隣どうしの比と1を比較する(展開式の係数の最大・確率の最大値)

この記事の概要
  1. a1,a2,...,ana_1,a_2,...,a_n の中で最大のものを求める問題では,ak+1ak\dfrac{a_{k+1}}{a_k}11 を比較するとよい。

  2. (Ax+B)n(Ax+B)^{n} を展開したときの xkx^k の係数を aka_k とおく。aka_k を最大にするのは(多くの場合) kAnA+Bk\fallingdotseq \dfrac{An}{A+B} のとき。

  3. 反復試行の確率の最大値(二項分布の最頻値)も2からわかる。

  4. ak=nCk(mn)k(1mn)nka_k={}_n\mathrm{C}_k\left(\dfrac{m}{n}\right)^k\left(1-\dfrac{m}{n}\right)^{n-k} を最大にする kkk=mk=m

1~4まで,順々に解説していきます。

隣どうしの比と1を比較する手法

aka_k が正なら ak+1ak>1    ak+1>ak\dfrac{a_{k+1}}{a_k}>1\iff a_{k+1}>a_k です。これを利用して ak+1ak\dfrac{a_{k+1}}{a_k}11 の大小関係を比較することで aka_k が最大となる kk を計算できる場合があります。

例を見てみましょう。

例題1

(x+3)10(x+3)^{10} を展開したときの xkx^k の係数を aka_k とおく。aka_k を最大にする kk を求めよ。

解答

二項定理より ak=10Ck310k=10!×310k!(10k)!×3ka_k={}_{10}\mathrm{C}_k3^{10-k}=\dfrac{10!\times 3^{10}}{k!(10-k)!\times 3^k}

よって,ak+1ak=3kk!(10k)!3k+1(k+1)!(10k1)!=10k3(k+1)\dfrac{a_{k+1}}{a_k}=\dfrac{3^kk!(10-k)!}{3^{k+1}(k+1)!(10-k-1)!}=\dfrac{10-k}{3(k+1)} したがって,

ak+1ak>1    10k>3(k+1)    4k<7    k<74\dfrac{a_{k+1}}{a_k}>1\\ \iff 10-k>3(k+1)\\ \iff 4k < 7\\ \iff k < \dfrac{7}{4}

これより a2a_2 まで増加してそこから減少することがわかる: a0<a1<a2>a3>a4>a5>>a10a_0<a_1<a_2>a_3>a_4>a_5>\cdots>a_{10} よって答えは k=2k=2

この手法は,aka_k が多くの数の積で表されているときに有効です。確率の最大値を計算する問題でも頻出です。

展開した係数の最大値

さきほどの例題1を一般化してみます。

例題2

(Ax+B)n(Ax+B)^{n} を展開したときの xkx^k の係数を aka_k とおく。aka_k を最大にする kk を求めよ。ただし,A,B>0A,B>0 とする。

場合分けが発生しますが,例題1と全く同じ方針で解けます。

解答

二項定理より ak=nCkAkBnk=n!×AkBnk!(nk)!×Bka_k={}_{n}\mathrm{C}_kA^kB^{n-k}=\dfrac{n!\times A^{k}B^n}{k!(n-k)!\times B^k}

よって,ak+1ak=A(nk)B(k+1)\dfrac{a_{k+1}}{a_k}=\dfrac{A(n-k)}{B(k+1)}

したがって,

ak+1ak>1    AnAk>Bk+B    (A+B)k<AnB    k<AnBA+B\dfrac{a_{k+1}}{a_k}>1\\ \iff An-Ak>Bk+B\\ \iff (A+B)k < An-B\\ \iff k < \dfrac{An-B}{A+B}

k=AnBA+Bk^*=\dfrac{An-B}{A+B} とおく。

  • k<0k^*< 0 のとき,常に ak+1<aka_{k+1}<a_k より k=0k=0 で最大
  • k0k^*\geqq 0 かつ kk^* が整数でないとき k=kk=\lceil k^*\rceil で最大
  • k0k^*\geqq 0 かつ kk^* が整数のとき k=kk=k^*k+1k^*+1 で最大

※ただし x\lceil x\rceilxx を切り上げた整数を表す。

特に,nn がある程度大きく AnBAn\gg B なら k=AnA+B\lceil k^*\rceil=\left\lceil\dfrac{An}{A+B}\right\rceil となります。多くの場合 AnA+B\dfrac{An}{A+B} くらいで最大 と覚えておけばよいです。例題1の検算にも使えます。

以下では,この結果のおもしろい応用を2つ紹介します。

反復試行の確率の最大値(二項分布の最頻値)

確率 pp で成功するような試行を独立に nn 回反復して行ったとき,nn 回のうち kk 回成功する確率は, ak=nCkpk(1p)nka_k={}_n\mathrm{C}_kp^k(1-p)^{n-k} でした。→反復試行の確率の公式といろいろな例題

nnpp を固定したもとで,aka_k を最大にする kk を求めてみましょう。

解答

{px+(1p)}n\{px+(1-p)\}^n を展開したときの xkx^k の係数が aka_k である。よって,A=p,B=1pA=p,B=1-p として例題2の結果を使うとよい。

k=pn(1p)k^*=pn-(1-p) であり,多くの場合 k=pnk=\lceil pn\rceil で最大となる。厳密には例題2と同様に場合分け。

特に pnpn が整数なら,二項分布の最頻値は期待値 pnpn と一致するというわけです。→二項分布の平均と分散の二通りの証明

入試問題への応用

定理1

m,nm,nm<nm<n なる正の整数とし, ak=nCk(mn)k(1mn)nka_k={}_n\mathrm{C}_k\left(\dfrac{m}{n}\right)^k\left(1-\dfrac{m}{n}\right)^{n-k}

とする。ak(k=0,1,...,n)a_k\:(k=0,1,...,n) の中で最大のものは ama_m

証明

{mnx+(1mn)}n\left\{\dfrac{m}{n}x+\left(1-\dfrac{m}{n}\right)\right\}^n を展開したときの xkx^k の係数が aka_k である。よって,A=mn,B=1mnA=\dfrac{m}{n},B=1-\dfrac{m}{n} として例題2の結果を使うとよい。

k=m1+mnk^*=m-1+\dfrac{m}{n} となる。場合分けの2つめに該当し,k=k=mk=\lceil k^*\rceil=m で最大となる。

なお,定理1は 二項係数の上界・下界を与える4つの不等式 の最後で活躍します。「定理1の証明から上記の記事での活躍の流れ」すべてが2023年京大理学部特色入試で出題されています。

an+1ana_{n+1}-a_n00 を比較をしても解けますが,an+1an\dfrac{a_{n+1}}{a_n}11 を比較した方が計算が楽です。