京大2024大問6とチェビシェフ多項式

京都大学理系数学 2023 大問6

pp33 以上の素数,θ\theta を実数とする。

  1. cos3θ\cos 3\thetacos4θ\cos 4 \thetacosθ\cos \theta の式として表せ。
  2. cosθ=1p\cos \theta = \dfrac{1}{p} のとき,θ=mnπ\theta = \dfrac{m}{n} \cdot \pi となるような正の整数 m,nm,n が存在するか否かを理由を付けて説明せよ。

京大入試の問題を解説します。背景となる「チェビシェフ多項式」を知っているとかなり有利な問題です。

チェビシェフ多項式

一般に cosnθ\cos n\thetacosθ\cos \thetann 次多項式で表されます

これをチェビシェフ多項式と言います。→チェビシェフ多項式

この多項式を TnT_n と書くことにします。

小問1の答え

小問1は T3,T4T_3,T_4 を計算する問題です。

小問1の答え

3倍角の公式より cos3θ=4cos3θ3cosθ \cos 3\theta = 4 \cos^3 \theta - 3 \cos \theta

2倍角の公式を2回用いると cos4θ=2cos22θ1=2(2cos2θ1)21=8cos4θ8cos2θ+1\begin{aligned} \cos 4 \theta &= 2 \cos^2 2\theta - 1\\ &= 2 (2\cos^2 \theta - 1)^2 - 1\\ &= 8 \cos^4 \theta - 8 \cos^2 \theta + 1 \end{aligned}

以上より T3(x)=4x33xT_3 (x) = 4x^3 - 3xT4(x)=8x48x2+1T_4 (x) = 8x^4 - 8x^2 + 1 です。

漸化式

小問2ではチェビシェフ多項式の漸化式: Tn+2(x)=2xTn+1(x)Tn(x) T_{n+2} (x) = 2x T_{n+1} (x) - T_n (x) を知っていれば有利でした。

この漸化式は,和積の公式: cos(n+2)θ+cosnθ=2cos(n+1)θcosθ \cos (n+2) \theta + \cos n \theta = 2 \cos (n+1) \theta \cos \theta を移項すると得られる有名な漸化式です。

小問2

漸化式を踏まえて小問2を解いてみましょう。

小問2の答え

cosθ=1p\cos \theta = \dfrac{1}{p} のとき,θ=mnπ\theta = \dfrac{m}{n} \cdot \pi となるような正の整数 m,nm,nが存在すると仮定する。

まず,Tk(x)T_k (x)kk 次多項式で最高次係数は 2k12^{k-1} であることを数学的帰納法により示す。

  1. k=1,2k=1,2 のとき
    T1(x)=x=211x1T_1 (x) = x = 2^{1-1} x^1T2(x)=2x21=221x21T_2 (x) = 2x^2 - 1 = 2^{2-1} x^2 - 1 であるため,k=1,2k=1,2 のとき成立する。

  2. k2k \geqq 2 とし,klk \leqq l のとき成立を仮定する。
    このとき Tl=2l1xl+(l1 次多項式)Tl1=2l2xl1+(l2 次多項式)\begin{aligned} T_l &= 2^{l-1} x^l + (l-1\ \text{次多項式})\\ T_{l-1} &= 2^{l-2} x^{l-1} + (l-2\ \text{次多項式}) \end{aligned} と表される。漸化式に代入して Tl+1(x)=2lxl+1+(l 次多項式) T_{l+1} (x) = 2^l x^{l+1} + (l\ \text{次多項式}) を得る。こうして k=l+1k = l+1 のときも命題は成立することがわかる。

\quad

cosnθ=cosnmnπ=cosmπ=(1)m\cos n\theta = \cos n \cdot \dfrac{m}{n} \pi = \cos m \pi = (-1)^{m} である。

チェビシェフ多項式の定義より Tn(cosθ)=cosnθ=(1)mT_n (\cos \theta) = \cos n \theta = (-1)^m となる。

さて Tn(x)=2n1xn+an1xn1++a1x+a0 T_n (x) = 2^{n-1} x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0 とおく。よって,

Tn(1p)=(1)mT_n\left(\dfrac{1}{p}\right)=(-1)^m だが,これは方程式の有理数解の性質に矛盾する。もう少しきちんと書くと,以下の通り:

x=cosθ=1px = \cos \theta = \dfrac{1}{p} を代入すると 2n1pn+an1pn1++a0=(1)m \dfrac{2^{n-1}}{p^n} + \dfrac{a_{n-1}}{p^{n-1}} + \cdots + a_0 = (-1)^m である。辺々に pnp^n を掛けて整理すると 2n1=an1p++a0pn+(1)mpn 2^{n-1} = a_{n-1} p + \cdots + a_0 p^n + (-1)^m p^n である。

右辺は pp の倍数だが,左辺は pp の倍数でないため矛盾。つまり,背理法により cosθ=1p\cos \theta = \dfrac{1}{p} のとき,θ=mnπ\theta = \dfrac{m}{n} \cdot \pi となるような正の整数 m,nm,n は存在しない

なお同様に考えると,3以上の素数 pp と,0<k<p0<k<p を満たす整数 kk に対して,cosθ=kp\cos\theta=\dfrac{k}{p} となるような有理数 θ\theta が存在しないことがわかります。

実は「cosθ=q\cos\theta=q となる有理数 θ\theta が存在する」を満たす有理数 qqq=0,±12,±1q=0,\pm\dfrac{1}{2},\pm 1 に限られます。

小問1は教科書レベルの計算問題でしたが,小問2はチェビシェフ多項式を知らないと漸化式を思いつきにくいので難しいです。