群の準同型と準同型定理
群の準同型とは,大雑把には群の構造を保つ写像です。
群 から群 への写像 について,任意の に対して であるとき, を準同型写像と言う。
つまり「演算してから変換」しても「変換してから演算」しても結果が同じになる変換です。
準同型の性質
準同型の性質
群 から群 への写像 が準同型写像なら,
ただし, は の単位元で, は の単位元です。
-
であるため
-
,さらに1より であるため,
※準同型写像 の定義に,上記の1,2を加える場合もありますが,結局 から導けるので加えなくても加えても同じです。
準同型の例
準同型の例
準同型写像の例を4つ紹介します。
自明な準同型
-
群 から群 への写像として,常に を返すものは準同型写像になります。これを自明な準同型と言うことがあります。
-
群 に対して,恒等写像(任意の に対して となる写像)は から への準同型写像です。これを自明な自己準同型と言うことがあります(自分自身への準同型写像のことを自己準同型と言います)。
置換の符号
を 次対称群とします。置換の 符号 は準同型写像です。
なぜなら,任意の に対して だからです。
行列式
行列式 は準同型写像です。ただし,
- は正則な の複素行列全体の集合です。これは行列の通常の掛け算について群を成します。
- は でない複素数全体の集合です。これは通常の複素数の掛け算について群を成します。
なぜなら,行列式 の性質より,任意の に対して だからです。
商写像
を群, をその正規部分群とします。(→正規部分群と剰余群(商群))
から剰余群 への自然な準同型写像が存在します。
を と定めるとこれは準同型になります。
から への写像を で定めると, は全射な準同型。
-
に対して, であるが, の正規性より右辺は と等しい。これは である。つまり, は準同型。
-
の任意の元は,ある を用いて と表される。このとき となる。よって は全射。
同型
同型
2つの群の構造が同じとき,同型と言います。もう少し正確に言うと,以下です。
-
全単射である準同型写像を同型写像と言う。
-
群 , に対して, から への同型写像があるとき, と は同型であると言う。
つまり,同型とは 「1対1対応(全単射)で,変換前後どちらの群で演算しても結果が同じもの(準同型)がある」ということです。
-
は からなる集合です。 には となる演算 が定義され,群です。
-
以下の は通常の積で閉じており,群です。
-
から への写像を, と対応させると,同型写像になります。演算の構造が同じである1対1対応ですね。
このように,一見して別の集合に見えるものの,同じ群の構造が入るとき,2つの群は同型であると言うのです。
同型と逆写像
さて,同型の定義は「全単射かつ準同型」でしたが,実は以下の2のように「準同型な逆写像がある」としてもよいです。
群 から への準同型写像 に対して,以下は同値。
-
は全単射。つまり は同型写像。
-
から への準同型写像 があって,, が恒等写像になる。
-
とおく(符号が である3次の置換全体)。具体的には,
-
とおく。つまり,
これらが同型であることを示す。
を とすると,これは準同型である。
を とすると,これもまた準同型である。
さらに , は恒等写像である。
よって と は同型である。
単射な準同型
準同型 が同型であるかどうかを調べたいとき, が全単射かわかればよいです。 が単射かどうかを調べるのに使える定理を紹介します。
次の2条件は同値である。
- 準同型 が単射である。
- であれば である。
-
準同型の定義より である。
ここで は を満たすとする。このとき である。
ここで の単射性より を得る。 -
は を満たしていると仮定する。
両辺に を掛けて を得る。 は準同型であるため となる。
ここで 2 より つまり を得る。
核と像
核と像
準同型から定まる重要な群を紹介します。
を群の準同型とする。
集合 を の核 といい, と書く。
集合 を の像 といい, と書く。
は の部分群になり, は の正規部分群になります。
前者は以下の定理5の1で とすればわかります。後者は定理5の2で とすればわかります。
準同型と正規部分群
を群の準同型とする。
-
を の部分群とすると は の部分群である。
-
を の正規部分群とすると は の正規部分群である。
-
準同型の定義より である。
また, を任意に取るとき, があって, , である。よって である。最後に である。よって は の部分群である。 -
部分群であることの証明は1と似たようにできるため省く。
を任意に取る。 とする。 である。 で は の正規部分群であったため である。
よって を得る。
準同型の単射・全射に関して
核・像という言葉を用いて準同型が単射・全射であることを言い換えることができます。
を準同型とする。
- が単射である
- が全射である
準同型定理
準同型定理
準同型に関する大定理として準同型定理があります。
を群の準同型写像とすると,
ただし, は2つの群が同型であることを表します。
準同型定理の例
は準同型でした。
は符号が である元であるため, となる。
また準同型定理より である。
※ には , などと積を入れると となる。
は準同型である。
は となるため である。
準同型定理より となる。
準同型定理の証明
以下 とおく。
を
と定義する。
が写像になっていること(→ 補足へ)
- は となる元とする。これらの での行き先が一致することを確認する。 である。 より であるため,右辺は となる。よって である。
準同型であること
- を取る。 よって は準同型である。
が全単射であること
- 全射性は定義より明らか。
- 単射性を示す。
は を満たすものとする。
このとき より である。
よって である。よって単射である。
写像であるかチェックする理由
剰余群の元 は,別の を用いて と書くこともできます。
→ の元 は と書いても意味は同じですね。
写像とは,1つの元に対して1つの元を対応させる規則です。今回の は の に依存して定義されているため, が本当に と一致するのか確かめる必要があります。
「写像っぽいが写像にならない例」もあります。
例えば を とすると, となってしまい,これは写像になりません。
同型定理
同型定理
準同型定理の系として部分群に関する同型定理があります。
を群とする。 を の部分群, を の正規部分群とするとき次が成立する。
を と定義する。これは準同型である。(チェックしてみてください)
このとき であるため, である。
を群とする。 は の正規部分群で, は の正規部分群とする。
このとき次が成立する。
を と定める。これは準同型になる。(チェックしてみてください)
このとき であるため,準同型定理より となる。
代数学で最も重要な定理の1つは準同型定理でしょう。