行列の指数関数 eA を計算していきましょう。なお,A は m×m 行列とします。
A が対角行列の場合
対角行列の場合は簡単です。
A=⎝⎛a10a2⋱0am⎠⎞ に対して eA を求めましょう。
An=⎝⎛a1n0a2n⋱0amn⎠⎞ であることは数学的帰納法より従います。こうして
eA=I+A+21A2+⋯=⎝⎛101⋱01⎠⎞+⎝⎛a10a2⋱0am⎠⎞+21⎝⎛a120a22⋱0am2⎠⎞+⋯=⎝⎛1+a1+21a12+⋯01+a2+21a22+⋯⋱01+am+21am2+⋯⎠⎞=⎝⎛ea10ea2⋱0eam⎠⎞
が得られます。実は一般の行列における指数関数の計算は,この対角行列の指数関数に帰着することになります。
A が対角化可能な場合
A の固有値を λ1,λ2,⋯,λm としましょう。なお,λ1=1,λ2=3,λ3=3 のように,値の重複は許すものとします。
D=⎝⎛λ10λ2⋱0λm⎠⎞
というように対角行列を D を取り,正則行列 P により,A=PDP−1 という式が成立するときを考えます。
行列の対角化の意味と具体的な計算方法 と 行列のn乗の求め方と例題 を踏まえ,計算すると
eA=I+A+21A2+⋯=PIP−1+PDP−1+21PD2P−1+⋯=P(I+D+21D2+⋯)P−1=P⎝⎛eλ10eλ2⋱0eλm⎠⎞P−1
と得られます。
A が対角化できない場合
対角化できないとなると,ジョルダン標準形の出番です。ジョルダン標準形については
ジョルダン標準形の意味と求め方
を参照してください。
A のジョルダン標準形
J=⎝⎛J(λ1,n1)0J(λ2,n2)⋱0J(λk,nk)⎠⎞
なる行列 J と,正則行列 P により,A=PJP−1 という式が成立するときを考えます。
ブロック行列として考えることで
Jn=⎝⎛J(λ1,n1)n0J(λ2,n2)n⋱0J(λk,nk)n⎠⎞
となります。したがって
eJ=⎝⎛eJ(λ1,n1)0eJ(λ2,n2)⋱0eJ(λk,nk)⎠⎞
であり,
eA=P⎝⎛eJ(λ1,n1)0eJ(λ2,n2)⋱0eJ(λk,nk)⎠⎞P−1
と計算されることがわかります。あとは各ジョルダン細胞にスポットを当てて計算すれば良いということですね。行列のn乗の求め方と例題 にも書いてありますが,ジョルダン細胞の n 乗は少々煩雑としています。最終的に無限和を取ることを踏まえて計算の工夫をすると,実は簡単に指数関数を求めることができます。
J(λi,ni)=⎝⎛λi01λi1⋱⋱λi01λi⎠⎞
に対して eJ(λi,ni) を求めましょう。J(λ1,ni) は対角成分がすべてλi である対角行列と,
⎝⎛00101⋱⋱0010⎠⎞
という特殊な形をした上三角行列の和になっています。これを踏まえて J(λi,ni)=λiI+N と分解して考えましょう。こうしてみると λiI⋅N=N⋅λiI であることがわかります。行列の指数関数についての指数法則のことを思い出すと, eJ(λi,ni)=eλiI+N=eλiIeN が成立することがわかります。
eλiI=eλiI です。一方
eN=I+N+21N2+⋯=⎝⎛101⋱101⎠⎞+⎝⎛00101⋱⋱0010⎠⎞+21⎝⎛0001⋱⋱0010⎠⎞+⋯+(m−1)!1⎝⎛000⋱010⎠⎞=⎝⎛1011211⋱⋯⋱⋱1(m−1)!1⋮2111⎠⎞
と計算されます。こうして eJ(λi,ni)=eλieN が計算できました。