オイラーの定数γの意味と東大の過去問

オイラーの定数

γ=limn(k=1n1klogn) \gamma = \lim_{n \to \infty} \left( \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k} - \log n \right) オイラーの定数(オイラー・マスケローニ定数)といいます。

1+12+13+14+1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}+\cdots という無限級数(調和級数)は,だいたい logn\log n と同じスピードで発散します。この2つの差の極限がオイラーの定数です。

オイラーの定数の値と評価

  • 実際の値は γ=0.5772156649\gamma = 0.57721 56649 \cdots と続きます。

  • オイラーの定数が有理数なのか無理数なのかは未解決です。

  • オイラーの定数が 12\dfrac{1}{2} より大きく 11 より小さいことは簡単にわかります(下図において,長方形たちの面積のうち y=1xy=\dfrac{1}{x} より上側にある部分の面積がオイラーの定数になることからわかります)。 オイラーの定数の簡単な評価 詳細は, →調和級数1+1/2+1/3…が発散することの3通りの証明

  • 実は東大の過去問でオイラーの定数にまつわる問題が出題されています(後述)。この問題の結果を使うと 12<γ<34\dfrac{1}{2}<\gamma <\dfrac{3}{4} がわかります。

東大の過去問とオイラーの定数

オイラーの定数に関連する東大入試の問題です。

例題~東大2010
  1. すべての自然数 kk に対して,次の不等式を示せ。 12(k+1)<011xk+xdx<12k \dfrac{1}{2(k+1)} < \int_0^1 \dfrac{1-x}{k+x} dx < \dfrac{1}{2k}

  2. m>nm > n であるようなすべての自然数 mmnn に対して,次の不等式を示せ。 mn2(m+1)(n+1)<logmnk=n+1m1k<mn2mn \dfrac{m-n}{2(m+1)(n+1)} < \log \dfrac{m}{n} - \sum_{k=n+1}^m \dfrac{1}{k} < \dfrac{m-n}{2mn}

この問題の解説は後でします。まずは,この問題の結果から 12<γ<34\dfrac{1}{2}<\gamma <\dfrac{3}{4} を示します。

オイラー定数の評価

2の不等式で n=1n=1 とすると m14(m+1)<logmk=2m1k<m12m \dfrac{m-1}{4(m+1)} < \log m - \sum_{k=2}^m \dfrac{1}{k} < \dfrac{m-1}{2m}

k=1k=1 の分を追加することで m14(m+1)1<logmk=1m1k<m12m1 \dfrac{m-1}{4(m+1)} -1 < \log m - \sum_{k=1}^m \dfrac{1}{k} < \dfrac{m-1}{2m} -1 となる。真ん中について limm(logmk=1m1k)=γ \lim_{m \to \infty} \left( \log m - \sum_{k=1}^m \dfrac{1}{k} \right) = - \gamma となる。

左辺と右辺については,それぞれ limmm14(m+1)1=141=34limmm12m1=121=12\begin{aligned} \lim_{m \to \infty} \dfrac{m-1}{4(m+1)} - 1 &= \dfrac{1}{4} - 1\\ &= -\dfrac{3}{4}\\ \lim_{m \to \infty} \dfrac{m-1}{2m} - 1 &= \dfrac{1}{2}- 1\\ &= - \dfrac{1}{2} \end{aligned}

これをまとめると 12<γ<34 \dfrac{1}{2} < \gamma < \dfrac{3}{4}

例題の解答

最後に,東大入試の解答です。

解答
  1. 0<x<10 < x < 1 で,k<k+x<k+1k < k+x < k+1 となるため, 011xk+1dx<011xk+xdx<011xkdx \int_0^1 \dfrac{1-x}{k+1} dx < \int_0^1 \dfrac{1-x}{k+x} dx < \int_0^1 \dfrac{1-x}{k} dx である。 01(1x)dx=12 \int_0^1 (1-x) dx = \dfrac{1}{2} となるため 12(k+1)<011xk+xdx<12k \dfrac{1}{2(k+1)} < \int_0^1 \dfrac{1-x}{k+x} dx < \dfrac{1}{2k} を得る。

  2. 1xk+x=k+1k+x1\dfrac{1-x}{k+x} = \dfrac{k+1}{k+x} - 1 であるため, 011xk+xdx=01k+1k+xdx1=(k+1)logk+1k1\begin{aligned} &\int_0^1 \dfrac{1-x}{k+x} dx\\ &= \int_0^1 \dfrac{k+1}{k+x} dx - 1\\ &= (k+1) \log \dfrac{k+1}{k} - 1 \end{aligned} である。ここで (1) の不等式と合わせると 12(k+1)2<logk+1k1k+1<12k(k+1) \dfrac{1}{2(k+1)^2} < \log \dfrac{k+1}{k} - \dfrac{1}{k+1} < \dfrac{1}{2k(k+1)} となる。不等式の中辺を k=n,,m1k=n , \cdots , m - 1 で足すと k=nm1(logk+1k1k+1)=logmnk=n+1m1k\begin{aligned} &\sum_{k=n}^{m-1} \left( \log \dfrac{k+1}{k} - \dfrac{1}{k+1} \right)\\ &= \log \dfrac{m}{n} - \sum_{k=n+1}^m \dfrac{1}{k} \end{aligned} となる。一方,最右辺を k=n,,m1k= n, \cdots , m-1 で足すと k=nm112k(k+1)=12k=nm1(1k1k+1)=12(1n1m)=mn2mn\begin{aligned} &\sum_{k=n}^{m-1} \dfrac{1}{2k(k+1)}\\ &= \dfrac{1}{2}\sum_{k=n}^{m-1} \left( \dfrac{1}{k} - \dfrac{1}{k+1} \right)\\ &= \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{n} - \dfrac{1}{m}\right)\\ &= \dfrac{m-n}{2mn} \end{aligned} となる。最左辺については, 12(k+1)2>12(k+1)(k+2) \dfrac{1}{2(k+1)^2} > \dfrac{1}{2(k+1)(k+2)} となるため,最右辺と同様に計算し k=nm112(k+1)2>12(1n+11m+1)=mn2(m+1)(n+1)\begin{aligned} &\sum_{k=n}^{m-1} \dfrac{1}{2(k+1)^2}\\ &> \dfrac{1}{2}\left( \dfrac{1}{n+1} - \dfrac{1}{m+1}\right)\\ &= \dfrac{m-n}{2(m+1)(n+1)} \end{aligned} となる。
    以上まとめて mn2(m+1)(n+1)<logmnk=n+1m1k<mn2mn \dfrac{m-n}{2(m+1)(n+1)} < \log \dfrac{m}{n} - \sum_{k=n+1}^m \dfrac{1}{k} < \dfrac{m-n}{2mn} となる。

おまけ~積分表示

公式

γ=0(et1etett)dt \gamma = \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{1-e^{-t}} - \dfrac{e^{-t}}{t} \right) dt

オイラーの定数には上のような積分表示が知られています。証明は少々大変なのでここでは触れません。

この積分表示を用いることでより詳細な数値評価をすることができます。

ガンマ関数とも深いつながりがあります。