不等式証明のコツ2:斉次式化
条件付きの対称な不等式の証明問題は,全ての項の次数を一致させる(斉次式にする)と見通しがよくなることが多い。
数学オリンピックの不等式証明問題の多くが,対称な条件を持っています。
つまり, や のもとで不等式を証明せよ,という問題です。
そのような問題では,条件をうまく利用して不等式を同値な斉次式に変換(斉次式化)してから証明すると楽になることが多いです。
斉次式とは
斉次式とは
斉次式とは,全ての項の次数が等しい多項式のことです。
同次式,斉次多項式,同次多項式などとも言います。
なお,この記事では以下のような「多項式ではないがすべての項が同じ次数っぽい式」も斉次式と呼ぶ場合があります。
-
→ 最後の項が多項式ではないので,厳密には「斉次多項式」ではないが,すべての項が「2次」っぽい -
→ 同じく多項式ではないが,すべての項が「 次」っぽい
不等式が斉次式っぽいと嬉しい事があり,証明の見通しがよくなります。
斉次式だとなぜ嬉しいのか
斉次式だとなぜ嬉しいのか
嬉しい事1:自由にスケーリングできる
例えば,両辺が2次の斉次式である, という不等式は を全て 倍すると左辺も右辺も 倍され,不等式の形は変わりません。
つまり,不等式が正しいかどうかは の比率のみで決まるのです。
よって,「任意の 」について不等式を証明しなくても 「 が任意の比率のとき」に証明すれば十分であることが分かります。
例えば, が不等式を満たすかどうかは が不等式を満たすかどうかと同値なので, の場合だけ考えればよいとも言えます。
このように加えた条件を規格化条件と言います。適切に規格化することによって式が簡単になります。
規格化条件には,例えば や や などが使われます。
嬉しい事2:Schurの不等式やMuirheadの不等式が使える。
斉次式の場合に使える有名な不等式として,Schurの不等式やMuirheadの不等式が使えます。
嬉しい事3:相加相乗平均の不等式やシュワルツの不等式なども使いやすい
非斉次の場合よりも式が綺麗な場合が多いので,見通しよく計算できます。
以上,斉次式の嬉しい事を紹介しましたが,この記事で紹介するのは「条件付き不等式証明の斉次式化」ということで,すでに変数が規格化されている問題を扱うので,主に嬉しい事2,3が大事になってきます。
斉次式化することで証明する不等式の例
斉次式化することで証明する不等式の例
のもとで を証明せよ。
この程度の不等式なら を消去して だけの式にして分母を払って証明してもよいですが,対称性を保ったまま変形したほうが見通しがよくなるので, を用いて強引に斉次式にします。
を用いて両辺が1次の斉次式となる同値な不等式に変形する:
分母を払って整理すると,以下の不等式と同値であることが分かる:
これは対称式であり簡単に因数分解できて証明が完了する:
のもとで を証明せよ。
左辺が1次で右辺が2次なので条件式を用いて左辺の次数を1増やします。出てきた不等式を見て3変数の対称な不等式のコツ:3つに分解するを思い出せば自然に相加相乗平均の不等式を用いることが分かるでしょう。
より左辺に を掛けて2次の斉次式にする:
相加相乗平均の不等式を用いて左辺を1項ずつ上から抑える:
同様に,
以上3つの不等式を足しあわせて求める不等式を得る。
のもとで を証明せよ。
今までの問題と同様に斉次式にしてから整理していきます。最後はSchurの不等式を知っていれば一瞬です。
両辺を4倍して右辺を 倍する:
右辺を展開して整理:
また,Schurの不等式より,
より目標の不等式が示された。
私は,斉次式のことを知らない高校時代に「斉次式なので としてよい」という主張がなかなか理解できずに苦しんだ記憶があります。