エルミート行列とその性質,ユニタリ対角化の証明
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複素行列 が を満たすとき,(次の)エルミート行列(Hermitian matrix)という。ただし は転置して複素共役をとった行列。
エルミート行列は対称行列の複素数バージョンです。エルミート行列の具体例と性質を紹介します。
例
例
例えばはエルミート行列です。実際に転置して共役をとってみるととなり, 自身に一致します。他にも実対称行列,つまり を満たす実行列は常にエルミート行列となることがわかります。(実行列なので複素共役をとっても変わらないから。)
がエルミート行列になるような の値を求めよ。
共役転置はとなる。これが と一致する条件は である。
性質1:自由度は
性質1:自由度は
具体例や練習問題の解答を見ると,エルミート行列は
- 対角成分は全て実数
- 右上の成分によって左下の成分が決まる
という性質を持っていることがわかります。 次正方行列なら対角成分は 個,右上の成分は 個あるため、エルミート行列は 個の実数と 個の複素数で決まることになります。複素数は 個の実数で決まるため、結局 個の実数によって決まることがわかります。
次エルミート行列の自由度(次元)は である。
性質2:固有値は実数
性質2:固有値は実数
実対称行列の場合と同様に,エルミート行列の固有値は必ず実数になります。
エルミート行列の固有値は実数である。
エルミート行列 について,その固有値 と、 に対する固有ベクトル をとる。
- 固有値の定義より
- 共役転置をとって , より
これらを使って複素数 を次のように変形する。
ここで は のとき正の値だから, となる。
性質3:固有ベクトルは直交
性質3:固有ベクトルは直交
次の性質も実対称行列の場合と同様です。
エルミート行列の異なる固有値 に対応する固有ベクトル は直交する。
実対称行列の場合と全く同様である。
この性質は次のように解釈することもできます。
エルミート行列の異なる固有値 に対応する固有空間 は直交する。
これだけでも面白い性質ですが,より強く「任意のエルミート行列 について,その固有ベクトルたちからなる の正規直交基底をとる」ことができます。それが次に紹介するユニタリ対角化です。
性質4:ユニタリ対角化可能
性質4:ユニタリ対角化可能
エルミート行列 に対して,適切なユニタリ行列 をとることで を対角行列にできる。
例
実際にエルミート行列を対角化してみましょう。
がユニタリ行列で対角化できることを確かめよ。
固有多項式を計算する。
これより固有値は である。それぞれの固有ベクトルとしてノルムが のものを取る。
を の固有ベクトルとすると, より の固有ベクトルとして を取ることができる。
同様に計算すると, の固有ベクトルとして , の固有ベクトルとして が得られる。
この3つを並べた によって を対角化できる。
となるため, である。よって はユニタリ行列である。
証明
証明の前に, がエルミート, がユニタリなら もエルミートになることを注意しておきます。これは例えば という計算からわかります。(1つ目の変形は という性質を,2つ目の変形は がエルミートだという仮定 と という性質を使った。 がユニタリであることは の の部分で使っている。)
さて,証明の方針ですが基本的なアイデアは分割して帰納法です。 行列 をより小さい行列 と に分解して数学的帰納法を適用します。
を のエルミート行列とする。 の固有値 を1つとり,その固有空間を とする。つまりとする。もし なら は によるスカラー倍に等しいから,既に対角行列である。よって以下では だとする。また の直交補空間を とする。このときつまり の基底と の基底を合わせたものが の基底をなす。そこで を の正規直交基底とし, を の正規直交基底とすれば,これらを合わせた は の正規直交基底となる。
さらに,が成り立つ。なぜなら のとき より も固有値 の固有ベクトル(or )であり、 のときは についてより も と直交するからである。
よって, は の元だから の線型結合で表せ,同様に も の線型結合で表せる。そこで を縦ベクトルと見て横に並べた行列 を考えると, は 行列 と 行列 により という形に表せる。(これは次のようにしてわかる。例えば は の線型結合として のように書けるはずであり, より となることを使うと となるから, の第 列は上 個の成分しか持たない。他の列も同様。)
さらに がユニタリ行列であることから はエルミート行列であり,特に と もエルミート行列である。 より だから,数学的帰納法により は および の ユニタリ行列 によって対角化できるとしてよい。そこで のユニタリ行列 を により定義すると, となり, の取り方からこれは対角行列である。よって はユニタリ行列 によって対角化できた。
行列の対角化の意味(→行列の対角化の意味と具体的な計算方法)を考えることで,この性質は次のようにも言い表せます。
エルミート行列 について、 の固有ベクトルたちからなる の正規直交基底が存在する。
量子力学における物理量は,(無限次元の)エルミート行列を使って表現されます。