行列の指数関数とその性質

更新日時 2021/03/07
行列の指数関数(eの行列乗)の定義

正方行列 AA に対して,eAe^A を以下の式で定義する。

eA=I+A+A22!+A33!+e^{A}=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\dfrac{A^3}{3!}+\cdots

ただし,IIAA と同じサイズの単位行列です。

aa が実数の場合の指数関数 eae^a はおなじみですが,この記事では行列の指数関数 eAe^A について紹介します。

目次
  • 行列の指数関数について

  • 行列の指数関数の例

  • 指数法則は成り立たない

  • 相似変換に関する性質

  • eAe^A が正則であること

行列の指数関数について

  • 行列の指数関数の定義は,eA=I+A+A22!+A33!+e^{A}=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\dfrac{A^3}{3!}+\cdotsです。右辺の無限和は任意の正方行列 AA に対して収束することが知られています。そのため,任意の AA に対して eAe^A を考えることができます。

  • 指数関数のマクローリン展開 ex=1+x+x22!+x33!+e^x=1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^3}{3!}+\cdotsと同じ形です。よって,AA のサイズが 1×11\times 1 のときは通常の指数関数と一致します。

行列の指数関数の例

対角行列 AA に対して,指数関数 eAe^A は簡単に計算できます!

A=(3004)A=\begin{pmatrix}3&0\\0&4\end{pmatrix} に対して,eAe^A を計算せよ。

Ak=(3k004k)A^k=\begin{pmatrix}3^k&0\\0&4^k\end{pmatrix} であることが帰納法よりわかります。

よって,

eA=I+A+A22!+=(1001)+(3004)+12!(320042)+=(e300e4)e^A=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\cdots\\ =\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}3&0\\0&4\end{pmatrix}+\dfrac{1}{2!}\begin{pmatrix}3^2&0\\0&4^2\end{pmatrix}+\cdots\\ =\begin{pmatrix}e^3&0\\0&e^4\end{pmatrix}

となります。このように,対角行列 AA に対して eAe^A は「ee の成分乗」を並べた対角行列になります。

似たような話が上三角行列の対角成分についても成り立ちます(後で使います)。

なお,AA が対角行列でない場合に eAe^A を計算する方法は,行列の指数関数の計算方法で詳しく説明しています。

指数法則は成り立たない

実数 a,ba,b に対しては指数法則 ea+b=eaebe^{a+b}=e^ae^b が成立しますが,行列 A,BA,B に対しては eA+B=eAeBe^{A+B}=e^Ae^B は一般には成立しません。

ただし,AABB が交換可能(つまり AB=BAAB=BA)な場合は eA+B=eAeBe^{A+B}=e^Ae^B が成立します。

相似変換に関する性質

A=PBP1A=PBP^{-1} のとき eA=PeBP1e^A=Pe^{B}P^{-1}

導出

eA=ePBP1=I+(PBP1)+(PBP1)22!+(PBP1)33!+e^A=e^{PBP^{-1}}\\ =I+(PBP^{-1})+\dfrac{(PBP^{-1})^2}{2!}+\dfrac{(PBP^{-1})^3}{3!}+\cdots

ここで,(PBP1)k=PBkP1(PBP^{-1})^k=PB^{k}P^{-1} なので上式は,

P(I+B+B22!+B33!+)P1=PeBP1P\left(I+B+\dfrac{B^2}{2!}+\dfrac{B^3}{3!}+\cdots\right)P^{-1}=Pe^{B}P^{-1}

となる。

eAe^A が正則であること

det(eA)=etrA\det (e^A)=e^{\mathrm{tr}\:A}

美しい公式です。そして,この公式から det(eA)>0\det (e^A)> 0 が分かるので eAe^A が正則であることも分かります!

証明

さきほどの相似変換に関する性質を使う。 A=PJP1A=PJP^{-1}JJAAジョルダン標準形)とすると,

eA=PeJP1e^{A}=Pe^{J}P^{-1}

である。両辺の行列式を考えると,det(eA)=det(PeJP1)\det (e^A)=\det (Pe^{J}P^{-1})

となる。積の行列式は行列式の積なので上式の右辺は det(eJ)\det (e^J) と等しい。

ここで,JJ は上三角行列であり対角成分は AA の固有値 λ1,,λn\lambda_1,\cdots,\lambda_n である。よって,eJe^J も上三角行列で対角成分は eλ1,,eλne^{\lambda_1},\cdots,e^{\lambda_n} である。

よって,det(eJ)=eλ1++λn=etrA\det (e^J)=e^{\lambda_1+\cdots +\lambda_n}=e^{\mathrm{tr}\:A}

(ただし,最後に「固有値の和=トレース」という性質を用いた→行列のトレースの性質とその証明

ちなみに,eX+Ye^{X+Y}eXeYe^Xe^Y の間の関係を表す公式にBaker-Campbell-Hausdorffの公式(名前長っ!)というものがあります。