と似たような性質が成り立ちます。

性質1:行列式は絶対値1

ユニタリ行列の行列式は絶対値1の複素数である。

証明

直交行列の場合とほとんど同じ。

性質2:積、逆行列もユニタリ

ユニタリ行列の積,逆行列もユニタリ行列である(n×nn \times n ユニタリ行列全体は群をなす)。

証明

定義5によりユニタリ行列とは内積を変えないような変換を表す行列だと考えると,積(=2つの変換の合成)、逆行列(=逆変換)によっても内積が保たれるのは明らか。

ユニタリ行列についての直感を持っていればほとんど明らかな性質です!

性質3:エルミート行列はユニタリ対角化可能

エルミート行列はユニタリ行列によって対角化できる。

これはエルミート行列についての記事で詳しく扱います。詳しくはエルミート行列とその性質,ユニタリ対角化の証明 をご覧ください。

性質4:固有値の絶対値は1

ユニタリ行列の固有値は絶対値 11 の複素数である。

証明

固有ベクトル x0x \neq 0 と対応する固有値 λ\lambda をとると,Ux=λxUx=\lambda xである。ユニタリ行列は長さを変えない変換を表す(定義4)ので,両辺の長さを比べるとx=λx\|x\|=|\lambda|\|x\|となる。これを x\|x\| で割ることで得られる。

n=1,2n=1, 2 のときの表示

nn が小さいときの n×nn \times n ユニタリ行列全体の集合 U(n)U(n) がどのようになっているか考えてみましょう。

  • n=1n=1 のとき

1×11 \times 1 ユニタリ行列は,絶対値 11 の複素数全体です。複素数平面上で図形的に考えると、 U(1)U(1) は単位円周だと見なすことができます。

  • n=2n=2 のとき

2×22 \times 2 ユニタリ行列は、α2+β2=1|\alpha|^2+|\beta|^2=1 を満たす複素数 α,β\alpha, \beta と実数 θ\theta によりU=(αβeiθβeiθα)U=\begin{pmatrix}\alpha &\beta \\-e^{i\theta}\overline{\beta}&e^{i\theta}\overline{\alpha}\end{pmatrix}と表すことができます。U(1)U(1) と違い図形的な解釈は難しいですが,その自由度(実数いくつ分のパラメータで表せるか)は 44 であることが表示からわかります。(複素数 α,β\alpha, \beta と実数 θ\theta で実数 55 つ分の自由度があり,拘束条件 α2+β2=1|\alpha|^2+|\beta|^2=1 により 11 つ減って 44 になる。)より一般に,U(n)U(n) の自由度は n2n^2 になることが知られています。

数学だけでなく物理でも重要な概念です。