トレミーの定理とその3通りの証明,応用例

トレミーの定理

円に内接する四角形 ABCDABCD において, AB×CDAD×BCAC×BDAB×CD+AD×BC=AC×BD が成立する。これをトレミーの定理と言う。

トレミーの定理

上×下左×右=対角線のかけ算」

という定理です。トレミーの定理を使う例題と,トレミーの定理の3通りの証明を紹介します。

トレミーの定理の例

トレミーの定理の例として,長方形の場合を見てみます。長方形は円に内接する四角形なので,トレミーの定理が使えます。

トレミーの定理の応用1

長方形の辺の長さを a,ba,b,対角線の長さを cc とおきます。トレミーの定理より「上×下左×右=対角線のかけ算」なので a2+b2=c2a^2+b^2=c^2 となります。これは三平方の定理より,確かに成立していることがわかります(逆に,トレミーの定理を使うことで三平方の定理が証明できる,とも言えます)!

トレミーの定理の応用〜正五角形~

トレミーの定理を使うと鮮やかに解ける例題を紹介します。

例題1

1辺の長さが1の正五角形の対角線の長さ xx を求めよ。

トレミーの定理の応用2

解答

正五角形は円に内接する。よって,4つの頂点を選んで四角形をつくりトレミーの定理を適用すると,

1×1+x×1=x×x1\times 1+x\times 1=x\times x

つまり 1+x=x21+x=x^2

この二次方程式を解くと, x=1+52x=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}

有名な黄金比が登場しました。より詳しくは →正五角形の対角線の長さと作図方法

トレミーの定理の証明

トレミーの定理の証明を3通り紹介します。

1. 三角形の相似を使った証明

方針

補助線を1本引くと,相似な三角形が2組現れます。発想力が必要ですが美しい証明です。

証明

対角線 BDBD 上に,DAM=BAC\angle DAM=\angle BAC となるように点 MM を取る。

トレミーの定理の証明

すると,左図で円周角の定理より★の角度は等しいので三角形 AMDAMDABCABC は相似。よって, AD:AC=DM:BCAD×BC=AC×DMAD:AC=DM:BC\\ AD\times BC=AC\times DM

同様に,右図で円周角の定理より■の角度は等しいので三角形 ADCADCAMBAMB が相似。よって, AB:AC=BM:CDAB×CD=AC×BMAB:AC=BM:CD\\ AB\times CD=AC\times BM

以上2つの式を足すと,トレミーの定理を得る:
AB×CD+AD×BC=AC×(BM+DM)=AC×BD\begin{aligned}&AB\times CD+AD \times BC\\&=AC\times (BM+DM)\\ &=AC\times BD\end{aligned}

2. 余弦定理で対角線の長さを計算する証明

方針

余弦定理を用いて,対角線の長さを四角形の4辺の長さで表します。機械的な計算で証明できます。

証明

トレミーの定理の証明2

AB=a,BC=b,CD=c,DA=d,AC=e,BD=fAB=a, BC=b, \\CD=c, DA=d,\\ AC=e, BD=f

とおく。また,ABC=θ∠ABC=θ とおく(すると,円に内接する四角形の性質より ADC=πθ∠ADC=\pi-θ となる)。

三角形 ABCABC に余弦定理を使うと, a2+b2e22ab=cosθ\dfrac{a^2+b^2-e^2}{2ab}=\cos\theta

三角形 ADCADC に余弦定理を使うと, c2+d2e22cd=cos(πθ)\dfrac{c^2+d^2-e^2}{2cd}=\cos(\pi-\theta)

ここで,cosθ=cos(πθ)\cos\theta=-\cos(\pi-\theta) より a2+b2e22ab=c2+d2e22cd\dfrac{a^2+b^2-e^2}{2ab}=-\dfrac{c^2+d^2-e^2}{2cd}

この等式を e2e^2 について解くと, e2=(ac+bd)(ad+bc)ab+cde^2=\dfrac{(ac+bd)(ad+bc)}{ab+cd}

全く同様にして f2=(ac+bd)(ab+cd)ad+bcf^2=\dfrac{(ac+bd)(ab+cd)}{ad+bc}

もわかる。以上2式を辺々掛け合わせて平方根を取ると, ef=ac+bdef=ac+bd となり,トレミーの定理を得る。

3. 正弦定理による証明

方針

正弦定理を用いて両辺を角度の情報に変換します。機械的な計算で証明できます。

証明

トレミーの定理の証明3

円の半径を RR とする。図のように θ1,,θ4\theta_1,\cdots,\theta_4 を定める。正弦定理より,

ac+bd=(2Rsinθ1)(2Rsinθ3)+(2Rsinθ2)(2Rsinθ4)\begin{aligned}&ac+bd\\ &=(2R\sin\theta_1)(2R\sin\theta_3)\\&\:\:\:+(2R\sin\theta_2)(2R\sin\theta_4)\end{aligned}

同様に, ef=4R2sin(θ1+θ2)sin(θ2+θ3)ef=4R^2\sin(\theta_1+\theta_2)\sin(\theta_2+\theta_3)

よって,トレミーの定理 ac+bd=efac+bd=ef を証明するには, sinθ1sinθ3+sinθ2sinθ4=sin(θ1+θ2)sin(θ2+θ3)\begin{aligned}&\sin\theta_1\sin\theta_3+\sin\theta_2\sin\theta_4\\ &=\sin(\theta_1+\theta_2)\sin(\theta_2+\theta_3)\end{aligned} を示せばよい。θ4=180(θ1+θ2+θ3)\theta_4=180^{\circ}-(\theta_1+\theta_2+\theta_3) に注意すると, sinθ1sinθ3+sinθ2sin(θ1+θ2+θ3)=sin(θ1+θ2)sin(θ2+θ3)\begin{aligned}&\sin\theta_1\sin\theta_3+\sin\theta_2\sin(\theta_1+\theta_2+\theta_3)\\& =\sin(\theta_1+\theta_2)\sin(\theta_2+\theta_3)\end{aligned} を示せばよい。両辺を頑張って加法定理で展開すると一致することがわかる。

具体的には,両辺ともに以下の式になる:

sinθ1sinθ2cosθ2cosθ3+cosθ1sinθ22cosθ3+sinθ1cosθ22sinθ3+cosθ1sinθ2cosθ2sinθ3\begin{aligned}&\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_2\cos\theta_3\\& +\cos\theta_1\sin\theta_2^2\cos\theta_3\\& +\sin\theta_1\cos\theta_2^2\sin\theta_3\\& +\cos\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_2\sin\theta_3\end{aligned}

他にも初等幾何を用いる方法や複素数を用いる方法もあります。(詳しくはwikipedia参照

トレミーの定理を使う例題

例題2

正三角形 ABCABC と,その外接円上の点 DD について,AD+CD=BDAD+CD=BD であることを証明せよ。

トレミーの定理の応用3

トレミーの定理を使うだけで簡単に証明できます。確認してみてください。AD+CD=BDAD+CD=BD はわりと有名な美しい関係式です。

例題3

正七角形について,異なる2頂点を結ぶ線分の長さは3通りあるが,それを長い順に a,b,ca,b,c とする。このとき,1c=1a+1b\dfrac{1}{c}=\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b} であることを証明せよ。なお,この等式を正七角形調和と言う。

証明

正七角形調和 正七角形は円に内接する。よって,トレミーの定理より ab=bc+acab=bc+ac がわかる。両辺を abcabc で割ると正七角形調和が証明された。

プトレマイオスの定理とも言うみたいです。