テンソルとは何か Part.2

更新日時 2021/07/16

「テンソル」という言葉には,

  1. 代数学における「ベクトル空間のテンソル積」
  2. 物理や微分幾何における「テンソル場」
  3. その他,数の高次元配列としてのテンソルなど

といった,さまざまな意味がある。

(関係しているが)異なる概念に対して同じような名前がついていることによって,「テンソル」を学ぶ際には混乱することが多いです。

この記事ではPart.2として「テンソル積における基底変換」と物理や微分幾何における「テンソル場」について説明します。

テンソルとは何か Part.1

目次
  • ベクトル空間のテンソル積と基底のとりかえ

  • 双対空間,テンソル空間

  • テンソル場

  • 物理におけるテンソルとの関係

ベクトル空間のテンソル積と基底のとりかえ

ベクトル空間のテンソル積は次のようなものでした。

定義(基底によるもの)

V,WV, W を有限次元のベクトル空間とし,{e1,em},{f1fn}\{e_1, \dots e_m\}, \{f_1 \dots f_n\} をそれぞれ V,WV, W の基底のひとつとする。このとき VWV \otimes W は,形式的な記号 eifj,(i=1,m,j=1,n)e_i \otimes f_j, (i = 1, \dots m, j= 1, \dots n) を基底にもつベクトル空間である。つまり集合としては VW={i=1mj=1ncij(eifj)cijR,} V \otimes W = \left\{\sum_{i = 1}^m \sum_{j = 1}^n c_{ij} (e_i \otimes f_j) \mid c_{ij} \in \mathbb{R}, \right\} である。

またテンソル積 VWV \otimes W においては

(v+v)w=vw+vw (v + v')\otimes w = v\otimes w + v'\otimes w v(w+w)=vw+vw v \otimes( w + w’) = v \otimes w + v \otimes w’ (kv)w=v(kw)=k(vw) (kv) \otimes w = v \otimes (kw) = k(v \otimes w)

のような計算ができるのでした。これらをもとにして,別の基底 e1,,emVe'_1, \dots, e'_m \in Vf1,fnWf'_1, \dots f'_n \in W をとったときに得られる VWV \otimes W の新しい基底 {eifj}i,j\{e'_i \otimes f'_j\}_{i, j} と,元の基底 {eifj}i,j\{e_i \otimes f_j\}_{i, j} の関係を考えてみます。

まず {ei}i\{e_i\}_i および {ei}i\{e'_i\}_i はどちらも VV の基底なので,

ei=jaijej e'_i = \sum_j a_{ij} e_j

となるような aijRa_{ij} \in \mathbb{R} たちがただひとつ存在します。同じように WW の方でも

fi=jbijfj f'_i = \sum_j b_{ij} f_j

という関係が成り立っているとしましょう。このとき VWV \otimes W のふたつの基底 {eifj}i,j\{e'_i \otimes f'_j\}_{i, j}{eifj}i,j\{e_i \otimes f_j\}_{i, j} の関係は次のようになります。

命題(テンソル積における基底のとりかえ)

VWV \otimes W において eifj=k,laikbjlekfl e'_i \otimes f'_j = \sum_{k, l} a_{ik}b_{jl} e_k \otimes f_l が成り立つ。

証明

eifj=(kaikek)(lbjlfl)=k,laikbjlekfl \begin{aligned} e'_i \otimes f'_j &= \left( \sum_k a_{ik} e_k \right) \otimes \left(\sum_l b_{jl} f_l \right) \\ &= \sum_{k, l} a_{ik}b_{jl} e_k \otimes f_l \end{aligned} となる。(2つ目の等号で \otimes の双線形性を使った。)

さらに,3つ以上のベクトル空間のテンソル積も2つのときと同様に定義され,基底のとりかえも同じように計算できます。

定理

3つ以上のベクトル空間 U,V,W,U, V, W, \dots に対してもそのテンソル積 UVWU \otimes V \otimes W \otimes \cdots が定義される。具体的には U,V,W,U, V, W, \dots の基底を {ei}i,{fj}j,{gk}k,\{e_i\}_i, \{f_j\}_j, \{g_k\}_k, \dots としたとき {eifjgk}ijk\{e_i \otimes f_j \otimes g_k \otimes \cdots \}_{ijk\cdots}

を基底とするベクトル空間として

UVW={i,j,k,cijk(eifjgk)cijkR,} U \otimes V \otimes W \otimes \cdots \\ = \left\{\sum_{i, j, k, \dots} c_{ijk\cdots} (e_i \otimes f_j \otimes g_k \otimes \cdots) \mid c_{ijk\cdots} \in \mathbb{R}, \right\}

となる。

そして別の基底

ei=jaijeje'_i = \sum_j a_{ij} e_j fi=jbijfjf'_i = \sum_j b_{ij} f_j gi=jcijgjg'_i = \sum_j c_{ij} g_j \dots

にたいしては

eifjgk=p,q,r,(aipbjqckr)epfqgr e'_i \otimes f'_j \otimes g'_k \otimes \cdots \\ = \sum_{p, q, r, \dots} (a_{ip}b_{jq}c_{kr} \cdots) e_p \otimes f_q \otimes g_r \otimes \cdots

が成り立つ。

添字が増えてきて,物理で出てくるような「テンソル」っぽくなってきました。

双対空間,テンソル空間

物理や微分幾何で扱う「テンソル」について説明するには,双対空間についての準備が必要です。

ベクトル空間 VV 上の線形な関数 f ⁣:VRf \colon V \to \mathbb{R} を線形形式というのでした。(→ベクトル空間と次元

それら全体の集合を VV^* と書き,VV の双対空間といいます。これは関数としての和とスカラー倍を考えることでベクトル空間となります。

そして VV の基底 e1,,ene_1, \dots, e_n が与えられると,それと対をなす VV^* の基底 e1,,ene^*_1, \dots, e^*_n を次のようにとることができます。

定義(双対基底)

VV の基底 e1,,ene_1, \dots, e_n に対し,e1,,enVe^*_1, \dots, e^*_n \in V^* を次のように定める。

v=a1e1+anenVv = a_1e_1 + \cdots a_ne_n \in Vに対し

ei(v)=ai e^*_i(v) = a_i

つまり eie^*_i はベクトルの eie_i 方向成分を抜き出すという線形形式。これらは実は VV^* の基底をなす。これを e1,,ene_1, \dots, e_n双対基底という。

そして基底のとりかえと双対基底の関係は次のようになります。

命題

f1,fnVf_1, \dots f_n \in VVV の別の基底とし fi=j=1naijej f_i = \sum_{j = 1}^n a_{ij} e_j となっているとする。このとき行列 A=(aij)ijA = (a_{ij})_{ij} の逆行列の成分を A1=(bij)ijA^{-1} = (b_{ij})_{ij}とすると,{fi}i\{f_i\}_i の双対基底 {fi}i\{f^*_i\}_i{ei}i\{e_i\}_i の双対基底 {ei}i\{e^*_i\}_i によって

fi=j=1nbjiej f^*_i = \sum_{j = 1}^n b_{ji} e^*_j と表せる。

証明

両辺とも VV から R\mathbb{R} への線形写像だから,基底 f1,fnVf_1, \dots f_n \in V に対する値が一致していることを示せばよい。両辺にそれぞれ fkf_k を代入してみると,左辺は i=ki = k のとき 11 でそれ以外のとき 00,右辺は j=1nbjiej(fk)=j=1nbjiej(l=1naklel)=j=1nbjiakj=j=1nakjbji \begin{aligned} \sum_{j = 1}^n b_{ji} e^*_j \left(f_k \right) &= \sum_{j = 1}^n b_{ji} e^*_j \left(\sum_{l = 1}^n a_{kl} e_l \right) \\ &= \sum_{j = 1}^n b_{ji}a_{kj} \\ &= \sum_{j = 1}^n a_{kj}b_{ji} \end{aligned} となり,これは行列 AA1=IA \cdot A^{-1} = I(k,i)(k,i) 成分だから左辺に等しい。

この VVVV^* をそれぞれ rr 個,ss 個ずつテンソルしてできるベクトル空間を (r,s)(r, s)-型テンソル空間といい,Trs(V)T^s_r(V)のように書きます。 Trs(V)=VVundefinedrVVundefineds T^s_r(V) = \underbrace{V \otimes \cdots \otimes V}_{r \text{個}} \otimes \underbrace{V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_{s \text{個}}

そして Trs(V)T^s_r(V) の元を (r,s)(r, s) -テンソルといいます。

VV の基底 {ei}i\{e_i\}_i をひとつとると,それによって Trs(V)T^s_r(V) の基底

{ei1eirej1ejs}\{e_{i_1} \otimes \cdots \otimes e_{i_r} \otimes e^*_{j_1} \otimes \cdots \otimes e^*_{j_s}\}

が得られます。これを別の基底 {fi}i\{f_i\}_i でも考えたとき,

fi=jaijejf_i = \sum_{j} a_{ij} e_j

ならば

fi1firfj1fjs=k1,,kr,l1,,lsai1k1airkrbj1l1bjslsek1ekrel1elsf_{i_1} \otimes \cdots \otimes f_{i_r} \otimes f^*_{j_1} \otimes \cdots \otimes f^*_{j_s} \\ = \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} a_{i_1 k_1} \cdots a_{i_r k_r} b_{j_1 l_1} \cdots b_{j_s l_s} e_{k_1} \otimes \cdots \otimes e_{k_r} \otimes e^*_{l_1} \otimes \cdots \otimes e^*_{l_s}

が成り立ちます。(テンソル積の性質。)

テンソル場

この節ではベクトル場の一般化である「テンソル場」を導入し,それをどのように表すかを考察します。

ベクトル場

まずはわかりやすいベクトル場について考えてみましょう。平面や空間上の各点にベクトルを配置したものをベクトル場というのでした。あるいはもっと一般に曲線や曲面,多様体といった空間の上のベクトル場というものも考えられます。

定義

空間(正確には CC^\infty 多様体) MM の各点 pp にベクトル XpX_p を与える対応 XXMM 上のベクトル場という。

ここでベクトル XpX_p の意味をはっきりさせておきます。MM が普通の2次元平面や3次元空間であれば,XpX_p は普通の平面 or 空間ベクトル( = ベクトル空間 R2\mathbb{R}^2 or R3\mathbb{R}^3 の元)と考えれば ok です。しかしより一般的な空間を扱うにあたって,pp ごとにベクトル XpX_pの属するベクトル空間を区別して考えることが有用です。

例えば球面 S2S^2 上のベクトル場では,点 pp でのベクトル XpX_p の属するベクトル空間は次の図のように pp での接平面 TpS2T_pS^2 と考えるのが妥当です(下図参照)。

図1

空間 MM の点 pp を始点とする,MM に接する方向のベクトル全体を集めたベクトル空間を TpMT_pMMMpp での接空間)と書きます。 そして MM 上のベクトル場 XX とは,「点 pMp \in M に対して接空間 TpMT_pM のベクトル XpX_p を与える対応」となります。 図2

座標によるベクトル場の表示

空間 MM の座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n) が与えられとき,それを使ってベクトル場 XX を表す方法を考えます。

まずは座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n) を使って次のようなベクトル場を作ることができます。

事実 1

空間 MM の座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n) に対して,nn 個のベクトル場 x1,,xn \frac{\partial}{\partial x^1 }, \dots , \frac{\partial}{\partial x^n} が定義され,次の性質を満たす。

各点 ppnn 個のベクトル (x1)p,,(xn)pTpM \left(\frac{\partial}{\partial x^1}\right)_p, \dots , \left(\frac{\partial}{\partial x^n}\right)_p \in T_pM TpMT_pM の基底をなす。

(偏微分と同じ記号を使う理由については省略。)

厳密にどう作るかは省略しますが,だいたい下図のように,座標 xix^i のみが増える方向のベクトルを並べたものが xi\frac{\partial}{\partial x^i} です。

図3

さて,各点 pp において (x1)p,,(xn)pTpM \left(\frac{\partial}{\partial x^1} \right)_p, \dots , \left(\frac{\partial}{\partial x^n} \right)_p \in T_pM TpMT_pM の基底となるので,ベクトル場 XXpp での値 XpX_p はある実数 a1(p),an(p)a_1(p), \dots a_n(p) によって

Xp=i=1nai(p)(xi)p X_p = \sum_{i = 1}^n a_i(p) \left(\frac{\partial}{\partial x^i} \right)_p と表すことができます(成分表示)。a1(p),an(p)a_1(p), \dots a_n(p)pp についての関数だとみて X=i=1naixi X = \sum_{i = 1}^n a_i \frac{\partial}{\partial x^i} のようにも書きます。

これによって,座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n) を指定すればベクトル場 XXpp の関数の組 (a1(p),an(p))(a_1(p), \dots a_n(p)) によって表せることがわかります。

では別の座標 u1,,unu^1, \dots , u^n をとって X=i=1nbiui X = \sum_{i = 1}^n b_i \frac{\partial}{\partial u^i}

と表したときに,関数の組 (a1,an)(a_1, \dots a_n)(b1,,bn)(b_1, \dots, b_n) の間にはどのような関係があるでしょうか?

これを調べるには接空間 TpMT_pM の2組の基底 (x1)p,,(xn)p \left(\frac{\partial}{\partial x^1} \right)_p, \dots , \left(\frac{\partial}{\partial x^n} \right)_p (u1)p,,(un)p \left(\frac{\partial}{\partial u^1} \right)_p, \dots , \left(\frac{\partial}{\partial u^n} \right)_p の関係を使います。

事実 2

ベクトル空間 TpMT_pM の元として (uj)p=i=1n(xiuj(p))(xi)p \left(\frac{\partial}{\partial u^j} \right)_p = \sum_{i = 1}^n \left( \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) \right) \left(\frac{\partial}{\partial x^i} \right)_p が成り立つ。( pp を省略して uj=i=1nxiujxi \frac{\partial}{\partial u^j} = \sum_{i = 1}^n \frac{\partial x^i}{\partial u^j} \frac{\partial}{\partial x^i} とも書く。)

ここで xiuj(p)\frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) は 「xix^iu1,unu^1, \dots u^n の関数とみて uju^j で偏微分したもの」の pp での値である。(→偏微分の意味と高校数学への応用

平面の座標として標準座標 (x,y)(x, y) と極座標 (r,θ)(r, \theta) を考える。 x=rcosθy=rsinθ \begin{aligned} x &= r \cos \theta \\ y &= r \sin \theta \end{aligned} だから (xrxθyrxθ)=(cosθrsinθsinθrcosθ) \left(\begin{array}{cc} \frac{\partial x}{\partial r} & \frac{\partial x}{\partial \theta}\\ \frac{\partial y}{\partial r} & \frac{\partial x}{\partial \theta} \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} \cos \theta & -r \sin \theta\\ \sin \theta & r \cos \theta \end{array}\right) となるので,上の事実 2 より r=cosθx+cosθyθ=rsinθx+rsinθy \begin{aligned} \frac{\partial}{\partial r} &= \cos \theta \frac{\partial}{\partial x} + \cos \theta \frac{\partial}{\partial y} \\ \frac{\partial}{\partial \theta} &= -r \sin \theta \frac{\partial}{\partial x} + r \sin \theta \frac{\partial}{\partial y} \end{aligned} となる(下図参照)。

図4

図5

これを使えば (a1,an)(a_1, \dots a_n)(b1,,bn)(b_1, \dots, b_n) の間の関係は次のように計算できます。

Xp=j=1nbj(p)(uj)p=j=1nbj(p)i=1n(xiuj(p))(xi)p \begin{aligned} X_p &= \sum_{j = 1}^n b_j(p) \left(\frac{\partial}{\partial u^j} \right)_p \\ &=\sum_{j = 1}^n b_j(p) \sum_{i = 1}^n \left( \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) \right) \left(\frac{\partial}{\partial x^i} \right)_p \end{aligned} Xp=i=1nai(p)(xi)p X_p = \sum_{i = 1}^n a_i(p) \left(\frac{\partial}{\partial x^i} \right)_p (xi)p\left(\frac{\partial}{\partial x^i} \right)_p の係数を比較して

ai(p)=j=1nbj(p)xiuj(p) a_i(p) = \sum_{j = 1}^n b_j(p) \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) つまり関数として ai=j=1nbjxiuj a_i = \sum_{j = 1}^n b_j \frac{\partial x^i}{\partial u^j} となります。これがベクトル場を座標を使って成分表示したときの,成分の変換法則になります。これはいわゆる物理における「反変ベクトル」の変換法則です。(→物理的なテンソルの定義と例

物理との関係は後述します。

テンソル場と成分表示

テンソル場とは,空間 MM の各点 pp にベクトルの代わりにテンソルを対応させるものです。以下 TpMT^*_pMTpMT_pM の双対空間を表すとします。

定義

空間 MM の各点 pp に,TpMT_pM から定まるテンソル空間 TpMTpMundefinedrTpMTpMundefineds \underbrace{T_pM \otimes \cdots \otimes T_pM}_{r \text{個}} \otimes \underbrace{T^*_pM \otimes \cdots \otimes T^*_pM}_{s \text{個}} の元,つまり (r,s)(r, s)-テンソル ηp\eta_p を与えるような対応 η\eta を,MM 上の (r,s)(r, s)-テンソル場という。

定義はこのようにベクトル場とほとんど同じです。

テンソル積における基底の議論とベクトル場の成分表示を組み合わせて,テンソル場の成分表示を考察しましょう。まず記号を導入します。

定義

MM の座標 (x1,,xn)(x^1, \dots, x^n) による接空間 TpMT_pM の基底 (x1)p,,(xn)p \left(\frac{\partial}{\partial x^1} \right)_p, \dots , \left(\frac{\partial}{\partial x^n} \right)_p に対して,これによる TpMT^*_pM の双対基底を (dx1)p,,(dxn)p (dx^1)_p, \dots ,(dx^n)_p と表す。

これを使うと, TpMTpMundefinedrTpMTpMundefineds \underbrace{T_pM \otimes \cdots \otimes T_pM}_{r \text{個}} \otimes \underbrace{T^*_pM \otimes \cdots \otimes T^*_pM}_{s \text{個}} の基底として (xi1)p(xir)p(dxj1)p(dxjs)p\left(\frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \right)_p \otimes \cdots \otimes \left(\frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \right)_p \otimes (dx^{j_1})_p \otimes \cdots \otimes (dx^{j_s})_p

という元たちをとることができるので,(r,s)(r, s)-テンソル場 η\etapp での値 ηp\eta_pηp=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,ir(p)(xi1)p(xir)p(dxj1)p(dxjs)p \eta_p = \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}(p) \left(\frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \right)_p \otimes \cdots \otimes \left(\frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \right)_p \\ \otimes (dx^{j_1})_p \otimes \cdots \otimes (dx^{j_s})_p と成分表示することができます。(複雑に見えますが,ただのベクトルの成分表示とおなじです。

ベクトル場の成分表示と同様に,aj1,,jsi1,,ir(p)a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}(p)pp の関数とみて pp を省略し η=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs \eta = \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} \frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \\ \otimes dx^{j_1} \otimes \cdots \otimes dx^{j_s}

とも書きます。

これが座標を使ったテンソル場の成分表示です。( aj1,,jsi1,,ira^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} という関数たちが成分です。)

テンソル場と座標変換

MM の別の座標 u1,,unu^1, \dots, u^n を使って (r,s)(r, s)-テンソル場 η\eta を成分表示したときに,成分がどうなるか計算してみましょう。

まずは次の事実を使います。

定理

ベクトル空間 TpMT^*_pM の元として (duj)p=i=1n(ujxi(p))(dxi)p (du^j)_p = \sum_{i = 1}^n \left( \frac{\partial u^j}{\partial x^i}(p) \right) (dx^i)_p が成り立つ。( pp を省略して duj=i=1nujxidxi du^j = \sum_{i = 1}^n \frac{\partial u^j}{\partial x^i} dx^i とも書く。)

証明

上で見た双対基底の変換法則より,行列 (xiuj(p))ij \left( \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) \right)_{ij} の逆行列が (uixj(p))ij \left( \frac{\partial u^i}{\partial x^j}(p) \right)_{ij} であることを示せばよい。行列の積と逆行列の定義より j=1n(xiuj(p))(ujxk(p)) \sum_{j = 1}^n \left( \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) \right) \left( \frac{\partial u^j}{\partial x^k}(p) \right) i=ki = k のとき 11,そうでないとき 00 であることをいえばよく,それは合成関数の微分公式によって j=1n(xiuj(p))(ujxk(p))=xixk(p) \sum_{j = 1}^n \left( \frac{\partial x^i}{\partial u^j}(p) \right) \left( \frac{\partial u^j}{\partial x^k}(p) \right) = \frac{\partial x^i}{\partial x^k}(p) だから正しい。

これをテンソルの基底変換の式に当てはめれば, η\eta の成分表示の座標変換法則を計算できます。

η=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,kruk1ukrdul1duls \eta = \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial}{\partial u^{k_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial u^{k_r}} \\ \otimes du^{l_1} \otimes \cdots \otimes du^{l_s}

とすると,

uk=i=1nxiukxi \frac{\partial}{\partial u^k} = \sum_{i = 1}^n \frac{\partial x^i}{\partial u^k} \frac{\partial}{\partial x^i}

dul=j=1nulxjdxj du^l = \sum_{j = 1}^n \frac{\partial u^l}{\partial x^j} dx^j

を代入して

η=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,kruk1ukrdul1duls=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,kri1,,ir,j1,,jsxi1uk1xirukrul1xj1ulrxjrxi1xirdxj1dxjs \begin{aligned} \eta &= \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial}{\partial u^{k_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial u^{k_r}} \otimes du^{l_1} \otimes \cdots \otimes du^{l_s}\\ &= \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} \frac{\partial x^{i_1}}{\partial u^{k_1}} \cdots \frac{\partial x^{i_r}}{\partial u^{k_r}} \cdot \frac{\partial u^{l_1}}{\partial x^{j_1}} \cdots \frac{\partial u^{l_r}}{\partial x^{j_r}} \\ &\frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \otimes dx^{j_1} \otimes \cdots \otimes dx^{j_s} \end{aligned}

となるから,

η=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs \eta = \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} \frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \\ \otimes dx^{j_1} \otimes \cdots \otimes dx^{j_s} と比較して

aj1,,jsi1,,ir=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,krxi1uk1xirukrul1xj1ulrxjr a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} = \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial x^{i_1}}{\partial u^{k_1}} \cdots \frac{\partial x^{i_r}}{\partial u^{k_r}} \cdot \frac{\partial u^{l_1}}{\partial x^{j_1}} \cdots \frac{\partial u^{l_r}}{\partial x^{j_r}}

となります。アインシュタインの縮約記法を使うと

aj1,,jsi1,,ir=bl1,,lsk1,,krxi1uk1xirukrul1xj1ulrxjr a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} = b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial x^{i_1}}{\partial u^{k_1}} \cdots \frac{\partial x^{i_r}}{\partial u^{k_r}} \cdot \frac{\partial u^{l_1}}{\partial x^{j_1}} \cdots \frac{\partial u^{l_r}}{\partial x^{j_r}}

とも書けます(→アインシュタインの縮約記法)。これがテンソル場の座標による成分表示の座標変換です。

まとめ

  • MM 上の (r,s)(r, s)-テンソル場 η\eta とは,MM の各点 pp に対して TpMTpMundefinedrTpMTpMundefineds \underbrace{T_pM \otimes \cdots \otimes T_pM}_{r \text{個}} \otimes \underbrace{T^*_pM \otimes \cdots \otimes T^*_pM}_{s \text{個}} の元 ηp\eta_p を対応させるようなもののこと。(ベクトル場の一般化。)

  • (r,s)(r, s)-テンソル η\eta は,MM の座標 (x1,,xn)(x^1, \dots, x^n) をとるごとに,

η=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs \eta = \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} \frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \otimes dx^{j_1} \otimes \cdots \otimes dx^{j_s} 関数の組 {aj1,,jsi1,,ir}\{a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\} を使って表せる。

  • 座標をとりかえたときの η\eta の成分表示は次のように変換する。
定理

MM の2つの座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n)(u1,,un)(u^1, \dots, u^n) を使って MM 上の (r,s)(r, s)-テンソル場 η\etaη=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,irxi1xirdxj1dxjs=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,kruk1ukrdul1duls \begin{aligned} \eta &= \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} \frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \otimes dx^{j_1} \otimes \cdots \otimes dx^{j_s}\\ &= \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s} b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial}{\partial u^{k_1}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial u^{k_r}} \otimes du^{l_1} \otimes \cdots \otimes du^{l_s} \end{aligned} と成分表示したとき,それぞれの成分となる関数 aj1,,jsi1,,ira^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}bl1,,lsk1,,krb^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} の間には aj1,,jsi1,,ir=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,krxi1uk1xirukrul1xj1ulrxjr a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} = \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s}b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial x^{i_1}}{\partial u^{k_1}} \cdots \frac{\partial x^{i_r}}{\partial u^{k_r}} \cdot \frac{\partial u^{l_1}}{\partial x^{j_1}} \cdots \frac{\partial u^{l_r}}{\partial x^{j_r}} の関係がある。

物理におけるテンソルとの関係

物理においてテンソルは次のように定義されていました(→物理的なテンソルの定義と例)。

定義

MM の各座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n) ごとに MM 上の関数の組 {aj1,,jsi1,,ir}\{a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\} が与えられているとする。( i1,,ir,j1,,jsi_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s11 から nn までの整数をうごく添字。)

そして任意の2つの座標 (x1,,xn)(x^1, \dots , x^n)(u1,,un)(u^1, \dots, u^n) に対し,それぞれ {aj1,,jsi1,,ir}\{a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\}{bj1,,jsi1,,ir}\{b^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\} が対応するとき,関係式

aj1,,jsi1,,ir=k1,,kr,l1,,lsbl1,,lsk1,,krxi1uk1xirukrul1xj1ulrxjr a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s} = \sum_{k_1, \dots, k_r, l_1, \dots, l_s}b^{k_1, \dots, k_r}_{l_1, \dots, l_s} \frac{\partial x^{i_1}}{\partial u^{k_1}} \cdots \frac{\partial x^{i_r}}{\partial u^{k_r}} \cdot \frac{\partial u^{l_1}}{\partial x^{j_1}} \cdots \frac{\partial u^{l_r}}{\partial x^{j_r}}

が成り立っているとき,これらの関数の組たちは (r,s)(r, s)-テンソルであるという。

これは上で見たテンソル場の座標による成分表示の満たす性質そのものです。

よって(数学の意味での)(r,s)(r, s)-テンソル場 η\eta があったとき,座標による成分表示 {aj1,,jsi1,,ir}\{a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\} をとれば物理の意味でのテンソルになります。

逆に物理の意味での (r,s)(r, s)-テンソル {aj1,,jsi1,,ir}\{a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}\} があったときに,

ηp=i1,,ir,j1,,jsaj1,,jsi1,,ir(p)(xi1)p(xir)p(dxj1)p(dxjs)p \eta_p = \sum_{i_1, \dots, i_r, j_1, \dots, j_s} a^{i_1, \dots, i_r}_{j_1, \dots, j_s}(p) \left(\frac{\partial}{\partial x^{i_1}} \right)_p \otimes \cdots \otimes \left(\frac{\partial}{\partial x^{i_r}} \right)_p \\ \otimes (dx^{j_1})_p \otimes \cdots \otimes (dx^{j_s})_p

によって ηp\eta_p を定義すると,座標変換に対する関係式よりどの座標で計算しても ηp\eta_p の値は同じになるので,well-defined になります。これにより数学の意味での (r,s)(r, s)-テンソル場 η\eta が得られます。

結局,

数学における (r,s)(r, s)-テンソル場(の成分表示)

== 物理における (r,s)(r, s)-テンソル

ということになります。これらの見かけ上の違いは,ちょうど「ベクトル自体」と「その成分表示」の関係のようなものです。ベクトルの場合に基底のとり方によって成分表示がいろいろ変わるように,テンソル場では座標のとり方によって成分表示が変化します。

しかし,ベクトルの場合に基底を固定してすべてを成分で考えられるのと違い,ひとつの座標が全空間 MM で通用するとは限らないため,テンソル場においては複数の成分表示を扱うことが重要となります。

これが物理におけるテンソルの複雑さの一因ですが,「先にテンソル場というものがあって,それを各座標で表示した成分データをまとめたものである」と理解すれば掴みやすいかもしれません。

テンソル解析,添字しんどいがち。

入試数学コンテスト 成績上位者(X)