ルベーグ測度

ルベーグ測度についてわかりやすく解説します。

ルベーグ測度は,さまざまな集合の「体積」を測るための道具です。

ルベーグ測度を理解すれば,00 以上 11 以下の無理数全体の集合の「体積」を考えたりできます。

区間と体積

R\mathbb{R} における区間と体積

a,bR{±}a,b \in \mathbb{R} \cup \{ \pm \infty \}a<ba < b)によって (a,b]={xa<xb} (a,b] = \{ x \mid a < x \leqq b \} と表される集合 II を(R\mathbb{R} 内の)区間 といいます((a,](a,\infty](a,)={xa<x}(a,\infty) = \{ x \mid a < x \} と考えます)。ただし,空集合 \emptyset も区間とみなします。

区間の体積 vol (I)\mathrm{vol} \ (I)vol (I)=ba \mathrm{vol} \ (I) = b-a と定義します。ただし,a\infty - ab()b- (-\infty)()\infty - (-\infty)\infty とします。

有限個の互いに素な区間 I1,I2,,InI_1 , I_2 , \cdots , I_n を用いて E=I1I2In E = I_1 \cup I_2 \cup \cdots \cup I_n と表される集合を区間塊といいます。区間塊全体の集合を F\mathfrak{F} とおきます。

EFE \in \mathfrak{F}体積vol (E)=i=1nvol (Ii) \mathrm{vol} \ (E) = \sum_{i=1}^n \mathrm{vol} \ (I_i) と定義します。

※ 文献によっては (a,b](a,b] ではなく [a,b)[a,b) とすることもあります。

Rn\mathbb{R}^n における区間と体積

区間の概念を nn 次元に拡張します。

a1,,ana_1, \cdots , a_nb1,,bnR{±}b_1 , \cdots , b_n \in \mathbb{R} \cup \{ \pm \infty \}(各 iiai<bia_i < b_i)を用いて i=1n(ai,bi]=(a1,b1]×(a2,b2]××(an,bn]={(x1,,xn)各 i で ai<xibi}\begin{aligned} &\prod_{i=1}^n (a_i,b_i]\\ &= (a_1,b_1] \times (a_2,b_2] \times \cdots \times (a_n,b_n]\\ &= \{ (x_1 , \cdots , x_n) \mid \text{各} \ i \ \text{で} \ a_i < x_i \leqq b_i \} \end{aligned} と表される集合 II を(Rn\mathbb{R}^n 内の)区間 といいます。(ここでも (ai,)={xiai<xi}(a_i,\infty) = \{ x_i \mid a_i < x_i \} と考えます。)

2次元では長方形,3次元では直方体になります。

区間の体積を vol (I)=(b1a1)(b2a2)(bnan) \mathrm{vol} \ (I) = (b_1 - a_1) (b_2 - a_2) \cdots (b_n - a_n) と定義します。

区間塊とその体積R\mathbb{R} のときと同様に定義します。

  • I=(1,2]I = (1,2] のとき vol (I)=21=1\mathrm{vol}\ (I) = 2-1 =1 です。
  • I=(1,2]×(3,5]I = (1,2] \times (3,5] のとき vol I=(21)(53)=2\mathrm{vol}\ I = (2-1)(5-3)=2 です。

区間塊と体積の性質

Rn\mathbb{R}^n における区間塊全体の集合 F\mathfrak{F} には次の性質があります。

区間塊の性質
  1. F\emptyset \in \mathfrak{F}
  2. AFA \in \mathfrak{F} であれば AcFA^c \in \mathfrak{F}
  3. A,BFA,B \in \mathfrak{F} であれば ABFA \cup B \in \mathfrak{F}

性質1~3を満たす部分集合族を有限加法族と言います。

また,体積には次の性質があります。

体積の性質
  1. 任意の AFA \in \mathfrak{F} に対して 0vol (A)0 \leqq \mathrm{vol} \ (A) \leqq \infty
  2. vol ()=0\mathrm{vol} \ (\emptyset) = 0
  3. 任意の A,BFA,B \in \mathfrak{F}AB=A \cap B = \emptyset に対して vol (AB)=vol (A)+vol (B)\mathrm{vol} \ (A \cup B) = \mathrm{vol} \ (A) + \mathrm{vol} \ (B)
  4. {A1,A2,FijAiAj=i=1AiF\begin{cases} A_1 , A_2 , \cdots \in \mathfrak{F}\\ i \neq j \Longrightarrow A_i \cap A_j = \emptyset\\ \displaystyle \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i \in \mathfrak{F} \end{cases}
    であれば vol(i=1Ai)=i=1vol (Ai)\displaystyle \mathrm{vol} \left( \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i \right) = \sum_{i=1}^{\infty} \mathrm{vol} \ (A_i)

※ なお,性質1~3を満たす関数を有限加法的測度と言います。さらに性質4も満たす関数を完全加法的測度と言います。vol\mathrm{vol} は完全加法的測度です。

証明にも挑戦してみてください。

ルベーグ外測度

以下 Rn\mathbb{R}^n で考えます。

区間塊ではない集合 ARnA\subseteq\mathbb{R}^n に対して体積を定義しましょう。

やり方は簡単で「集合を区間塊に近似」して測ります:

μ(A):=infAEiEiは区間i=1vol (Ei) \mu^* (A) := \inf_{A \subset \bigcup E_i\\ E_i は区間} \sum_{i=1}^{\infty} \mathrm{vol} \ (E_i)

AA を含むいろいろな区間塊の中で,体積のinfを取っています。

これをルベーグ外測度といいます。

pic01

性質

ルベーグ外測度の性質

A,BA,BRn\mathbb{R}^n の部分集合とする。{Ai}\{ A_i \}Rn\mathbb{R}^n の部分集合族とする。

  1. 0μ(A)0 \leqq \mu^* (A) \leqq \inftyμ()=0\mu^* (\emptyset) = 0
  2. ABA \subset B であれば μ(A)μ(B)\mu^* (A) \leqq \mu^* (B)(単調性)
  3. Ai=1Ai\displaystyle A \subset \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i であれば μ(A)i=1μ(Ai)\displaystyle \mu^* (A) \leqq \sum_{i=1}^{\infty} \mu^* (A_i)(劣加法性)

1,2 は定義からすぐにわかります。3 は少々難しいです。

3 の証明

ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。

inf\inf の特徴付け より,各 AiA_i に対して区間 Ei1,Ei2,E_{i1} , E_{i2} , \cdots があって {Aij=1Eijj=1vol (Eij)μ(Ai)+ε2i\begin{cases} \displaystyle A_i \subset \bigcup_{j=1}^{\infty} E_{ij}\\ \displaystyle \sum_{j=1}^{\infty} \mathrm{vol}\ (E_{ij}) \leqq \mu^* (A_i) + \dfrac{\varepsilon}{2^i} \end{cases} とできる。

Ai=1AiEij\displaystyle A \subset \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i \subset \bigcup E_{ij} であるため, μ(A)vol (Eij)i=1(μ(Ai)+ε2i)=i=1μ(Ai)+ε\begin{aligned} \mu^* (A) &\leqq \sum \mathrm{vol}\ (E_{ij})\\ &\leqq \sum_{i=1}^{\infty} \left( \mu^* (A_i) + \dfrac{\varepsilon}{2^i} \right)\\ &= \sum_{i=1}^{\infty} \mu^* (A_i) + \varepsilon \end{aligned} となる。ε0\varepsilon \to 0 とすることで μ(A)i=1μ(Ai)\displaystyle \mu^* (A) \leqq \sum_{i=1}^{\infty} \mu^* (A_i) となる。

いくつかの例

区間塊

区間塊に対しては μ(E)=vol (E)\mu^* (E) = \mathrm{vol}\ (E) です。

開区間・閉区間

開区間 (a,b)(a,b),閉区間 [a,b][a,b] では μ((a,b))=μ([a,b])=ba\mu^* ((a,b)) = \mu^* ([a,b]) = b-a です。

ba>εb-a > \varepsilon となる正の実数 ε\varepsilon を取ると,(a,bε](a,b)(a,b](a , b - \varepsilon] \subset (a,b) \subset (a,b] なので baε<μ((a,b))<bab-a-\varepsilon < \mu^{\ast} ((a,b)) < b-a となります。ε0\varepsilon \to 0 とすることで μ((a,b))=ba\mu^{\ast} ((a,b)) = b-a を得ます。

1点集合

1点集合 {p}\{ p \}pRp \in \mathbb{R})で外測度を計算してみましょう。

任意の正整数 nn に対して In=(p1n,p+1n]I_n = \left( p-\dfrac{1}{n} , p + \dfrac{1}{n} \right] は,pp を含みます。vol (In)=2n\mathrm{vol}\ (I_n) = \dfrac{2}{n} であるため,nn を大きく取ると,vol (In)\mathrm{vol}\ (I_n) はいくらでも 00 に近付きます。そのため μ({p})=0\mu^* (\{ p \}) = 0 です。

今回は R\mathbb{R} で考えましたが,Rn\mathbb{R}^n でも同様です。

平行移動

ARnA \subset \mathbb{R}^n に対して A={aaA}-A = \{ -a \mid a \in A \}A+x={a+xaA}A+x = \{ a+x \mid a \in A \} とおくと,μ(A)=μ(A)=μ(A+x)\mu^* (A) = \mu^* (-A) = \mu^* (A+x) です。

問題

μ\mu^* は完全加法性を満たすのでしょうか。

つまり,{Xi}\{ X_i \}Rn\mathbb{R}^n の部分集合族で,iji \neq j のとき XiXj=X_i \cap X_j = \emptyset としたとき, μ(i=1Xi)=i=1μ(Xi) \mu^* \left( \bigcup_{i=1}^{\infty} X_i \right) = \sum_{i=1}^{\infty} \mu^* (X_i) となるのでしょうか。

実は「No」です。

ルベーグ外測度が完全加法性を満たさないこと

区間 [0,1][0,1] を互いに交わりを持たず,同型な {Xi}iZ\{ X_i \}_{i \in \mathbb{Z}} で覆います。つまり {[0,1]=XiXiXj=(ij)XiXj(i,j)\begin{cases} [0,1] = \bigcup X_i\\ X_i \cap X_j = \emptyset &(i \neq j)\\ X_i \simeq X_j &(\forall i,j) \end{cases} となる {Xi}\{ X_i \} を考えます(XiX_i の具体的な構成方法は後述します)。

μ(Xi)=a\mu^{\ast} (X_i) = a とおきます。

完全加法性が成り立つと仮定すると 1=μ([0,1])=iZμ(Xi)=iZa\begin{aligned} 1 &= \mu^{\ast} ([0,1])\\ &= \sum_{i \in \mathbb{Z}} \mu^{\ast} (X_i)\\ &= \sum_{i \in \mathbb{Z}} a \end{aligned} となります。

右辺は aa がどうあれ 11 にならず,式は矛盾します。よって完全加法性は成り立ちません。

というわけで,完全加法性を妨げる奇妙な集合は取り除いてしまいましょう。

次に紹介するルベーグ可測集合は「奇妙ではない」集合のカテゴライズです。

ルベーグ可測集合とルベーグ測度

ルベーグ可測集合

ルベーグ可測集合

Rn\mathbb{R}^n の部分集合 EE がルベーグ可測であるとは,Rn\mathbb{R}^n の任意の部分集合 AA に対して μ(A)=μ(AE)+μ(AEc) \mu^* (A) = \mu^* (A \cap E) + \mu^* (A \cap E^c) が成立することを表す。

  • ルベーグ可測集合全体の集合を M\mathfrak{M} と書きます。
  • 上記の条件をカラテオドリの条件といいます。

ルベーグ可測集合の定義は一見分かりにくいですが,この定義から以下の便利な性質が得られます。

※以下,ルベーグ可測のことを単に「可測」と書く場合があります。

ルベーグ可測集合の性質
  1. EE が可測であれば,EcE^c も可測である。
  2. 区間塊(F\mathfrak{F} の元)は可測である。
  3. {Ei}\{ E_i \} を可測な集合の族とすると i=1Ei\displaystyle \bigcup_{i=1}^{\infty} E_i もまた可測である。
  4. E,FE,F が可測であれば,EFE \cap F も可測である。

1 は定義より明らかです。2~4 は少々難しいです。測度・ルベーグ積分の本を参照してください。

完全加法族

Σ\SigmaXX空でない部分集合族とします。

  1. EΣEcΣE \in \Sigma \Longrightarrow E^c \in \Sigma となる。
  2. {Ei}\{ E_i \}EiΣE_i \in \Sigma となる可算な集合族とすると,i=1EiΣ\displaystyle \bigcup_{i=1}^{\infty} E_i \in \Sigma となる。

この2条件を満たす Σ\Sigma完全加法族もしくは σ\boldsymbol{\sigma} 加法族といいます。ルベーグ可測集合の全体 M\mathfrak{M} は完全加法族です。

完全加法族は今回これ以上掘り下げませんが,一般の集合に測度を導入する際に活躍します。

ルベーグ測度

ルベーグ測度

ルベーグ外測度 μ\mu^* をルベーグ可測集合に制限したものを ルベーグ測度 という。

ルベーグ測度は,ルベーグ外測度の性質に加えて,次の性質を持ちます。

ルベーグ測度の性質

{E1,E2,MijEiEj=i=1EiM\begin{cases} E_1 , E_2 , \cdots \in \mathfrak{M}\\ i \neq j \Longrightarrow E_i \cap E_j = \emptyset\\ \displaystyle \bigcup_{i=1}^{\infty} E_i \in \mathfrak{M} \end{cases} であれば μ(i=1Ei)=i=1μ(Ei) \mu \left( \bigcup_{i=1}^{\infty} E_i \right) = \sum_{i=1}^{\infty} \mu (E_i) である。

具体例

簡単な例

区間塊は可測集合です。よって,区間塊 EE に対して μ(E)=vol (E)\mu (E) = \mathrm{vol}\ (E) である。

1点集合は可測です。

可算な集合は1点集合が可算個集まったものです。そのため可算集合は可測です。さらに測度の完全加法性より,可算集合の測度は 00 です。

一般に次の命題が成り立ちます。

命題

μ(E)=0\mu (E) = 0 なら EE はルベーグ可測集合。

証明

ARnA \subset \mathbb{R}^n を任意とする。

μ(A)μ(AE)+μ(AEc)(劣加法性)μ(E)+μ(AEc)(単調性)μ(AEc)μ(A)(単調性)\begin{aligned} \mu^* (A) &\leqq \mu^* (A \cap E) + \mu^* (A \cap E^c) &(\text{劣加法性})\\ &\leqq \mu^* (E) + \mu^* (A \cap E^c) &(\text{単調性})\\ &\leqq \mu^* (A \cap E^c)\\ &\leqq \mu^* (A) &(\text{単調性}) \end{aligned} より μ(AE)+μ(AEc)=μ(A)\mu^* (A \cap E) + \mu^* (A \cap E^c) = \mu^* (A) である。こうして EE はルベーグ可測集合である。

開集合と閉集合

開集合と閉集合はルベーグ可測集合です。テクニカルな方法で証明します。集合論に自信がある方はぜひチャレンジしてください。

証明

開集合のときを考えれば十分である。

Rn\mathbb{R}^n の開集合 UU を任意に取る。x=(x1,x2,,xn)Ux = (x_1, x_2, \cdots , x_n) \in U に対して Ix=i=1n(ai,bi](ai,biQ, ai<xi<bi) I_x = \prod_{i=1}^{n} (a_i , b_i] \quad (a_i , b_i \in \mathbb{Q}, \ a_i < x_i < b_i) と定める。ai,biUa_i, b_i \in U となるように取ると,IxI_xxIxUx \in I_x \subset U を満たす区間である。IxI_x は区間なので可測である。

このとき U=xUIxU = \displaystyle \bigcup_{x \in U} I_x である。

特に Ix=IxI_x = I_{x'} となる区間を同一視する。こうして得られた区間の族を {Iλ}λΛ\{ I_{\lambda} \}_{\lambda \in \Lambda} とする。

IλI_{\lambda} は有理数 2n2n 個の対で決定されるため,Λ\Lambda の濃度は高々 Q2n\mathbb{Q}^{2n} の濃度である。よって Λ\Lambda は可算である。

可算個の可測集合の和はまた可測集合である。よって UU は可測である。

実は測度は開集合によって「近似」できます。

定理

任意の ARnA \subset \mathbb{R}^n に対して μ(A)=infAU, U:開集合μ(U) \mu^* (A) = \inf_{A \subset U,\ U : \text{開集合}} \mu (U) である。

ポイントは,可測集合ではないものも近似ができることです。非常に有用なので計算でしばしば使います。

カントール集合

カントール集合 とは,区間 [0,1][0,1] から「線分を三等分して真ん中を取り除く」という操作を無限回繰り返して得られる集合でした。

カントール集合 XX の外測度を計算してみましょう。

XnX_nnn 回目の操作までに取り除かれた区間とします。このとき X=i=1Xi\displaystyle X = \bigcap_{i=1}^{\infty} X_i です。 μ([0,1])=μ(X)+μ([0,1]\X)\mu^* ([0,1]) = \mu^* (X) + \mu^* ([0,1] \backslash X) なので,[0,1]\Xn[0,1] \backslash X_n を計算していきましょう。 μ([0,1]\Xn)=13+1323++13(23)n \mu^* ([0,1] \backslash X_n) = \dfrac{1}{3} + \dfrac{1}{3} \dfrac{2}{3} + \cdots + \dfrac{1}{3} \left( \dfrac{2}{3} \right)^n であるため, μ([0,1]\X)=13{1+23+(23)2+}=1\begin{aligned} \mu^* ([0,1] \backslash X) &= \dfrac{1}{3} \left\{ 1 + \dfrac{2}{3} + \left( \dfrac{2}{3} \right)^2 + \cdots \right\}\\ &= 1 \end{aligned} となります。よって μ(X)=μ([0,1])μ([0,1]\X)=0 \mu^* (X) = \mu^* ([0,1]) - \mu^* ([0,1] \backslash X) = 0 です。

このように非可算な集合でも外測度は 00 になり得ます。

こうしてカントール集合は可測集合となります。

奇妙な例

特殊な同値関係を考えます。x,y(0,1]x,y \in (0,1] に対して xyxyQ x \sim y \Longrightarrow x- y \in \mathbb{Q} により同値関係を定めます。この商集合 (0,1]/(0,1] / \sim の代表元の集合を XX とおきます。

XX がルベーグ可測集合と仮定しましょう。

Q[0,1]={p1,p2,}\mathbb{Q} \cap [0,1] = \{ p_1 , p_2, \cdots \} とおきましょう。

Xn={{x+pn}xX} X_n = \{ \{ x + p_n \} \mid x \in X \} (ただし {x}\{ x \}xx の小数部分を表すこととします。)

iji \neq j のとき XiXj=X_i \cap X_j = \emptyset です。実際,XiXjX_i \cap X_j \neq \emptyset を仮定すると {x+pi}={x+pj}\{ x + p_i \} = \{ x' + p_j \}x,xXx,x' \in X)とできます。xxQx-x' \in \mathbb{Q} ですが,XX の定義より xxQx - x' \notin \mathbb{Q} となり矛盾します。

(0,1]=n=1Xn (0,1] = \bigcup_{n=1}^{\infty} X_n となるため, 1=μ((0,1])=n=1μ(Xn) 1 = \mu ((0,1]) = \sum_{n=1}^{\infty} \mu (X_n) です。

μ(X)=μ(Xn)\mu (X) = \mu (X_n) であるため, 1=n=1μ(X)() 1 = \sum_{n=1}^{\infty} \mu (X) \quad \cdots\cdots (\ast) です。

μ(X)0\mu (X) \neq 0 のとき,()(\ast) の右辺は \infty に発散します。一方 μ(X)=0\mu (X) = 0 のとき,()(\ast) の右辺は 00 となります。

結果,μ(X)\mu (X) の値がどうであれ,()(\ast) の式は成り立ちません。

以上の議論から XX は可測ではありません。

この XXヴィタリ集合 と言われています。

まとめと今後の展望

Rn\mathbb{R}^n の部分集合 AA に一般的な「体積」を定義できました。具体的には2つの方法で計算します。

  1. AA を区間で覆い近似する。
  2. AA を開集合で近似する。

測度が 00 の集合をうまく使うことでバナッハ=タルスキのパラドックスという非常に面白い定理が証明できます。こちらはまた次の機会にしましょう。

測度の概念からルベーグ積分を定義できます。ルベーグ積分の世界で考えと,項別積分といった「極限と積分の入れ替え」についての議論を精密に行うことができるようになります。次回以降の記事をお楽しみに。

カラテオドリの条件という名前はおもしろいですね。