素因数の数の評価~京大特色2023

京都大学特色入試2023大問1

22 以上の自然数 nn に対して,nn を割り切る素数の個数を f(n)f(n) とする。例えば n=120n=120 のとき,120120 を割り切る素数は 223355 なので,f(120)=3f(120) = 3 である。不等式 f(n)n2f(n) \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2} を満たす 22 以上の自然数 nn をすべて求めよ。

京大の特色入試の問題を解説します。

素因数の数を評価していきます。

方針

まず,具体例でいろいろ実験しましょう。

  • nn が素数の場合,f(n)=1f(n) = 1 であるため 1n21 \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2} を満たす nn2233 です。

  • n=30n=30 のとき 302<62=3\dfrac{\sqrt{30}}{2} < \dfrac{6}{2} =3 となりうまくいきます。

  • 素因数の数が増えると,f(n)f(n) よりも n\sqrt{n} の方が大きくなって厳しそうです。例えば,n=2357=210n = 2 \cdot 3 \cdot 5 \cdot 7=210 のとき,f(210)=4f(210) = 4 であり,2102>142>4\dfrac{\sqrt{210}}{2} > \dfrac{14}{2} >4 です。そして,nn の素因数の数が 44 であれば,n210n \geqq 210 より n22102>4=f(n) \dfrac{\sqrt{n}}{2} \geqq \dfrac{\sqrt{210}}{2} > 4 = f(n) です。よって,素因数の数が 44 つあるとダメです。

  • 55 つ以上でもダメそうですね。33 つ以下ならしらみつぶしに調べられそうです。

解答

ステップ1:f(n)f(n) が大きいとダメ

ステップ1

f(n)=kf(n) = k とおく。k4k \geqq 4 のとき,条件を満たす nn が存在しないことを示す。

k4k \geqq 4 のとき k=f(n)<n2k = f(n) < \dfrac{\sqrt{n}}{2},変形して n>4k2n > 4k^2 であることを示せばよい。

kk 番目の素数を pkp_k とおくと, n2×3××pkn \geqq 2 \times 3 \times \cdots \times p_k となる。

n2×3×5××pk>2×2×4××4=4k1\begin{aligned} n &\geqq 2 \times 3 \times 5 \times \cdots \times p_k \\ & > 2 \times 2 \times 4 \times \cdots \times 4\\ &= 4^{k-1} \end{aligned} となる。よって n>4k2n > 4k^2 という不等式を示すには 4k1>4k2 4^{k-1} > 4k^2 すなわち 2k1>k 2^{k-1} > k が成立することを示せばよい。

これを数学的帰納法で証明する。

  • k=4k = 4 のとき 241=8>4=k2^{4-1} = 8 > 4 = k である。

  • k=mk = m で不等式が成立すると仮定する。
    k=m+1k = m+1 のとき 2k1=2m=22m1>2m>m+1\begin{aligned} 2^{k-1} &= 2^m\\ &= 2 \cdot 2^{m-1}\\ &> 2m\\ &> m+1 \end{aligned} こうして k=mk=m で不等式が成立すると仮定した場合,k=m+1k = m+1 で不等式が成立することが従う。

よって,数学的帰納法から k4k \geqq 4 の自然数に対して不等式 2k1>k2^{k-1}>k が成立することが分かる。

以上より k4k \geqq 4 のとき,条件を満たす nn は存在しない。

ステップ1について,よりテクニカルでおもしろい変形も紹介します。

ステップ1の別解

pkp_kkk 番目の奇数以上になるため,pk2k+1p_k \geqq 2k+1pk12k1p_{k-1} \geqq 2k-1 となる。

よって n2×3××pk2×3×(2k1)×(2k+1)=6(4k21)>4k2\begin{aligned} n & \geqq 2 \times 3 \times \cdots \times p_k\\ & \geqq 2 \times 3 \times (2k-1) \times (2k+1)\\ & = 6 (4k^2 - 1)\\ & > 4 k^2 \end{aligned} である。

よって k4k \geqq 4 のとき f(n)<n2f(n) < \dfrac{\sqrt{n}}{2} となる。

k4k \geqq 4 としているため,必ず pk1>3p_{k-1} > 3 となり,少なくとも n>2×3×pk1×pkn > 2 \times 3 \times p_{k-1} \times p_k であることが分かります。

また ii 番目の素数は ii 番目の奇数以上であることは覚えておきましょう。今回は使いませんでしたが,i5i \geqq 5 であれば,真に大きくなります。

nn 1 2 3 4 5 6 7
nn 番目の素数 2 3 5 7 11 13 17
nn 番目の奇数 1 3 5 7 9 11 13

ステップ2:f(n)f(n) が3以下のときを調べる

ステップ2
  1. f(n)=0f(n) =0 のとき
    n=1n=1 のみだが,このとき条件は満たされない。

  2. f(n)=1f(n)=1 のとき
    f(n)n2f(n) \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2}f(n)=1f(n) = 1 を代入すると,1n21 \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2},つまり n4n \leqq 4 を得る。
    このうち素因数が1つであるものは n=2,3,4n = 2,3,4 である。

  3. f(n)=2f(n) = 2 のとき
    f(n)n2f(n) \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2}f(n)=2f(n) = 2 を代入して変形すると,n16n \leqq 16 を得る。
    このうち素因数が2つであるものは n=6,10,12,14,15n = 6,10,12,14,15 である。

  4. f(n)=3f(n) = 3 のとき
    f(n)n2f(n) \geqq \dfrac{\sqrt{n}}{2}f(n)=3f(n) = 3 を代入して変形すると,n36n \leqq 36 を得る。
    このうち素因数が3つであるものは n=30n = 30 だけである。

f(n)=kf(n) = k のときに n=p1××pkn = p_1 \times \cdots \times p_k とおきたくなりますが,正しくは n=p1m1××pkmkn = {p_1}^{m_1} \times \cdots \times {p_k}^{m_k} となります。

ここでミスをしまうと,f(n)=1f(n) = 1 のときに n=4n=4f(n)=2f(n) = 2 のときに n=12n=12 が条件を満たすことをスルーしてしまう可能性があります。

答え

以上をまとめると,求める nnn=2,3,4,6,10,12,14,15,30 n = 2,3,4,6,10,12,14,15,30 である。

全体を通したコメント

見慣れない関数が登場して戸惑うかもしれませんが,実はそんなに難しい関数ではありませんね。

整数問題の基本「「具体例で実験する」「不等式で解の範囲を絞る」に則れば簡単に解けます。

ただし,絞るアプローチが f(n)f(n) からというのは気付きにくいかもしれませんね。

もう少し深い話

ハーディとラマヌジャンによって次の定理が証明されています。

ハーディ・ラマヌジャンの定理

CCε\varepsilon は正の実数とする。このとき,ほとんどの自然数 nnf(n)loglogn<C(loglogn)12+ε | f(n) - \log \log n | < C (\log \log n)^{\frac{1}{2} + \varepsilon} となる。

※ 厳密に主張を書くと,やや大変なので若干誤魔化した表現をしています。ご了承ください。

ここで ε=12\varepsilon = \dfrac{1}{2}C=0.1C = 0.1 とすると,ほとんどすべての nnf(n)<1.1loglogn f(n) < 1.1 \log \log n が成立することが分かります。

loglogx\log \log x の増加ペースは x\sqrt{x} と比べてかなり遅いので,だいたいの xxx2>1.1loglogx\dfrac{\sqrt{x}}{2} > 1.1 \log \log x となることが予想できますね。

因みにこの「ハーディ」と「ラマヌジャン」はタクシー数のエピソードで有名なハーディとラマヌジャンです。

最初は n>2×3k1n > 2 \times 3^{k-1} という不等式から帰納法を使おうとしましたが,この場合 2×341=542 \times 3^{4-1} = 544×42=644 \times 4^2 = 64 となってしまいました。