n階斉次線形微分方程式の解空間

定理

定数係数の nn 階斉次線形微分方程式 dnxdtn+an1dn1xdtn1++a1dxdt+a0x=0(i) \dfrac{d^n x}{dt^n} + a_{n-1} \dfrac{d^{n-1} x}{dt^{n-1}} + \cdots + a_{1} \dfrac{dx}{dt} + a_0 x = 0 \quad \cdots \quad (\mathrm{i}) の解の集合は,nn 次元のベクトル空間になる。

この定理を証明していきます。

なお,線形微分方程式の解き方は 微分方程式の解法(同次形・線形微分方程式) で紹介しています。

証明の方針

以下の3つをそれぞれ証明していきます。

  • 補題1. 解の集合がベクトル空間であること
  • 補題2. 解を nn 個持ってこれて,その線形結合ですべての解をつくせること
  • 補題3. その nn 個の解が一次独立であること

1つ1つは難しくありませんが,地道で長い計算は必要です。じっくり挑戦してください。

  1. ベクトル空間であること

補題1

(i) の解集合を VV とおく。VV はベクトル空間である。

これは簡単です。x1,x2x_1,x_2 が解なら c1x1+c2x2c_1x_1+c_2x_2 も解になることがわかります。これは微分という操作が線形であることによっています。

ベクトル空間の他の公理も簡単に確認できます。

  1. 解を n 個持ってこれてすべて尽くせること

これは少し大変です。準備を2つします。

準備1:解の存在と一意性定理

リプシッツ条件と微分方程式の解の一意性 の最後に紹介した定理を使います。

定理(解の存在と一意性)

定数係数 nn 階の斉次線形微分方程式の解は(初期値に応じて)一意に定まる。

準備2:微分方程式の行列表現

もとの微分方程式(i)に対して, 変数を x1=xx_1 = xx2=xx_2 = x'\cdotsxn=x(n1)x_{n} = x^{(n-1)} とおくことで,微分方程式を {x1=x2x2=x3xn1=xnxn=(an1xn++a1x2+a0x1)\begin{cases} {x_1}' = x_2\\ {x_2}' = x_3\\ \quad \vdots\\ {x_{n-1}}' = x_{n}\\ {x_{n}}' = - (a_{n-1} x_{n} + \cdots + a_1 x_2 + a_0 x_1) \end{cases} と書き変えられます。行列で表すと ddt(x1xn)=(010001a0a1an1)(x1xn)(ii) \dfrac{d}{dt} \begin{pmatrix} x_1\\ \vdots \\ \vdots \\x_{n} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0&1& & 0 \\ \vdots & & \ddots & \\ 0 & 0 & & 1\\ -a_0 & -a_1 & \cdots &-a_{n-1} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_1\\ \vdots \\ \vdots \\x_{n} \end{pmatrix} \quad \cdots \quad (\mathrm{ii}) となります。右辺の n×nn\times n 行列を AA とおきます。

(ii) の解を XX とすると,定義より第一成分は (i) の解となります。逆に (i) の解から (ii) の解が1つ定まります。つまり,(i) と (ii) は同じ問題です。

準備はここまでです。

補題2の主張と証明

補題2

(i) の解を nn 個持ってこれて,その線形結合ですべての解をつくせる。

証明

行列表現 (ii) で考える。

nn 個の解を構成できること

(ii)において初期値 t(x1(0),...,xn(0)){}^t(x_1(0),...,x_n(0))t(1,0,,0){}^t (1,0, \cdots ,0) である解を X1(t)X_1 (t) とおく。同様に,初期値の第 ii 成分のみ 11 でその他が 00 である解を Xi(t)X_i (t) とする。

解の存在定理より,このような Xi(t)X_i(t) が存在する。

nn 個の線形結合ですべてをつくせること

次に、(ii)の任意の解を X~(t)\tilde{X}(t) とおく。X~(t)\tilde{X}(t) における初期値を t(c1,c2,,cn)Rn{}^t (c_1, c_2, \cdots , c_n) \in \mathbb{R}^n とおく。

このとき X(t)=c1X1(t)++cnXn(t)X(t) = c_1 X_1 (t) + \cdots + c_n X_n (t) もまた微分方程式 (ii) の解であり初期値は t(c1,c2,,cn){}^t (c_1, c_2, \cdots , c_n) なので,解の一意性定理から X~(t)=X(t)\tilde{X}(t)=X(t) である。

X1,X2,,XnX_1, X_2 , \cdots , X_n の第一成分を X11,X21,,Xn1X_{11}, X_{21} , \cdots , X_{n1} とします。これが (i)(i) の解になっています。あとは一次独立性を示せば完了です。

  1. 一次独立であること

最後は一次独立性です。こちらはもとの表現 (i) で考えます。補題2の証明で構成した nn 個の解 X1,X2,,XnX_1, X_2 , \cdots , X_n の第一成分をそれぞれ X11,X21,,Xn1X_{11}, X_{21} , \cdots , X_{n1} とします。これが (i)(i) の解です。これらが一次独立であることを示せば完了です。

補題3

X11,X21,,Xn1X_{11} , X_{21}, \cdots , X_{n1} は一次独立である。

証明にはロンスキー行列(ロンスキアン)というものを使います。

ロンスキー行列は,nn 個の微分方程式の解 x1,x2,,xnx_1 , x_2 , \cdots , x_n に対して W(t)=det(x1(t)x2(t)xn(t)x1(t)x2(t)xn(t)x1(n1)(t)x2(n1)(t)xn(n1)(t)) W(t) = \det \begin{pmatrix} x_1 (t) & x_2 (t) & \cdots & x_n (t)\\ {x_1}' (t) & {x_2}' (t) & \cdots & {x_n}' (t)\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ {x_1}^{(n-1)} (t) & {x_2}^{(n-1)} (t) & \cdots & {x_n}^{(n-1)} (t) \end{pmatrix} と定義されます。

証明

XiX_inn 次の縦ベクトルだとして扱う。

W(t)=det(X1(t)Xn(t)) W(t) = \det \begin{pmatrix} X_1 (t) & \cdots & X_n (t) \end{pmatrix} とおく。

このとき ddtW(t)=(tr(A))W(t) \dfrac{d}{dt} W(t) = (\mathrm{tr} (A)) W(t) となる。(後述の 詳しい計算 参照)

tr(A)=an1\mathrm{tr} (A) = -a_{n-1} を踏まえて微分方程式を解くと W(t)=W(t0)et0tan1(s)ds W(t) = W(t_0) e^{-\int_{t_0}^t a_{n-1} (s) ds} となる。

初期値のとき (X1(t)Xn(t))\begin{pmatrix} X_1 (t) & \cdots & X_n(t) \end{pmatrix} は単位行列であるため W(t)=et0tan1ds W(t) = e^{-\int_{t_0}^t a_{n-1} ds} となる。特に W(t)0W(t) \neq 0 であることに注意すると,行列 (X1(t)Xn(t)) \begin{pmatrix} X_1 (t) & \cdots & X_n (t) \end{pmatrix} は可逆であることがわかる。

c1X11+c2X21++cnXn1=0 c_1 X_{11} + c_2 X_{21} + \cdots + c_n X_{n1} = 0 であったとする。このとき (X1(t)Xn(t))(c1cn)=(00) \begin{pmatrix} X_1 (t) & \cdots & X_n (t) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} c_1 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0\\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} であるが,左辺に現れる行列は可逆であるため (c1cn)=(00) \begin{pmatrix} c_1 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0\\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} である。

こうして一次独立であることが示された。

ロンスキー行列は,より一般に nn 個の解の線型独立性について調べることができます。

詳しい計算

Xij(t)X_{ij} (t) により Xi(t)X_i (t)jj 番目の成分を表すことにします。

XkX_k により W(t)W(t)kk 行目を表すことにします。すなわち Xk=(X1k(t)X2k(t)Xnk(t))X^k = \begin{pmatrix} X_{1k} (t) & X_{2k} (t) &\cdots &X_{nk} (t) \end{pmatrix} となります。

まず定義より ddtW(t)=ddtdet(X1X2Xn) \dfrac{d}{dt} W(t) = \dfrac{d}{dt} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^n \end{pmatrix} です。

ステップ1

ddtdet(X1X2Xn)=det(ddtX1X2Xn)++det(X1X2ddtXn) \dfrac{d}{dt} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^n \end{pmatrix} = \det \begin{pmatrix} \dfrac{d}{dt} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ \dfrac{d}{dt} X^n \end{pmatrix}

証明

行列式の定義と積の微分法を用いる。→ 行列式の3つの定義・性質・意味 ddtdet(X1X2Xn)=ddtωSn(sgn ω)iXiσ(i)=ddtωSn(sgn  ω)iXiσ(i)=ωSn(sgn  ω)ddtiXiσ(i)=ωSn(sgn  ω)(ddtX1σ(1)X2σ(2)Xnσ(n)++X1σ(1)X2σ(2)ddtXnσ(n))=det(ddtX1X2Xn)++det(X1X2ddtXn)\begin{aligned} \dfrac{d}{dt} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^n \end{pmatrix} &= \dfrac{d}{dt} \sum_{\omega \in \mathfrak{S}_n} (\mathrm{sgn} \ \omega ) \prod_{i} X_{i \sigma (i)}\\ &= \dfrac{d}{dt} \sum_{\omega \in \mathfrak{S}_n} ( \mathrm{sgn}\; \omega ) \prod_{i} X_{i \sigma (i)}\\ &= \sum_{\omega \in \mathfrak{S}_n} ( \mathrm{sgn}\; \omega ) \dfrac{d}{dt} \prod_{i} X_{i \sigma (i)}\\ &= \sum_{\omega \in \mathfrak{S}_n} ( \mathrm{sgn}\; \omega ) \left( \dfrac{d}{dt} X_{1 \sigma (1)} X_{2 \sigma (2)} \cdots X_{n \sigma (n)} \right.\\ & \quad\quad\quad\quad \left. + \cdots +X_{1 \sigma (1)} X_{2 \sigma (2)} \cdots \dfrac{d}{dt} X_{n \sigma (n)} \right)\\ &= \det \begin{pmatrix} \dfrac{d}{dt} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\X^n \end{pmatrix} + \cdots + \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ \dfrac{d}{dt} X^n \end{pmatrix} \end{aligned}

ステップ2

det(ddtX1X2Xn)++det(X1X2ddtXn)=det(i=1nA1iXiX2Xn)++det(X1X2i=1nAniXi)=(tr(A))W(t)\begin{aligned} &\det \begin{pmatrix} \dfrac{d}{dt} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ \dfrac{d}{dt} X^n \end{pmatrix}\\ &= \det \begin{pmatrix} \sum_{i=1}^n A_{1i} X^i \\ X^2 \\\vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ \sum_{i=1}^n A_{ni} X^i \end{pmatrix}\\ &= (\mathrm{tr} (A)) W(t) \end{aligned}

証明

AAijij 成分を AijA_{ij} とおく。

det(X2X2Xn)=0 \det \begin{pmatrix} X_2 \\ X_2 \\ \vdots \\ X_n \end{pmatrix} = 0 など同じ行を含む行列式は 00 になることに注意して計算する。

det(i=1nA1iXiX2Xn)++det(X1X2i=1nAniXi)=i=1ndet(A1iXiX2Xn)++i=1ndet(X1X2AniXi)=i=1nA1idet(XiX2Xn)++i=1nAnidet(X1X2Xi)=A11det(X1X2Xk)++Anndet(X1X2Xk)=(tr(A))W(t)\begin{aligned} &\det \begin{pmatrix} \sum_{i=1}^n A_{1i} X^i \\ X^2 \\\vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ \sum_{i=1}^n A_{ni} X^i \end{pmatrix} \\ &=\sum_{i=1}^n \det \begin{pmatrix} A_{1i} X^i \\ X^2 \\\vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \sum_{i=1}^n \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ A_{ni} X^i \end{pmatrix}\\ &=\sum_{i=1}^n A_{1i} \det \begin{pmatrix} X^i \\ X^2 \\\vdots \\ X^n \end{pmatrix} + \cdots + \sum_{i=1}^n A_{ni} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^i \end{pmatrix}\\ &=A_{11} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^k \end{pmatrix} + \cdots +A_{nn} \det \begin{pmatrix} X^1 \\ X^2 \\ \vdots \\ X^k \end{pmatrix}\\ &= (\mathrm{tr} (A)) W(t) \end{aligned}

お疲れさまでした!これで「解全部尽くせたのかな…」という不安なく線形微分方程式を解けますね!