陰関数定理

x2+y21=0x^2+y^2-1=0 のように,F(x,y)=0F(x,y)=0 という形で表された関数を陰関数と言います。→陰関数と陽関数の意味と違いについて

陰関数定理とは,(性質のよい)陰関数は,局所的には,ある微分可能な関数 g(x)g(x) を用いて y=g(x)y=g(x) と表せるという定理です。

陰関数定理(2次元版)
  • ff を二変数の連続で微分可能な関数とする。

  • (p,q)(p,q) を,f(p,q)=0,fy(p,q)0f(p , q) = 0,\dfrac{\partial f}{\partial y} (p , q) \neq 0 を満たす点とする。

このとき,(p,q)(p , q) の近傍で定義される g(x)g(x) という関数があって f(x,g(x))=0f(x , g(x)) = 0 となる。つまり f(x,y)=0f(x,y) = 0 という形の(性質のよい)関数は局所的に y=g(x)y = g(x) と表せる

さらに g(x)g(x) の微分係数は dgdx=fxfy\dfrac{dg}{dx} = -\dfrac{f_x}{f_y} となる。

陰関数という用語については 陰関数と陽関数の意味と違いについて をご覧ください。

簡単な例

f(x,y)=x2+y21f(x,y) = x^2 + y^2 - 1 とします。このとき,fy=2y\dfrac{\partial f}{\partial y} = 2y です。

f(0,1)=0f(0,1) = 0fy(0,1)=2\dfrac{\partial f}{\partial y} (0,1) = 2 であるため,ある gg があって (0,1)(0,1) の近くで f(x,g(x))=0f(x,g(x)) = 0 となります。

実際,g(x)=1x2g(x) = \sqrt{1-x^2} という関数を取ることができます。

x2+y21=0x^2 + y^2 - 1 = 0 という陰関数表示から y=1x2y = \sqrt{1-x^2} という陽関数表示に変換されました。

また,fx=2xf_x = 2xfy=2yf_y = 2y であるため dgdx=xy=x1x2 \dfrac{dg}{dx} = -\dfrac{x}{y} = -\dfrac{x}{\sqrt{1-x^2}} と計算できます。

注意点

gg1x1-1 \leqq x \leqq 1 でしか定義されていません。陰関数定理で得られる関数 ggR\mathbb{R} 全体で定義されるとは限りません。

一般に,点を変えると関数 gg も変わります。実際,(0,1)(0,-1) で考えると g(x)=1x2g(x) = - \sqrt{1-x^2} となります。

多変数版

逆写像定理 を思い出しましょう。

記事でも触れましたが,ヤコビアンは多変数における微分係数のようなものだと思えます。

この考え方を元に陰関数定理を多変数に拡張しましょう。

陰関数定理

OORn+m\mathbb{R}^{n+m} 上の開集合とする。

CrC^r 級関数 f:ORmf : O \to \mathbb{R}^m を取る。

p=(p1,,pn)Rn\boldsymbol{p} = (p_1 , \cdots , p_n) \in \mathbb{R}^nq=(q1,qm)Rm\boldsymbol{q} = (q_1 , \cdots q_m) \in \mathbb{R}^m は次を満たす。

  1. f(p,q)=0f(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q}) = 0
  2. rank (Jf)(p,q)=m\mathrm{rank} \ (Jf)_{(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q})} = m

このとき p\boldsymbol{p} の開近傍 UUq\boldsymbol{q} の開近傍 VVCrC^r 級微分同相写像 g:UVg : U \to V であって f(x,g(x))=(0,,0) f( \boldsymbol{x} , g(\boldsymbol{x})) = (0, \cdots ,0) を満たすものが存在する。

※ 座標を x=(x1,,xn)\boldsymbol{x} = (x_1 , \cdots , x_n)y=(y1,,ym)\boldsymbol{y} = (y_1, \cdots , y_m) によって (x,y)(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) と書いた。

f(x,y,z)=(x2+y,x+z)f(x,y,z) = (x^2+y,x+z) とします。

f(0,0,0)=(0,0)f(0,0,0) = (0,0) です。

f1(x,y,z)=x2+yf_1 (x,y,z) = x^2+yf2(x,y,z)=zf_2 (x,y,z) = z とおきましょう。

(Jf)(0,0,0)=(f1xf1yf1zf2xf2yf2z)(0,0,0)=(010101)\begin{aligned} &(Jf)_{(0,0,0)}\\ &= \begin{pmatrix} \frac{\partial f_1}{\partial x} & \frac{\partial f_1}{\partial y} & \frac{\partial f_1}{\partial z}\\ \frac{\partial f_2}{\partial x} & \frac{\partial f_2}{\partial y} & \frac{\partial f_2}{\partial z}\\ \end{pmatrix}_{(0,0,0)}\\ &= \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0\\ 1 & 0 & 1 \end{pmatrix} \end{aligned} となります。

よって,陰関数定理の仮定を満たすことが分かります。

g(x)=(x2,x)g(x) = (-x^2,-x) とすると f(x,g(x))=f(x,x2,x)=(0,0) f(x,g(x)) = f(x,-x^2,-x) = (0,0) となります。

証明

与えられた ff を拡張して逆写像定理が使える形にします。

逆写像定理で得られる逆関数をよく調べると,条件を満たす gg になっていることが分かります。

さて実際に証明を見てみましょう。

証明

ff の成分表示を (f1,,fm)(f_1, \cdots , f_{m}) と書く。

f~:ORn+m\tilde{f} : O \to \mathbb{R}^{n+m}f~(x,y)=(x,(f1(x,y),,fm(x,y))) \tilde{f} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = (\boldsymbol{x}, (f_1 (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) , \cdots , f_m (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}))) と定義する。これは CrC^r 級で f~(p,q)=(0,q)\tilde{f} (\boldsymbol{p},\boldsymbol{q}) = (0,\boldsymbol{q}) となる。

(Jf~)(p,q)=(OIn(Jf)(p,q)) (J\tilde{f})_{(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q})}= \left( \begin{array}{} O \quad I_n\\ (Jf)_{(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q})} \end{array} \right) とできる。これのランクは n+mn+m であるため (Jf~)(p,q)(J\tilde{f})_{(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q})} は可逆である。

逆写像定理を用いる。

(p,q)(\boldsymbol{p},\boldsymbol{q}) の開近傍 UU(0,q)(\boldsymbol{0},\boldsymbol{q}) の開近傍 VV があって,f~U:UV\tilde{f} \mid_U : U \to VCrC^r 級微分同相写像になる。

f~U\tilde{f} \mid_UCrC^r 級逆写像ϕ\phi とする。

ϕ(x,y)=(ϕ1(x,y),,ϕn+m(x,y)) \phi (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = (\phi_{1} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}), \cdots, \phi_{n+m} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})) と書くと f~ϕ(x,y)=(ϕ1(x,y),,ϕn(x,y),f1(ϕ(x,y)),,fm(ϕ(x,y)))=(x,y)\begin{aligned} &\tilde {f} \circ \phi (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\\ &= \begin{pmatrix} \phi_{1} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}), \cdots, \phi_{n} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}), f_1 (\phi (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})), \cdots, f_{m} (\phi (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})) \end{pmatrix}\\ &= (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) \end{aligned} となるため, ϕ(x,y)=(x,ϕ1(x,y),,ϕm(x,y)) \phi (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = \begin{pmatrix} \boldsymbol{x}, \phi_1 (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}), \cdots, \phi_m (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) \end{pmatrix} となる。

この ϕ\phi の下 mm 成分を g~\tilde{g} とおく。つまり, g~(x,y)=(ϕ1(x,y),,ϕm(x,y)) \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = \begin{pmatrix} \phi_1 (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}), \cdots, \phi_m (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) \end{pmatrix} とおく。

定義より f~(x,g~(x,y))=(x,y)\tilde{f} (\boldsymbol{x} , \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})) = (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) となる。

y=0=(0,,0)y = \boldsymbol{0} = (0, \cdots , 0) を代入することで f~(x,g~(x,0))=(x,0) \tilde{f} (\boldsymbol{x}, \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{0})) = (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{0} ) を得る。

f~(x,g~(x,0))=(x,f1(x,g~(x,0)),,fm(x,g~(x,0))) \tilde{f} (x, \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{0})) = \begin{pmatrix} \boldsymbol{x}, f_1 (\boldsymbol{x}, \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{0})), \cdots, f_m (\boldsymbol{x}, \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{0})) \end{pmatrix} であったため,g(x)=g~(x,0)g(\boldsymbol{x}) = \tilde{g} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{0}) とおけば f(x,g(x))=0 f(\boldsymbol{x}, g(\boldsymbol{x})) = \boldsymbol{0} となる。

なお,ϕ\phiCrC^r 級であることから ggCrC^r 級である。

座標変換

陰関数定理の別の形として,座標変換の理論が得られます。

陰関数定理による座標変換

OORn+m\mathbb{R}^{n+m} の開集合とする。

OO の元の座標を x=(x1,,xn)\boldsymbol{x} = (x_1, \cdots , x_n)y=(y1,,yn)\boldsymbol{y} = (y_1, \cdots , y_n) により (x,y)(\boldsymbol{x} , \boldsymbol{y}) と表す。

f:ORmf : O \to \mathbb{R}^m

  1. f(0,0)=0f(\boldsymbol{0},\boldsymbol{0}) = \boldsymbol{0}
  2. rank (Jf)(0,0)=m\mathrm{rank} \ (Jf)_{(\boldsymbol{0},\boldsymbol{0})} = m

を満たすとする。

このとき開集合 URn+mU \subset \mathbb{R}^{n+m}VRn+mV \subset \mathbb{R}^{n+m} があって

ϕ:UV\phi : U \to V があって, Fϕ1(x,y)=x F \circ \phi^{-1} (\boldsymbol{x} , \boldsymbol{y}) = \boldsymbol{x} を満たす。

(x,y)(\boldsymbol{x'} ,\boldsymbol{y'}) を零点に持つ ff に対して fff(x,y)f(x,y)f(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) - f(\boldsymbol{x'},\boldsymbol{y'}) に取り換えることで定理の仮定を満たすことができる。

ϕ\phi ではなく,ϕ1\phi^{-1} としているのは,多様体という概念を導入するときに,そうしたほうが都合が良くなるからである。

証明は陰関数定理と同様です。

f(x,y)=x2+yf(x,y) = x^2 + y は定理の仮定を満たす。

ϕ1(x,y)=(y,xy2)\phi^{-1} (x,y) = (y,x-y^2) となるように ϕ\phi を取れば fϕ1(x,y)=xf \circ \phi^{-1} (x,y) = x となる。

陰関数定理は多様体の例の紹介でまた力を発揮します。