絶対値の意味と性質・記号の外し方・絶対値を含む式の計算方法

実数 xx に対して「符号(プラスマイナス)を除いたもの」を絶対値といい,x|x| と表す。

絶対値の意味

実数の絶対値の定義・記号の外し方

絶対値記号の計算例

例として 55 の絶対値 5|5| を考えます。絶対値は,+5+5 の符号を除いたもの 55 なので 5=5|5|=5 となります。 このように00 以上の数の絶対値はもとの数のままになります。

次に,2|-2| の絶対値を考えます。絶対値は,2-2 の符号を除いたもの 22 なので,2=2|-2|=2 となります。このように00 未満の数の絶対値はもとの数をマイナス1倍したものになります。

以上を合わせると,実数 xx の絶対値 x|x| は,

x={x(x0)x(x<0) |x| = \begin{cases} x & (x\geqq 0) \\ -x & (x < 0 ) \end{cases}

と表すこともできます(場合分けの式)。

絶対値の図形的な意味

  • 実数の絶対値は,数直線における原点からの距離を表すことも分かります。
  • 例えば,2=2|-2|=2 でしたが,2-2 と原点 OO との距離は確かに 22 です。

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0の絶対値

0の絶対値 0|0| はどうなるでしょうか。

  • 00 にはもともと符号は無く,0=0|0| = 0 となります。
  • 「絶対値は,数直線における原点からの距離」という意味でも 0=0|0|=0 がわかります。

平方根を含んだ値の絶対値

次に,平方根(ルート)を含んだ値の絶対値を考えます。

例えば 32| \sqrt3 - 2 | について考えます。 場合分けの式に当てはめるために,絶対値の中身の正負を考えます。

3\sqrt32(=4)2 \left( = \sqrt4 \right) では 22 の方が大きいので,32\sqrt3 - 2 は負です。

よって,00 未満の数の絶対値はもとの数をマイナス1倍したものなので,32=(32)=23| \sqrt3 - 2 | = -\left( \sqrt3 - 2 \right) = 2-\sqrt3 となります。

絶対値の値から数を求める

ここまでは,実数の絶対値の求め方を見てきました。次は「絶対値が○○になる実数」を求めてみましょう。

例えば,絶対値が 44 になる実数はいくつでしょうか。

これは「数直線上で原点からの距離が 44 の点」を求めればよいです。 このとき,原点から正と負の両方向を考えることに注意してください。

答えは 444-4 の2つとなります。

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文字式の絶対値の定義・解の求め方

絶対値の中身に文字が含まれている場合の計算方法について説明します。

数式の処理

変数が1つの場合

例えば a3+a|a-3| + a のような式はどう処理すればよいでしょうか。

  • a=5a=5 を代入すると 53+5=2+5=7|5-3| + 5 = |2| + 5 = 7 です。
  • a=2a=2 を代入すると 23+2=1+2=3|2-3| + 2 = |-1| + 2 = 3 です。

このように,a3a-3 の正負で絶対値の計算の仕方が異なることが分かります。

場合分けの式で表すと,

a3={a3(a30)3a(a3<0) |a-3| = \begin{cases} a-3 & (a-3 \geqq 0) \\ 3-a & (a-3 < 0) \end{cases}

となります。

よって,上の式を aa の値で場合分けをすると,以下のようになります。

a30a-3 \geqq 0,つまり a3a \geqq 3 のとき,a3+a=(a3)+a=2a3|a-3| + a = \left( a-3 \right) + a = 2a - 3

a3<0a-3 < 0,つまり a<3a < 3 のとき,a3+a=(a+3)+a=3|a-3| + a = \left( -a+3 \right) + a = 3

このように,絶対値の中身の正負で場合分けをすることで,絶対値を外して考えることができます。

変数が複数ある場合

次に,ab|a-b| について考えてみます。さきほどと同様に,絶対値の中身の正負を考えて場合分けをしてみます。

ab={ab(ab0)ba(ab<0) |a-b| = \begin{cases} a-b & ( a-b \geqq 0 ) \\ b-a & ( a-b < 0 ) \end{cases} さらに,ab0a-b\geqq 0aba\geqq b と同値であることなどより,

ab={ab(ab)ba(a<b) |a-b| = \begin{cases} a-b & ( a \geqq b ) \\ b-a & ( a < b ) \end{cases}

と表すこともできます。具体的に数値を代入してみるとイメージがつきやすいです。

a=1,b=3a=1 , b=3 なら,ab=13=31=2|a-b| = | 1 - 3 | = 3 - 1 = 2 ですね。

より複雑な場合(2次式,高次の式,整式出ない場合など)でも,絶対値の中身の正負で場合分けをして考えることが大切です。

図形的な解釈

絶対値は,図形的には「数直線上での原点からの距離」でした。では ab|a-b| は何を意味するでしょうか。

数直線上での aabb の距離になります。

実際,aabb の距離は,

  • aba \geqq b のとき(つまり ab0a-b \geqq 0 のとき)aba-b
  • a<ba < b のとき(つまり ab<0a-b < 0 のとき)bab-a

ですが,これはさきほどの ab|a-b| の式と一致しています。

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a+b|a+b| の意味も考えてみましょう。これは,a(b)|a-(-b)| とみることで,aab-b の距離といえます。また,a+b=b+a|a+b|=|b+a| なので,b(a)|b-(-a)| とみることで,a-abb の距離とみることもできます。

数学では,図形的に解釈したり,視覚的に分かりやすく整理することで理解が深まることも多いです。このような見方も大切にしましょう。

絶対値の性質

絶対値の性質を紹介します。 絶対値は,以下の性質を満たします。

  • 非負性 : 必ず 00 以上である。 a0|a|\geqq 0
  • 非退化性 : a=0a=0 のときに,またそのときのみ a=0|a|=0 になる。
  • 偶性 : 原点に関して対称である。 a=a|-a|=|a|
  • 劣加法性(三角不等式) : a+ba+b|a+b|\leqq|a|+|b|
  • 冪等性(べきとうせい) : 操作を複数回繰り返しても結果が変わらない。 a=a||a||=|a|
  • 乗法性 : ある2数の積の絶対値と,その2数の絶対値の積は同じ値になる。 ab=ab|ab|=|a|・|b|

また、この他にも,ある2数の比の絶対値と,その2数の絶対値の比は同じ値になるという性質も持ちます。式で表すと ab=ab\left|\dfrac{a}{b} \right|=\dfrac{|a|}{|b|} のようになります。

具体的な値を代入して考えてみると,それぞれの性質の理解が深まります。

また,三角不等式は実数以外でも考えることができます。→いろいろな三角不等式(絶対値,複素数,ベクトル)

絶対値を含む計算問題

絶対値を含む方程式,不等式についての計算問題です。

絶対値を含む方程式

x+2=3|x+2|=3 の解を求めよ。

さきほどと同様に,絶対値の中身の正負で場合分けをして考えましょう。

  • x+20x+2\geqq 0,つまり x2x\geqq -2 のとき

 x+2=3x+2=3x=1\begin{aligned}  |x+2| & = 3 \\ x+2 & =3 \\ x & =1 \end{aligned}

  • x+2<0x+2 <0,つまり x<2x<-2 のとき

 x+2=3(x+2)=3x2=3x=5\begin{aligned}  |x+2| & = 3 \\ -(x+2) & =3 \\ -x-2 & =3 \\ x & = -5 \end{aligned}

以上より,答えは x=1,5x=1,-5 となります。このように「絶対値の中身の正負で場合分け」という解法は,絶対値を含むあらゆる場合に使えます。

別解

場合分けをしない解法もあります。具体的には,絶対値が 33 になる実数は ±3\pm3 であることを利用して絶対値をはずします:

x+2=3x+2=±3x=2±3x=1,5\begin{aligned} |x+2| &= 3\\ x+2 &= ±3\\ x &= -2±3\\ x &= 1,-5\\ \end{aligned}

別解が使えない場合

x2=2x+3|x-2|=2x+3 のように変数が絶対値の外にもある場合や,x2+x1=3|x-2| + |x-1| =3 のように絶対値が複数ある場合はこの解法は使えません。

絶対値を含む不等式

次は不等式について考えてみます。

例として,x+23|x+2|≤3 を解いてみましょう。

この問題も,場合分けをして考えます。

  • x+20x+2\geqq 0,つまり x2x\geqq -2 のとき

x+23x+23x1\begin{aligned} |x+2| &\leqq3\\ x+2 &\leqq 3\\ x &\leqq 1 \\ \end{aligned}

x2x\geqq -2 と合わせて

  • x+2<0x+2 < 0,つまり x<2x < -2 のとき

x+23(x+2)3x235x\begin{aligned} |x+2| &\leqq 3\\ -(x+2)&\leqq 3\\ -x-2 &\leqq 3\\ -5& \leqq x\\ \end{aligned}

x<2x < -2 と合わせて

以上 (1),(2)(1),(2) より 5x1-5\leqq x \leqq 1

別解

方程式と同様に,不等式でも変数が絶対値の中にしかない場合,別解があります。

別解では,絶対値が数直線の原点との距離であることを利用します。

xa|x|\leqq a というのは「原点と xx の距離が aa 以下」であることを表します。つまり,条件を満たす xx の範囲は axa-a\leqq x \leqq a です。

これを使うと x+23|x+2| \leqq 3 は以下のように解けます: x+233x+235x1\begin{aligned} |x + 2 | \leqq 3 \\ -3\leqq x + 2 \leqq3 \\ -5 \leqq x \leqq 1 \\ \end{aligned}

ちなみに,同様に xa|x|\geqq a というのは「原点と xx の距離が aa 以上」であることを表します。つまり,条件を満たす xx の範囲は xa,axx\leqq -a,a \leqq x です。

絶対値を含む計算の例題

例題1

以下の方程式を解きなさい。

(1)  x5=2(1) \ \ |x-5| = 2

(2)  x24=3(2) \ \ | x^2 - 4| =3

解答

(1)(1) 絶対値が 22 になる実数は ±2\pm 2 です:

x5=2x5=±2x=5±2x=7,3\begin{aligned} |x-5| &= 2 \\ x-5 &= \pm 2 \\ x &= 5 \pm 2 \\ x &= 7,3 \\ \end{aligned}

(2)(2) 中身が2次でもすることは変わりません。 x24=3x24=±3x2=4±3x2=1,7x=±1,±7\begin{aligned} |x^2-4| &= 3 \\ x^2-4 &= \pm 3 \\ x^2 &= 4 \pm 3 \\ x^2 &= 1,7 \\ x &= \pm 1, \pm\sqrt{7} \end{aligned}

もちろん,絶対値の中身の符号で場合分けをして解くこともできます。

例題2

以下の不等式を解きなさい

(1)  x73(1) \ \ |x-7| \leqq 3

(2)  x254(2) \ \ \left| x^2 - 5 \right| \leqq 4

(1)(1) 「絶対値=原点からの距離」を利用して解いてみます:

x733x734x10\begin{aligned} \left|x - 7 \right| \leqq 3 \\ -3 \leqq x - 7 \leqq 3 \\ 4 \leqq x \leqq 10 \end{aligned}

(2)(2) は場合わけで解いてみます。

  • x250x^2 - 5 \geqq 0,つまり,x5,5xx \leqq -\sqrt 5 , \sqrt5 \leqq x のとき

x254x293 x3\begin{aligned} x^2 - 5 &\leqq 4 \\ x^2 &\leqq 9 \\ -3 \leqq \ &x \leqq 3 \end{aligned}

これと,x5,5xx \leqq -\sqrt 5 , \sqrt5 \leqq x をともに満たす範囲を求めると,3x5 ,5x3(1) -3 \leqq x \leqq -\sqrt 5\ , \sqrt5 \leqq x \leqq 3 \tag{1}

  • x25<0x^2 - 5 < 0,つまり 5<x<5-\sqrt 5 < x < \sqrt5 のとき

(x25)4x21x1,1x\begin{aligned} -\left( x^2 - 5 \right) &\leqq 4 \\ x^2 &\geqq 1 \\ x \leqq -1 , &1 \leqq x \end{aligned}

これと,5<x<5-\sqrt 5 < x < \sqrt5 より

5<x1 ,1x<5(2) -\sqrt 5 < x \leqq -1\ , 1 \leqq x < \sqrt5 \tag{2}

以上 (1),(2)(1) , (2) より,3x1 ,1x3 -3 \leqq x \leqq -1\ , 1 \leqq x \leqq 3

絶対値を含む関数のグラフ

絶対値を含む関数のグラフの書き方は,以下の3通りがあります。

  • 絶対値の中身で場合分けする方法
  • 負の部分を折り返す方法
  • maxと見る方法

それぞれの方法について,以下の記事で解説しています。

絶対値を含む関数のグラフの3通りの書き方

高校数学で扱う実数以外の絶対値

高校数学では,実数以外のものの絶対値を考えることもあります。

ベクトルの大きさ

ベクトルとは,向きと大きさを持つ量のことです。ベクトルでは絶対値記号を用いて大きさ(長さ)を表します。

具体的には,ベクトル a=(x,y)\vec{a} = ( x,y ) に対して,その大きさは

a=x2+y2\left| \vec{a} \right| = \sqrt{x^2 + y^2}

と表されます。

複素数の絶対値

複素数 z=a+biz=a+bi の絶対値は z=a2+b2|z|=\sqrt{a^2+b^2} で定義されます。

定義式と三平方の定理から分かるように,複素数の絶対値は「複素数平面における原点からの距離」を表します。

複素数の絶対値の詳細は,複素数の絶対値の定義といろいろな性質に記載しています。

絶対値は「符号を除いたもの」「負のときのみマイナス1倍したもの」「原点からの距離」という3つを理解しておきましょう。

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