ディリクレ関数の定義と有名な3つの性質

ディリクレ関数

実数全体で定義され,有理数のときに 11,無理数のときに 00 を取る関数をディリクレ関数と言う。

f(x)={1(xQ)0(otherwise) f(x) = \begin{cases} 1 & (x\in \mathbb{Q}) \\ 0 & (\mathrm{otherwise}) \end{cases}

ディリクレ関数について,以下の話題を解説します。

  1. いたるところで不連続
  2. cos\cos と極限で表せる
  3. リーマン積分不可能,ルベーグ積分可能(高校範囲外)

連続性

ディリクレ関数はいたるところで不連続である。

これは以下の2つの事実から分かります。

  • 有理数 qq を一つ固定すると,qq にいくらでも近い無理数を取ってこれる
  • 無理数 rr を一つ固定すると,rr にいくらでも近い有理数を取ってこれる

ディリクレ関数のグラフ

ディリクレ関数は「任意の点で関数のグラフがつながっていない」という不思議な関数です。グラフを強引に描こうとすると図のようになります。点同士が重なり合って線みたいに見えます。

cosと極限で表せる

ディリクレ関数 f(x)f(x) は以下のように表せる:

f(x)=limn{limkcos2k(n!πx)}f(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\{\lim_{k\to\infty}\cos^{2k}(n!\pi x)\}

かなりかっこいい式です!

証明

中括弧の中は nnxx のみに依存することに注意して,

an(x)=limkcos2k(n!πx)a_n(x)=\displaystyle\lim_{k\to\infty}\cos^{2k}(n!\pi x) とおく。

  • xx が有理数のとき
    nn が十分大きければ n!xn!x は整数,つまり cos(n!πx)=±1\cos(n!\pi x)=\pm 1
    よって,nn が十分大きいとき an(x)=limk1k=1a_n(x)=\displaystyle\lim_{k\to\infty}1^k=1
    つまり,limnan(x)=1\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n(x)=1

  • xx が無理数のとき
    任意の nn に対して n!xn!x は整数でない,つまり 1<cos(n!πx)<1-1 <\cos(n!\pi x) < 1
    よって,任意の nn に対して an(x)=0a_n(x)=0
    つまり,limnan(x)=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n(x)=0

リーマン積分とルベーグ積分

積分にはリーマン積分とルベーグ積分の2種類があります。高校数学で扱う普通の関数については,両者は一致します。

大雑把にはリーマン積分は「縦に細かく切って足し合わせる」,ルベーグ積分は「横に細かく切って足し合わせる」というイメージです。詳しくは別記事で紹介しています。

ディリクレ関数は「リーマン積分はできないけどルベーグ積分はできる」関数としてとても有名です。このような関数が存在することは,ルベーグ積分の必要性の一つの根拠になっています。

ディリクレ関数の積分

ディリクレ関数 f(x)f(x) の区間 [0,1][0,1] 上での積分を考えてみます。大雑把な説明です。

リーマン積分不可能

縦にいくら細かく切っても,長方形の縦の長さを 00 にしてよいか 11 にしてよいのかが決まらない(上リーマン和と下リーマン和の極限が一致しない)。

よって,ディリクレ関数は [0,1][0,1] 上でリーマン積分不可能。

ルベーグ積分可能

[0,1][0,1] 区間において,

f(x)=0f(x)=0 を与える xx たち(無理数の集合)が占める区間の「大きさ」(ルベーグ測度)は 11 である(注)。

f(x)=1f(x)=1 を与える xx たち(有理数の集合)が占める区間の「大きさ」は 00 である。

よって,ルベーグ積分の値は 00 である。

(注)直感的には [0,1][0,1] 区間内の実数のほとんどが無理数であることから。厳密には測度の完全加法性より可算集合のルベーグ測度が 00 であることから(有理数は可算無限集合)。→集合の濃度と可算無限・非可算無限

このようなヤバい関数が楽しい!という人もいますし,ヤバい関数は実際出てこないから都合のいい関数だけ考える,という人もいます。