円分多項式とその性質

ζn=e2πin=cos2πn+isin2πn\zeta_n=e^{\frac{2\pi i}{n}}=\cos \dfrac{2\pi}{n}+i\sin\dfrac{2\pi}{n}nn 乗して 11 になる数のうちの一つ)とおく。多項式

Fn(x)=kAn(xζnk)F_n(x)=\displaystyle\prod_{k\in A_n} (x-\zeta_n^k)

を円分多項式(円周等分多項式)と言う。

ただし,AnA_n11 以上 nn 以下の整数で,nn と互いに素なもの全体の集合です。

具体例

ζ1=1\zeta_1=1F1(x)=x1F_1(x)=x-1

ζ2=1\zeta_2=-1F2(x)=x+1F_2(x)=x+1

ζ3=1+3i2\zeta_3=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}F3(x)=(xζ3)(xζ32)=x2+x+1F_3(x)=(x-\zeta_3)(x-\zeta_3^2)=x^2+x+1

ζ4=i\zeta_4=iF4(x)=(xζ4)(xζ43)=x2+1F_4(x)=(x-\zeta_4)(x-\zeta_4^3)=x^2+1

円分多項式は整数係数多項式であることが証明されています。また,Fn(x)F_n(x) は最高次の係数が 11 である ϕ(n)\phi(n) 次多項式です(ϕ(n)\phi(n)オイラーのファイ関数)。

素数に対する円分多項式

素数 pp に対する円分多項式は簡単に求まります。

pp が素数のとき,Fp(x)=xp1+xp2++x+1F_p(x)=x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots +x+1

確かに F2(x)=x+1F_2(x)=x+1F3(x)=x2+x+1F_3(x)=x^2+x+1 となっています。

証明

円分多項式の定義より,

Fp(x)=k=1p1(xζpk)F_p(x)=\displaystyle\prod_{k=1}^{p-1}(x-\zeta_p^k)

である。これと,

xp1=k=1p(xζpk)x^p-1=\displaystyle\prod_{k=1}^{p}(x-\zeta_p^k) より,

Fp(x)=xp1x1=xp1+xp2++x+1F_p(x)=\dfrac{x^p-1}{x-1}=x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots +x+1

ただし,最後の等号は因数分解公式(n乗の差,和)

性質

任意の正の整数 nn に対して xn1=dnFd(x)x^n-1=\displaystyle\prod_{d\mid n}F_d(x)

右辺の積は,ddnn の約数全体を動くという意味です。例えば,n=4n=4 の場合,

F1(x)F2(x)F4(x)=(x1)(x+1)(x2+1)=x41F_1(x)F_2(x)F_4(x)=(x-1)(x+1)(x^2+1)=x^4-1

という式になります。

証明の概略

左辺は,k=1n(xζnk)\displaystyle\prod_{k=1}^n(x-\zeta_n^k) である。

nnkk の最大公約数が nd\dfrac{n}{d}」という条件を満たす kk の部分のみの積が Fd(x)F_d(x) であることを示せばよい(略)。

既約性

任意の正の整数 nn に対して Fn(x)F_n(x) は既約である。つまり,P(x)Q(x)=Fn(x)P(x)Q(x)=F_n(x) となるような整数係数多項式 P(x)P(x)Q(x)Q(x) は存在しない。

円分多項式の著しい性質です。一般の場合の証明は少し大変ですが,nn が素数の場合は比較的簡単です。

具体的には,アイゼンシュタインの定理と平行移動を用います。 アイゼンシュタインの定理の例2で F5(x)=x4+x3+x2+x+1F_5(x)=x^4+x^3+x^2+x+1 が既約であることを証明しています。一般の素数 pp に対しても全く同様に証明できます。

n104n\leq 104 において円分多項式の係数は 0,±10,\pm 1 のいずれかですが,F105(x)F_{105}(x) の係数には 2-2 が現れるようです。