数学では,添字に対して総和をとることを,∑ をつけて表しました。物理では,総和をとることを強調する時にはそうすることもありますが,面倒なので総和記号を無視して書くことがあります。たとえば,
aμμ
という記号は,
aμμ=a00+a11+a22+a33
を表します。この記法のことをEinsteinの縮約記法,また単に,縮約記法と呼びます。他にも,和の記法,総和規約などと呼ばれることもあります。
添字の動く範囲は,その前後の議論の流れに依ります。慣例的に,0〜3を動く添字はギリシャ文字で,それ以外はアルファベットを用いて表されることが多いです。
他の例を見てみます。
aμbνcμ
は
aμbνcμ=a0bνc0+a1bνc1+a2bνc2+a3bνc3
を表します。この例のように,「1つの項の中に2つ現れる添字は総和をとり,1つしか現れない添字は総和をとらない」と約束します。
さらに,たとえば
aμbνcν+aαbσcσdμeα
は,
ν=0∑3aμbνcν+α=0∑3σ=0∑3aαbσcσdμeα
を意味するということです。当然ですが,
aμbβcβ+aγbδcδdμeγ
としても全く同じ式を表します。つまり,「総和をとる添字は,異なる添字に取り替えても構わない」といえます。
最初は戸惑うかもしれないが,使っているうちに慣れてきて当たり前になるので,違和感が拭えるまでは,頭のなかで総和記号を自分でつけながら数式を読んでください。以降,Einsteinの縮約記法を用いて数式を表現していきます。
では,ここでKroneckerのデルタ δνμ と呼ばれる記号を先取りして,練習に使います。→物理的なテンソルの定義と例
δνμ とは,
δνμ={10(μ=ν)(μ=ν)
を満たす記号です。δνμTσνλ という数を考えます。これは,
δ0μTσ0λ+δ1μTσ1λ+δ2μTσ2λ+δ3μTσ3λ
を表します。これは μ の値によって場合わけできて,
δνμTσνλ=⎩⎨⎧Tσ0λTσ1λTσ2λTσ3λ(μ=0)(μ=1)(μ=2)(μ=3)
となります。つまり,
δνμTσνλ=Tσμλ
として差し支えありません。よって,Kroneckerのデルタとの掛け算を考える際,「添字の交換」のようなことをすることで,簡単に計算できます。極端な例ですが,
δνμδσλδβαδδγTλαγν=Tσβδμ
などと計算できます。
←前の記事 後の記事→