n階斉次線形微分方程式の解空間
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定数係数の 階斉次線形微分方程式 の解の集合は, 次元のベクトル空間になる。
この定理を証明していきます。
なお,線形微分方程式の解き方は 微分方程式の解法(同次形・線形微分方程式) で紹介しています。
証明の方針
証明の方針
以下の3つをそれぞれ証明していきます。
- 補題1. 解の集合がベクトル空間であること
- 補題2. 解を 個持ってこれて,その線形結合ですべての解をつくせること
- 補題3. その 個の解が一次独立であること
1つ1つは難しくありませんが,地道で長い計算は必要です。じっくり挑戦してください。
- ベクトル空間であること
- ベクトル空間であること
(i) の解集合を とおく。 はベクトル空間である。
これは簡単です。 が解なら も解になることがわかります。これは微分という操作が線形であることによっています。
ベクトル空間の他の公理も簡単に確認できます。
- 解を n 個持ってこれてすべて尽くせること
- 解を n 個持ってこれてすべて尽くせること
これは少し大変です。準備を2つします。
準備1:解の存在と一意性定理
リプシッツ条件と微分方程式の解の一意性 の最後に紹介した定理を使います。
定数係数 階の斉次線形微分方程式の解は(初期値に応じて)一意に定まる。
準備2:微分方程式の行列表現
もとの微分方程式(i)に対して, 変数を ,,, とおくことで,微分方程式を と書き変えられます。行列で表すと となります。右辺の 行列を とおきます。
(ii) の解を とすると,定義より第一成分は (i) の解となります。逆に (i) の解から (ii) の解が1つ定まります。つまり,(i) と (ii) は同じ問題です。
準備はここまでです。
補題2の主張と証明
(i) の解を 個持ってこれて,その線形結合ですべての解をつくせる。
行列表現 (ii) で考える。
個の解を構成できること
(ii)において初期値 が である解を とおく。同様に,初期値の第 成分のみ でその他が である解を とする。
解の存在定理より,このような が存在する。
個の線形結合ですべてをつくせること
次に、(ii)の任意の解を とおく。 における初期値を とおく。
このとき もまた微分方程式 (ii) の解であり初期値は なので,解の一意性定理から である。
の第一成分を とします。これが の解になっています。あとは一次独立性を示せば完了です。
- 一次独立であること
- 一次独立であること
最後は一次独立性です。こちらはもとの表現 (i) で考えます。補題2の証明で構成した 個の解 の第一成分をそれぞれ とします。これが の解です。これらが一次独立であることを示せば完了です。
は一次独立である。
証明にはロンスキー行列(ロンスキアン)というものを使います。
ロンスキー行列は, 個の微分方程式の解 に対して と定義されます。
各 を 次の縦ベクトルだとして扱う。
とおく。
このとき となる。(後述の 詳しい計算 参照)
を踏まえて微分方程式を解くと となる。
初期値のとき は単位行列であるため となる。特に であることに注意すると,行列 は可逆であることがわかる。
であったとする。このとき であるが,左辺に現れる行列は可逆であるため である。
こうして一次独立であることが示された。
ロンスキー行列は,より一般に 個の解の線型独立性について調べることができます。
詳しい計算
詳しい計算
により の 番目の成分を表すことにします。
により の 行目を表すことにします。すなわち となります。
まず定義より です。
行列式の定義と積の微分法を用いる。→ 行列式の3つの定義・性質・意味
の 成分を とおく。
など同じ行を含む行列式は になることに注意して計算する。
お疲れさまでした!これで「解全部尽くせたのかな…」という不安なく線形微分方程式を解けますね!