図形と図形で”はさみうち”~京大特色2025第3問

京都大学特色入試2025第3問

座標平面における領域 A={(x,y)yex} A= \{ (x,y) \mid y \geqq e^x \} で定まる図形 AA を考える。AA に対して,原点を中心とする回転や平行移動を,何回か行って得られる図形を nn 個用意し,それぞれ A1,A2,,AnA_1, A_2, \cdots , A_n とする。

このとき,A1,A2,,AnA_1 , A_2 , \cdots , A_n により座標平面を覆うことのできる nn の最小値を求めよ。

この記事では京大特色入試の問題を解説します。シンプルで深い知識は必要ないものの,テクニックが問われる良問です。

解答の指針

最小値を求める問題は

  • 最小値で実際に解が構成できることを確認する
  • それ未満で不可能であることを示す

という2ステップで議論することがポイントです。

解答

ステップ1:例の構成

ステップ1

まず4個で覆うことができることを確認する。

A1={(x,y)yex1} A_1 = \{ (x,y) \mid y \geqq e^x - 1 \} とおく。これは AA を平行移動したものである。また,A1A_1 は第2象限をすべて含む。

A1A_19090^{\circ}180180^{\circ}270270^{\circ} 回転させたものを順に A2,A3,A4A_2,A_3,A_4 とすると,順に第3,4,1象限を含むため,これらで座標平面を覆うことができる。

pic11

ステップ1を元にした考察

ステップ1で構成した例のポイントは,AA' が座標平面を四等分したときの1パーツ({(x,y)x0,y0}\{ (x,y) \mid x \leqq 0 , y \geqq 0 \})を含んでいることです。

3つで覆えるかどうか考察するため,座標平面を3等分したときの1パーツと AA を比較してみましょう。

pic12

AA のほうが含まれます。

AA を含み3等分したパーツに含まれる,より小さい「扇」を用意して,その図形3つでは座標平面を覆えないことを示せば,AA 3つで座標平面を覆えないことも分かります。

ステップ2:それ未満の解がないこと

定義

以下の議論を簡単にするため,1点(頂点と呼ぶ)とその点を端とする半直線2本で囲まれる図形をということにする。扇は線対称な図形であることに注意したい。

※ ベクトルを用いると次のように表すことができる図形を指す。 {pundefined+smundefined+tnundefineds,t0} \{ \overrightarrow{p} + s \overrightarrow{m} + t \overrightarrow{n} \mid s,t \geqq 0 \}

以下,(\spadesuit)というマークが付いている箇所は図より従うということで証明をしていません。実際に証明を書く場合は,上で定義した扇のベクトルによる表示によって確認することができます。

ステップ2

AA を含む扇を作る。

原点を通り y=exy = e^x と接する直線は y=exy = ex である。よって B={(x,y)x0,y0}{(x,y)x0,yex} B = \{ (x,y) \mid x \leqq 0 , y \geqq 0 \} \cup \{ (x,y) \mid x \geqq 0 , y \geqq ex \} とすると ABA \subset B である。

pic21

よって以下 BB に対して,原点を中心とする回転や平行移動を,何回か行って得られる図形3つで座標平面を覆えると仮定して矛盾を示す。(BB で覆えないのであれば,BB の部分集合である AA でも覆うことはできないためこれで題意が示される。)

以下議論のために図のように

  • BB の頂点(点 (0,0)(0,0))を P\mathrm{P}
  • 半直線 {(x,y)x0,y=0}\{ (x,y) \mid x \leqq 0 , y = 0 \}mm
  • 半直線 {(x,y)y=ex,x0}\{ (x,y) \mid y = ex , x \geqq 0 \}nn

とおく。

pic22

BiB_i で対応する図形を順に Pi\mathrm{P}_imim_inin_i とおく。minim_i \cup n_i の図形を境界と呼ぶ。

また,BB の頂角(mmnn で挟まれる角のうち小さい方)の大きさを θ\theta とおく。tanθ=e>1=tan3π4\tan \theta = - e > -1 = \tan \dfrac{3\pi}{4} より π2<θ<3π4\dfrac{\pi}{2} < \theta < \dfrac{3\pi}{4} である。

適切に回転と平行移動をすることで B2=BB_2 = B としてよい。

また,議論のために直線 y=exy = ex を新たに yy' 軸とよぶことにする。

さらに (0,0)Bi (i=1,3)(0,0) \notin B_i \ (i=1,3) である場合を考える。BiB_i をその線対称の軸に沿って (0,0)(0,0) を含むように平行移動したものを BiB_i' とおくと,BiBiB_i \subset B_i' であるため,BiB_iBiB_i' に取り換えて議論してよい。ゆえに B1,B3B_1,B_3 はどれも (0,0)(0,0) を含むものとして議論する。

加えて mim_i または nin_i に沿った平行移動を行うことで,i=1,3i=1,3 について mi,nim_i,n_i のうち片方だけが B2B_2 と共通部分を持つとしてよい。

  • B2B_2n1,n3n_1,n_3 が共通部分を持つ場合

m1,m3m_1,m_3 の傾きをそれぞれ a1,a3a_1,a_3 とおく。

m1,m3m_1,m_3BBθ\theta 回転させた図形と共通部分を持つ。m1,m3m_1,m_3xx 方向に平行移動させても共通部分を持つため,原点を通りそれぞれと平行な直線を考えることで a1,a30,a1,a3m a_1,a_3 \geqq 0 , a_1,a_3 \leqq -m を得る。

m1,m3m_1,m_3xx の負方向に延びる半直線である(\spadesuit)であるため,十分大きい正の実数 RR について (R,R(e1))(R,R(e-1))B1,B3B_1,B_3 に含まれない。

また,n2n_2 の傾きは ee であるため,(R,R(e1))(R,R(e-1))B1B_1 にも含まれない。

よってこれは矛盾する。

  • B2B_2m1,m3m_1,m_3 が共通部分を持つ場合

上のケースと同様に考える。n1,n3n_1,n_3 の傾きをそれぞれ b1,b3b_1,b_3 とおくと 2ee21b1,b3e -\dfrac{2e}{e^2-1} \leqq b_1 , b_3 \leqq e である。

なお,不等式の左は tanϕ=e\tan \phi = e を満たす ϕ\phi を取ると,tan\tan の加法定理より tan(ϕθ)=e(e)1+e(e)=2e1e2 \tan (\phi - \theta) = \dfrac{e-(-e)}{1+e(-e)} = \dfrac{2e}{1-e^2} と得られる。

よって十分大きい RR について (R,Re)(-R,-Re) とおくとこれはどの BiB_i にも含まれない。よって矛盾が生じる。

  • B2B_2m1,n3m_1,n_3 が共通部分を持つ場合

m3m_3 の傾きを a3a_3 とすると,1つ目のケースと同様に考えることで a30,a3e a_3 \geqq 0 , a_3 \leqq - e となる。

n1n_1 の傾きを b1b_1 とすると,2つ目のケースと同様に考えることで 2ee21b1e -\dfrac{2e}{e^2-1} \leqq b_1 \leqq e となる。

さて e(2ee21)=(e21)+2e21e=e2+3e21e<0\begin{aligned} & -e - \left( -\dfrac{2e}{e^2-1} \right)\\ &= \dfrac{-(e^2-1)+2}{e^2-1}e\\ &= \dfrac{-e^2+3}{e^2-1}e \\ &< 0 \end{aligned} より e<2ee21-e < - \dfrac{2e}{e^2-1} である。

ゆえに原点から十分遠い箇所で n1n_1 は常に m3m_3 よりも反時計回りに進んだ位置にある。つまり e<t<2ee21-e < t < - \dfrac{2e}{e^2-1} を満たす実数を取ると,十分大きな正の実数 RR について (R,Rt)(R,Rt)B1,B3B_1,B_3 どちらにも含まれない。

また,R>0,Rt<0R > 0, Rt < 0 であるため,B2B_2 にも含まれない。

こうした点の存在は B1,B2,B3B_1,B_2,B_3 では座標平面を覆うことと矛盾する。

よって BB に対して,原点を中心とする回転や平行移動を,何回か行って得られる図形3つで座標平面を覆うことはできない。ABA \subset B より AA についても同様に原点を中心とする回転や平行移動を,何回か行って得られる図形3つで座標平面を覆うことはできない。

こうして求める nn の最小値は 44 である。

扱いやすい配置に帰着させて具体的な式で攻めることがポイントでした。非常に良い問題ですね。