ノルム空間

ノルム空間

VV は(複素)ベクトル空間とする。

 :VR\| \ \|:V\to\mathbb{R} が以下の1~4を満たすときに, \| \ \|ノルムといい,VVノルム空間という。

  1. x+yx+y\| x+y \| \leqq \| x \| + \| y \|(三角不等式)
  2. cx=cx\| cx \| = |c| \| x \|xVx \in VcCc \in \mathbb{C}
  3. x0\| x \| \geqq 0
  4. x=0    x=0\| x \| = 0 \iff x = 0

ノルム空間 VV のことを,ノルムを明記して (V, )(V, \| \ \| ) と表記することもあります。

この記事では絶対値の一般化である「ノルム」を有するノルム空間について解説します。

様々なノルム空間の例

ノルム空間の例をいくつか見てみましょう。

R\mathbb{R}C\mathbb{C}

xCx \in \mathbb{C} に対して x|x|(通常の意味での絶対値)はノルムの定義を満たします。

Rn\mathbb{R}^n

もっとも基本的なノルムは「線分の長さ」でしょう。

x=(x1,,xn)Rnx = (x_1, \cdots , x_n) \in \mathbb{R}^n に対して x=x12++xn2 \| x \| = \sqrt{{x_1}^2 + \cdots + {x_n}^2} と定めると,これはノルムになります。(ユークリッド距離

ちょっと毛色を変えてみましょう。

11 以上の実数 pp に対して xp=x1p++xnpp \| x \|_p = \sqrt[p]{|x_1|^p+\cdots +|x_n|^p} と定義してもこれはノルムになります。これは LpL_p ノルムと呼びます。

特に p=1p=1 のときは x1=x1++xn \| x \|_1 = |x_1| + \cdots + |x_n| となります。これはマンハッタン距離といいます。

詳しくはこちらもどうぞ → ノルムの意味とL1,L2,L∞ノルム

関数のノルム

最大値

[a,b][a,b] 上の連続関数 ff について f=maxx[a,b] f(x) \| f \| = \max_{x \in [a,b]} \ | f(x) | はノルムになります。

pp ノルム

関数にも Rn\mathbb{R}^n と同様にノルムを定めることができます。

pp11 以上の実数とします。[a,b][a,b] 上で定義された関数 ff に対して fp=(abf(x)pdx)1p \| f \|_p = \left( \int_a^b |f(x)|^p dx \right)^{\frac{1}{p}} と定義します。 Lp([a,b])={fC([a,b])fp<} \mathscr{L}^p ([a,b]) = \{ f \in C([a,b]) \mid \| f \|_p < \infty \} とおきます。

このとき (Lp, p)(\mathscr{L}^p , \| \ \|_p) はノルム空間になります。

内積空間

内積空間は自然にノルム空間になります。

内積空間 (V, )(V, \langle \, \ \rangle) に対して xV=x,x \| x \|_V = \sqrt{\langle x,x \rangle} と定めると,VV はノルム空間になります。

ノルム空間は内積空間になるのか?

  • さきほどみたように,内積空間はノルム空間になります。
  • 一方,ノルム空間が内積空間になるとは限りません。

ノルム空間であるが内積空間ではない例

[a,b][a,b] 上の連続関数の集合 C([a,b])C([a,b]) を考える。

f= maxx[a,b]f(x) \| f \| =~ \max_{x \in [a,b]} |f(x)| はノルムを定めるのであった。

こうして定義されたノルム空間 C([a,b], )C([a,b], \| \ \|) は内積空間にならない。

証明

内積空間であると仮定すると中線定理 x+y2+xy2=2(x2+y2) \| x+y \|^2 + \| x-y \|^2 = 2 \left( \| x \|^2 + \| y \|^2 \right) が成り立つのであった。

今,x=1x = 1y=ty = t とおくと x=1, y=1x+y=t+1=2xy=t1=1 \| x \| = 1 , \ \| y \| = 1\\ \| x+y \| = \| t+1 \| = 2\\ \| x-y \| = \| t-1 \| = 1 であるため x+y2+xy2=2+14=2(1+1)=2(x2+y2)\begin{aligned} &\| x+y \|^2 + \| x-y \|^2 \\ &= 2+1\\ &\neq 4\\ &= 2(1+1)\\ &= 2 \left( \| x \|^2 + \| y \|^2 \right) \end{aligned} となる。

ノルム空間が内積空間になる条件

定理

実ノルム空間 VV について,中線定理 x+y2+xy2=2(x2+y2) \| x+y \|^2 + \| x-y \|^2 = 2 \left( \| x \|^2 + \| y \|^2 \right) が成立するとき, x,y=14(x+y2xy2) \langle x,y \rangle = \dfrac{1}{4} (\| x+y \|^2 - \| x-y \|^2) により内積が定まる。

またこうして得られた内積において x,x=x \langle x,x \rangle = \| x \| となる。

複素ノルム空間のとき

複素ノルム空間の場合は x,y=14(x+y2xy2+ix+iyixiy) \langle x,y \rangle = \dfrac{1}{4} (\| x+y \|^2 - \| x-y \|^2 + i \| x+iy \| - i \| x-iy \|) と定義すれば内積になります。

Rn\mathbb{R}^n

Rn\mathbb{R}^n の自然なノルム(x=x12++xn2\| x \| = \sqrt{{x_1}^2 + \cdots + {x_n}^2})で中線定理が成り立つため,Rn\mathbb{R}^n は内積空間になる。

Lp\mathscr{L}^p

定理

Lp\mathscr{L}^pp=2p=2 のとき内積空間になる。

証明

f+gp=abf(x)+g(x)pdxab(f(x)p+g(x)p)dx2max(f,g)2pmax(fp,gp)2p(fp+gp)\begin{aligned} &\| f+g \|^p\\ &= \int_a^b | f(x) + g(x) |^p dx\\ &\leqq \int_a^b (|f(x)|^p + |g(x)|^p) dx\\ &\leqq 2 \max (|f| , |g|)\\ &\leqq 2^p \max (|f|^p , |g|^p)\\ &\leqq 2^p (|f|^p + |g|^p) \end{aligned} より p=2p = 2 のとき中線定理が成り立つため,内積空間になる。

※ 特に内積は f,g=abf(x)g(x)dx \langle f,g \rangle = \int_a^b f(x) \overline{g(x)} dx で与えられる。

ノルム空間と極限

ノルム空間では極限を考えることができます。

定義

ノルム空間 (V, )(V, \| \ \|) の点列 {xn}nN\{ x_n \}_{n \in \mathbb{N}} を取る。

点列 {xn}\{ x_n \}xx に収束するとは limnxnx=0 \lim_{n \to \infty} \| x_n - x \| = 0 を満たすことを意味する。このとき limnxn=x\displaystyle \lim_{n \to \infty} x_n = x と書く。

VV の任意の点列が VV の元に収束するとき,VV完備であるという。

中線定理が実は内積とノルムを繋げる本質であるのは興味深いです。