線型写像とその例~行列・一次変換など

この記事では,線型写像について詳しく解説します。

高校数学でも登場する「線形性」に関するより深い話です(→ 高校数学における線形性の8つの例

線型写像

V,WV,WKK 上のベクトル空間とする。(KK は体,例えば R\mathbb{R}C\mathbb{C} など)

写像 p:VWp: V \to W

  1. ϕ(v1+v2)=ϕ(v1)+ϕ(v2)\phi (v_1 + v_2) = \phi (v_1) + \phi (v_2)v1,v2Vv_1 , v_2 \in V
  2. ϕ(cv)=cϕ(v)\phi (cv) = c \phi (v)aKa \in KvVv \in V

を満たすとき ϕ\phi線型写像(線型変換)という。

線型写像の例

恒等写像

VV をベクトル空間とします。

恒等写像 id:VV\mathrm{id} : V \to V は線型写像になります。

定数倍写像

V=W=RnV = W = \mathbb{R}^n とします。aa を実数とします。

ϕ((x1,,xn))=(ax1,,axn) \phi ((x_1 , \cdots , x_n)) = (ax_1 , \cdots , ax_n) と定めると,これは線型写像です。

行列倍写像

V=RnV = \mathbb{R}^nRm\mathbb{R}^m とします。AAm×nm \times n 行列とします。

ϕ((x1,,xn))=A(x1xn) \phi ((x_1 , \cdots , x_n)) = A \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} と定めると,これは線型写像です。高校数学でも習っていた一次変換は線型写像というわけです。

微分と積分

VnV_nnn 次以下の xx 変数多項式から成るベクトル空間とします。

ϕ:VnVn1\phi : V_n \to V_{n-1}ϕ(f)=dfdx \phi (f) = \dfrac{df}{dx} と定めると,これは線型写像です。

また ψ:VnVn+1\psi : V_{n} \to V_{n+1}ψ(f)=0xf(t)dt \psi (f) = \int_0^x f(t) dt と定めると,これは線型写像です。

トレース

トレースとは,n×nn \times n 実行列の集合 Mn(R)M_n (\mathbb{R}) から R\mathbb{R} への tr(A)=i=1nAii \mathrm{tr} (A) = \sum_{i=1}^n A_{ii} という写像でした。

定義から明らかに tr(A+B)=tr(A)+tr(B)\mathrm{tr} (A+B) = \mathrm{tr} (A) + \mathrm{tr} (B)tr(cA)=ctr(A)\mathrm{tr} (cA) = c \mathrm{tr} (A)A,BMn(R)A,B \in M_n ( \mathbb{R})cRc \in \mathbb{R})であるため,線型写像です。

線型写像ではない例

三角関数

ϕ:RR\phi : \mathbb{R} \to \mathbb{R}ϕ(x)=sinx\phi (x) = \sin x と定義すると,一般に sin(x+y)sinx+siny\sin (x+y) \neq \sin x + \sin y より,線型写像になりません。

行列式

行列式は一般に線型写像ではありません。

例えば det(In+In)=22=2ndetIn+detIn=1+1=2\begin{aligned} \det (I_n + I_n) &= \begin{vmatrix} 2&&\\ &\ddots&\\ &&2 \end{vmatrix}\\ &= 2^n\\ \det I_n + \det I_n &= 1 + 1\\ &= 2 \end{aligned} より,n1n \neq 1 では線型性を満たしません。

n=1n=1det\det は恒等写像であるため線型写像です。

核と像

線型写像があれば,そこから「核」と「像」というベクトル空間が定まります。

定義

ϕ:VW\phi : V \to W を線型写像とする。

集合 {vVϕ(v)=0} \{ v \in V \mid \phi (v) = 0 \} ϕ\phi の核といい,kerϕ\ker \phi とかく。

集合 {ϕ(v)WvV} \{ \phi (v) \in W \mid v \in V \} ϕ\phi の像といい,Im ϕ\mathrm{Im}\ \phi とかく。

核と像はベクトル空間を成す

核と像はベクトル空間になることを証明します。より一般に,以下の定理を証明しましょう(下記の定理において W={0}W' = \{ 0 \}V=VV' = V とすると,線型写像の核と像がベクトル空間になることが分かります)。

定理

VVWW をベクトル空間,VV'WW' をそれぞれの部分空間とする。

ϕ:VW\phi : V \to W を線型写像とする。

ϕ1(W)={vVϕ(v)W} \phi^{-1} (W') = \{ v \in V \mid \phi (v) \in W' \} VV の部分空間になる。

ϕ(V)={ϕ(v)vV} \phi (V') = \{ \phi (v) \mid v \in V' \} WW の部分空間になる。

証明
  1. v,vϕ1(W)v,v' \in \phi^{-1} (W)cRc \in \mathbb{R} を任意に取る。ϕ\phi は線型写像であるため, ϕ(v+v)=ϕ(v)+ϕ(v)Wϕ(cv)=cϕ(v)W\begin{aligned} \phi (v+v') &= \phi (v) + \phi (v') \in W'\\ \phi (cv) &= c \phi (v) \in W' \end{aligned} である。よって v+v,cvϕ1(W)v+v',cv \in \phi^{-1} (W') であるため部分ベクトル空間になる。

  2. 同様

ベクトル空間の同型

定義

線型写像 ϕ:VW\phi : V \to W が同型写像であるとは,ある線型写像 ψ:WV\psi : W \to V が存在して ψϕ=idV\psi \circ \phi = \mathrm{id}_Vϕψ=idW\phi \circ \psi = \mathrm{id}_W となることである。

このとき ψ\psiϕ\phi の逆写像といいます。

同型の判定

線型写像 ϕ\phi全単射な写像である場合,(集合としての)逆写像は線型写像になります。

部分的にチェックしておきましょう。

和について分解すること

ϕ\phi の集合の写像としての逆写像を ψ\psi と書く。

v,wWv,w \in W を任意に取る。

ψ(v+w)=ψ(ϕψ(v)+ϕψ(w))=ψ(ϕ(ψ(v)+ψ(w)))=(ψϕ)(ψ(v)+ψ(w)))=idV(ψ(v)+ψ(w)))=ψ(v)+ψ(w)\begin{aligned} \psi (v+w) &= \psi (\phi \circ \psi (v) + \phi \circ \psi (w))\\ &= \psi (\phi (\psi (v) + \psi (w)) )\\ &= (\psi \circ \phi) (\psi (v) + \psi (w)))\\ &= \mathrm{id}_V (\psi (v) + \psi (w)))\\ &= \psi (v) + \psi (w) \end{aligned}

スカラー倍は自分でやってみてください。

これより次が得られます。

定理

線型写像 ϕ:VW\phi : V \to W が同型であることと,ϕ\phi が写像として単射かつ全射であることは同値である。

また,単射な線型写像は便利な性質を持っています。

定理

線型写像 ϕ:VW\phi : V \to W が単射であることと次の条件は同値である。

  • ϕ(v)=0W\phi (v) = 0_W であれば v=0Vv = 0_V
証明
  • ϕ\phi が単射であるとする。

vVv \in Vϕ(v)=0\phi (v) = 0 となる元とする。

ϕ\phi は線型写像であるため ϕ(0V)=0W=ϕ(v)\phi (0_V) = 0_W = \phi (v) である。ϕ\phi は単射であるため v=0Vv = 0_V である。

  • ϕ\phi が条件を満たすとする。

v,wVv,w \in Vϕ(v)=ϕ(w)\phi (v) = \phi (w) を満たす元とする。

移項すると ϕ(v)ϕ(w)=0\phi (v) - \phi (w) = 0 である。特に ϕ\phi は線型写像であるため ϕ(vw)=0\phi (v-w) = 0 である。

条件より vw=0Vv-w = 0_V,つまり v=wv = w である。よって ϕ\phi は単射である。

同型の例

例1~行列倍の線型写像

AAn×nn \times n 行列とします。ϕ:RnRn\phi : \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^nAA 倍写像とします。

ϕ\phi が同型であるのは AA が正則行列(可逆)であるときです。

証明

ψ:RnRn\psi : \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^nxA1xx \mapsto A^{-1} x と定義する。

このとき ψϕ(x)=A1Ax=xϕψ(x)=AA1x=x\begin{aligned} \psi \circ \phi (x) &= A^{-1} A x\\ &= x\\ \phi \circ \psi (x) &= A A^{-1} x\\ &= x \end{aligned} より ϕ\phi は同型である。

例2~ nn 次元ベクトル空間は Rn\mathbb{R}^n と同型

定理

VVnn 次元ベクトル空間とする。このとき VVRn\mathbb{R}^n は同型である。

証明

VV の基底を {v1,v2,,vn}\{ v_1, v_2, \cdots , v_n \} とする。

ϕ:VRn\phi : V \to \mathbb{R}^nϕ(i=1naivi)=(a1a2an) \displaystyle \phi \left( \sum_{i=1}^n a_i v_i \right) = \begin{pmatrix} a_1\\ a_2\\ \vdots \\ a_n \end{pmatrix} と定義する。

ψ:RnV\psi : \mathbb{R}^n \to Vψ((a1a2an))=i=1naivi \psi \left( \begin{pmatrix} a_1 \\ a_2 \\ \vdots\\ a_n \end{pmatrix} \right) = \sum_{i=1}^n a_i v_i と定義する。

このとき ψϕ=idV,ϕψ=idRn \psi \circ \phi = \mathrm{id}_V, \quad \phi \circ \psi = \mathrm{id}_{\mathbb{R}^n} となるため,同型を与える。

同型定理

定理

ϕ:VW\phi : V \to W を線型写像とする。このとき V/kerϕIm ϕ V / \ker \phi \simeq \mathrm{Im} \ \phi

証明

ψ:V/kerϕIm ϕ\psi : V/\ker \phi \to \mathrm{Im} \ \phiψ([v])=ϕ(v) \psi ([v]) = \phi (v) と定義する。

[v]=[w][v] = [w] となるような ww について vwkerϕv-w \in \ker \phi より ψ([v])ψ([w])=ϕ(vw)=0 \psi ([v]) - \psi ([w]) = \phi (v-w) = 0 であるため,上の ψ\psi は代表元の取り方に寄らない。

ψ\psi が全単射な線型写像であることを示せばよい。

  • ψ\psi が線型写像であること ψ([v])+ψ([w])=ϕ(v)+ϕ(w)=ϕ(v+w)=ψ([v+w])=ψ([v]+[w])cψ([v])=cϕ(v)=ϕ(cv)=ϕ(c[v])\begin{aligned} \psi ([v]) + \psi ([w]) &= \phi (v) + \phi (w)\\ &= \phi (v+w)\\ &= \psi ([v+w])\\ &= \psi ([v]+[w])\\ c\psi ([v]) &= c\phi (v)\\ &= \phi (cv)\\ &= \phi (c[v]) \end{aligned}

  • 単射であること
    [v]V/kerϕ[v] \in V/\ker \phiψ([v])=0\psi ([v]) = 0 となる元とする。 0=ψ([v])=ϕ(v) 0 = \psi ([v]) = \phi (v) より vkerϕv \in \ker \phi であるため [v]=0V/kerϕ[v] = 0_{V/\ker \phi} である。

  • 全射であること
    wIm ϕw \in \mathrm{Im} \ \phi を任意に取る。このとき,ある vVv \in V があって ϕ(v)=w\phi (v) = w である。よって ψ([v])=w\psi ([v]) = w である。

以上より ψ\psi は同型射である。

同型定理から次の次元定理が得られます。

次元定理

dimV=dimkerϕ+dimIm ϕ \dim V = \dim \ker \phi + \dim \mathrm{Im}\ \phi

→次元定理の意味,具体例,証明

線型写像は非常に重要な概念で,より深く代数学を勉強していく上でも同様の概念が頻繁に登場します。