ルベーグ測度
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ルベーグ測度についてわかりやすく解説します。
ルベーグ測度は,さまざまな集合の「体積」を測るための道具です。
ルベーグ測度を理解すれば, 以上 以下の無理数全体の集合の「体積」を考えたりできます。
区間と体積
区間と体積
における区間と体積
()によって と表される集合 を( 内の)区間 といいます( は と考えます)。ただし,空集合 も区間とみなします。
区間の体積 を と定義します。ただし,,, は とします。
有限個の互いに素な区間 を用いて と表される集合を区間塊といいます。区間塊全体の集合を とおきます。
の体積を と定義します。
※ 文献によっては ではなく とすることもあります。
における区間と体積
区間の概念を 次元に拡張します。
,(各 で )を用いて と表される集合 を( 内の)区間 といいます。(ここでも と考えます。)
2次元では長方形,3次元では直方体になります。
区間の体積を と定義します。
区間塊とその体積も のときと同様に定義します。
例
- のとき です。
- のとき です。
区間塊と体積の性質
における区間塊全体の集合 には次の性質があります。
- であれば
- であれば
性質1~3を満たす部分集合族を有限加法族と言います。
また,体積には次の性質があります。
- 任意の に対して
- 任意の , に対して
であれば
※ なお,性質1~3を満たす関数を有限加法的測度と言います。さらに性質4も満たす関数を完全加法的測度と言います。 は完全加法的測度です。
証明にも挑戦してみてください。
ルベーグ外測度
ルベーグ外測度
以下 で考えます。
区間塊ではない集合 に対して体積を定義しましょう。
やり方は簡単で「集合を区間塊に近似」して測ります:
を含むいろいろな区間塊の中で,体積のinfを取っています。
これをルベーグ外測度といいます。
性質
を の部分集合とする。 を の部分集合族とする。
- ,
- であれば (単調性)
- であれば (劣加法性)
1,2 は定義からすぐにわかります。3 は少々難しいです。
いくつかの例
区間塊
区間塊に対しては です。
開区間・閉区間
開区間 ,閉区間 では です。
となる正の実数 を取ると, なので となります。 とすることで を得ます。
1点集合
1点集合 ()で外測度を計算してみましょう。
任意の正整数 に対して は, を含みます。 であるため, を大きく取ると, はいくらでも に近付きます。そのため です。
今回は で考えましたが, でも同様です。
平行移動
に対して , とおくと, です。
問題
は完全加法性を満たすのでしょうか。
つまり, を の部分集合族で, のとき としたとき, となるのでしょうか。
実は「No」です。
区間 を互いに交わりを持たず,同型な で覆います。つまり となる を考えます( の具体的な構成方法は後述します)。
今 とおきます。
完全加法性が成り立つと仮定すると となります。
右辺は がどうあれ にならず,式は矛盾します。よって完全加法性は成り立ちません。
というわけで,完全加法性を妨げる奇妙な集合は取り除いてしまいましょう。
次に紹介するルベーグ可測集合は「奇妙ではない」集合のカテゴライズです。
ルベーグ可測集合とルベーグ測度
ルベーグ可測集合とルベーグ測度
ルベーグ可測集合
の部分集合 がルベーグ可測であるとは, の任意の部分集合 に対して が成立することを表す。
- ルベーグ可測集合全体の集合を と書きます。
- 上記の条件をカラテオドリの条件といいます。
ルベーグ可測集合の定義は一見分かりにくいですが,この定義から以下の便利な性質が得られます。
※以下,ルベーグ可測のことを単に「可測」と書く場合があります。
- が可測であれば, も可測である。
- 区間塊( の元)は可測である。
- を可測な集合の族とすると もまた可測である。
- が可測であれば, も可測である。
1 は定義より明らかです。2~4 は少々難しいです。測度・ルベーグ積分の本を参照してください。
完全加法族
を の空でない部分集合族とします。
- となる。
- を となる可算な集合族とすると, となる。
この2条件を満たす を完全加法族もしくは 加法族といいます。ルベーグ可測集合の全体 は完全加法族です。
完全加法族は今回これ以上掘り下げませんが,一般の集合に測度を導入する際に活躍します。
ルベーグ測度
ルベーグ外測度 をルベーグ可測集合に制限したものを ルベーグ測度 という。
ルベーグ測度は,ルベーグ外測度の性質に加えて,次の性質を持ちます。
であれば である。
具体例
簡単な例
区間塊は可測集合です。よって,区間塊 に対して である。
1点集合は可測です。
可算な集合は1点集合が可算個集まったものです。そのため可算集合は可測です。さらに測度の完全加法性より,可算集合の測度は です。
一般に次の命題が成り立ちます。
なら はルベーグ可測集合。
を任意とする。
より である。こうして はルベーグ可測集合である。
開集合と閉集合
開集合と閉集合はルベーグ可測集合です。テクニカルな方法で証明します。集合論に自信がある方はぜひチャレンジしてください。
開集合のときを考えれば十分である。
の開集合 を任意に取る。 に対して と定める。 となるように取ると, は を満たす区間である。 は区間なので可測である。
このとき である。
特に となる区間を同一視する。こうして得られた区間の族を とする。
は有理数 個の対で決定されるため, の濃度は高々 の濃度である。よって は可算である。
可算個の可測集合の和はまた可測集合である。よって は可測である。
実は測度は開集合によって「近似」できます。
任意の に対して である。
ポイントは,可測集合ではないものも近似ができることです。非常に有用なので計算でしばしば使います。
カントール集合
カントール集合 とは,区間 から「線分を三等分して真ん中を取り除く」という操作を無限回繰り返して得られる集合でした。
カントール集合 の外測度を計算してみましょう。
で 回目の操作までに取り除かれた区間とします。このとき です。 なので, を計算していきましょう。 であるため, となります。よって です。
このように非可算な集合でも外測度は になり得ます。
こうしてカントール集合は可測集合となります。
奇妙な例
特殊な同値関係を考えます。 に対して により同値関係を定めます。この商集合 の代表元の集合を とおきます。
がルベーグ可測集合と仮定しましょう。
とおきましょう。
(ただし で の小数部分を表すこととします。)
のとき です。実際, を仮定すると ()とできます。 ですが, の定義より となり矛盾します。
となるため, です。
であるため, です。
のとき, の右辺は に発散します。一方 のとき, の右辺は となります。
結果, の値がどうであれ, の式は成り立ちません。
以上の議論から は可測ではありません。
この は ヴィタリ集合 と言われています。
まとめと今後の展望
まとめと今後の展望
の部分集合 に一般的な「体積」を定義できました。具体的には2つの方法で計算します。
- を区間で覆い近似する。
- を開集合で近似する。
測度が の集合をうまく使うことでバナッハ=タルスキのパラドックスという非常に面白い定理が証明できます。こちらはまた次の機会にしましょう。
測度の概念からルベーグ積分を定義できます。ルベーグ積分の世界で考えと,項別積分といった「極限と積分の入れ替え」についての議論を精密に行うことができるようになります。次回以降の記事をお楽しみに。
カラテオドリの条件という名前はおもしろいですね。