リー群入門~定義と線型リー群の例
群 がリー群であるとは,次の2条件を満たすことをいう。
- は多様体である。
- の演算(積および逆元を取る操作)は多様体の 級写像になる。
この記事ではリー群・リー環(リー代数)の入門として,定義と例を紹介します。
一見難しそうな定義ですが,特に扱いやすい ( 正則行列全体の集合)に絞って考えると,これまで線型代数で勉強した様々な行列の集合がリー群を成していることに気付けるはずです。
簡単な性質と例
簡単な性質と例
直ぐに分かるリー群の例をいくつか挙げましょう。
- , は加法についてリー群になる。
- は乗法についてリー群になる。
- は乗法についてリー群になる。
- , はリー群になる( は の正則行列全体がなす群)。
- , はリー群になる( は行列式が である 行列全体がなす群)。
関連する定義
準同型
をリー群とする。写像 がリー群の準同型であるとは,
- は群の準同型
- は 級写像
を満たすことをいう。
例えば包含写像 はリー群の準同型になります。
部分リー群
をリー群とする。 が の部分リー群であるとは,
- はリー群
- は の部分多様体
- 包含写像 がリー群の準同型
のすべてを満たすことをいう。
は の部分リー群になります。
性質
- リー群の閉部分群はリー群である。(位相は双対位相とする)
- リー群の直積はリー群である。(位相は直積位相とする)これを直積リー群という。
- リー群をその閉正規部分群で剰余したものはリー群である。これを商リー群という。
線型リー群
線型リー群
リー群論においては次に紹介する線型リー群というクラスが扱いやすく重要です。
を か とする。 の閉部分群を体 上の線型リー群という。
線型リー群はもちろんリー群になります。( はリー群で,その閉部分群はもちろんリー群です。)
の位相構造
は 行列全体の集合の部分集合です。
行列全体の集合は自然に と見なせます。ここには自然な相構造が入ります。
の位相構造を からの相対位相とします。つまり,開集合系を と定めます。
開集合・閉集合の例
完全に初学である人に向けて簡単な例を紹介します。
行列式が ではない対角行列全体の集合 は の閉部分集合です。
の対角行列全体の集合は と見なせます。これは の閉部分集合 と見なされるため, は の閉部分集合です。
対角成分が で左下の成分が である行列全体の集合は の閉部分集合です。
例えば で考えると となります。これは の閉部分集合 と の共通部分なので, の閉部分集合といえます。
いくつかの性質
上で紹介したリー群の性質はそのまま線型リー群でも成り立ちます。
また閉集合の共通部分は閉集合であり,部分群の共通部分は部分群であるため,次が成立します。
2つの線型リー群の共通部分は線型リー群である。
様々な線形リー群
様々な線形リー群
,
や は線型リー群になります。
実際, を により は の閉部分群と見なせます。
特殊線型群
特殊線型群 は線型リー群です。
直交群
直交行列の集合 は群を成します。これを 直交群 といいます。
直交群は線型リー群になります。
- 群を成すこと
より となる。 が単位元であることは明らかである。また,行列の積は結合律を満たす。こうして群を成すことが分かる。
- 閉集合を成すこと
によって を定義すると, である。
は閉集合であるため, もまた閉集合を成す。
直交群と特殊線型群の共通部分 を特殊直交群といいます。これはリー群とリー群の共通部分であるため,もちろんリー群です。
ユニタリ群
ユニタリ行列の集合 はリー群となります。これを ユニタリ群 といいます。
ユニタリ群と特殊線型群の共通部分 を特殊ユニタリ群といいます。
トーラスとボレル部分群
- の元で対角行列の集合
- の元で上三角行列の集合
はどちらも の閉部分集合になります。( は例で紹介, も と同じように議論すればOKです。)
これらはどちらも部分群にもなるため,線型リー群となります。
を のトーラス, を のボレル部分群といいます。表現論において非常に重要な役割を果たします。
ハイゼンベルク群
の部分集合 は線型リー群になります。(閉部分集合であることは例参照,部分群であることは簡単に計算できます。)
これをハイゼンベルク群といいます。
次回はリー環を紹介します。