二項係数の上界・下界を与える4つの不等式
ただし, です。 はバイナリークロスエントロピーと呼ばれる有名な関数です。
すべて高校数学の範囲で証明できます。
2つめの式の証明は,2023年京大理学部特色入試で出題されています。
1つめの下界の証明
1つめの下界の証明
を証明します。これは思いつきやすいです。
よって, が に対して成立することを示せば十分。これは分母を払うと
となり成立する。
1つめの上界の証明
1つめの上界の証明
を証明します。下界より難しいですが,スターリングの公式を知っていれば思いつきやすいです。
である。目標の式と比較すると,あとは を示せばよい。これは階乗を近似するスターリングの公式(の粗いバージョン): と似ている。そこで,スターリングの公式とその証明 の記事を見ると,記事末の左側の不等式より がわかる。
2つめの上界の証明
2つめの上界の証明
を証明します。難しそうですが,実は右辺を計算すると簡単になります。
より,不等式の右辺は となる。
この形から二項定理を思いつきたい:
(二項定理で展開したときの1つの項のみを取り出した)
両辺に をかけると目標の不等式を得る。
2つめの下界の証明
2つめの下界の証明
を証明します。一番むずかしいです。「2つめの上界」の証明とかなり似ていますが,1つ追加で工夫が必要です。
2つめの上界と同じように を計算すると,示すべき不等式は
である。一方,
であり,上記の不等式の右辺は の項から出てくる。ここで, は 項からなるが,実は の項が一番大きい(→補足)。つまり,この項は 以上である。
補足: 番目の項を とおいて が最大となる を探します。これは, と の大小関係を調べることで解けます。「二項定理の展開式の最大項を求める」という有名問題です。隣どうしの比と1を比較する(展開式の係数の最大・確率の最大値) で詳しく解説しています。
なお,2つめの上界と下界は Elements of Information Theory という本の Example 11.1.3 を参照しました。
4つともおもしろいです!