実数を分数で近似する【ディリクレのディオファントス近似定理】

実数 rr に対して,以下を満たす整数 p,qp,q を探しましょう。 rpq<1q2\left|r-\dfrac{p}{q}\right|<\dfrac{1}{q^2} つまり,

  • rr を近似する分数 pq\dfrac{p}{q} を探す
  • 近似誤差が 1q2\dfrac{1}{q^2} 未満になるようにする(分母が小さい単純な分数で近似したい)

という問題です。

分数による実数の良い近似

例えば π=3.1415\pi=3.1415\cdots を分数で近似しましょう。

素朴には,3110\dfrac{31}{10}314100\dfrac{314}{100} など,小数を途中で打ち切って n10k\dfrac{n}{10^k} 型の分数で表せば良さそうです。

実は,このような分数では rpq<1q\left|r-\dfrac{p}{q}\right|<\dfrac{1}{q} は達成できますが rpq<1q2\left|r-\dfrac{p}{q}\right|<\dfrac{1}{q^2} は一般には達成できません。

以下では,上の赤い式を満たす既約分数 pq\dfrac{p}{q}rr の良い近似と呼ぶことにします。また,r,p,qr,p,q は正とします。

この記事のサマリ
  1. rr が有理数なら,rr の良い近似は有限個しかない
  2. rr が無理数なら,rr の良い近似が無限個ある
  3. rr が無理数なら,連分数展開により rr の良い近似が無限個得られる

有理数の良い近似

定理1

rr が有理数なら,rr の良い近似は有限個しかない。

「近似分数の分母 qq を大きくすると,誤差の要求 1q2\dfrac{1}{q^2} が厳しくなるので,rr の良い近似にはならなさそう」という発想で証明します。

証明

r=mnr=\dfrac{m}{n} とおく。近似誤差について, rpq=qmpnqn\left|r-\dfrac{p}{q}\right|=\dfrac{|qm-pn|}{|qn|} であるが,もし q>nq>n なら

  • rpqr\neq\dfrac{p}{q} なので分子は 11 以上
  • 分母は qn<q2|qn|<q^2

つまり,rpq>1q2\left|r-\dfrac{p}{q}\right|>\dfrac{1}{q^2} となり良い近似にならない。

よって,pq\dfrac{p}{q} が良い近似なら分母 qqnn 以下である。

分母が有限通りに絞れれば後は簡単。例えば,rr の良い近似は r+1r+1 以下である必要があるが,「r+1r+1 以下」かつ「分母が nn 以下」である分数は有限個しかない。

ディリクレのディオファントス近似定理

定理2(ディリクレのディオファントス近似定理)

rr が無理数なら,rr の良い近似が無限個ある。

証明には「うまいこと qq を選べば qrqr をほぼ整数にできる」こと使います。これはクロネッカーの稠密定理の証明と同じ議論です。

証明

任意の nn に対して,整数 p,qp,q をうまく選べば qrp<1n|qr-p|<\dfrac{1}{n} にできる。さらに 0<qn0< q\leq n とできる(→補足)

このとき, rpq<1nq1q2\left|r-\dfrac{p}{q}\right|<\dfrac{1}{nq}\leq \dfrac{1}{q^2} となるが,これは pq\dfrac{p}{q}rr の良い近似であることを表している。nn は任意なので良い近似が無数に構成できそう。

実際,良い近似が piqi(i=1,...,k)\dfrac{p_i}{q_i}\:(i=1,...,k)kk 個(有限個)あるなら,以下のように k+1k+1 個目を構成できる:

qirpi|q_ir-p_i| の最小値よりも 1n\dfrac{1}{n} が小さくなるように nn を十分大きく取る。この nn から上記の方法で定まる良い近似 pq\dfrac{p}{q} を持ってくると,これは今までの kk 個とは(qrp|qr-p| が最も小さいので)異なる。

補足:00 から 11 の区間を NN 等分する。鳩ノ巣原理より,{r},{2r},,{(N+1)r}\{r\},\{2r\},\cdots,\{(N+1)r\} のいずれかは同じ区間に属する。それを {ir}\{ir\}{jr}(i<j)\{jr\} (i <j) とおくと (ji)r(j-i)r がほぼ整数(最寄りの整数との差が 1n\dfrac{1}{n} 未満)になる。pp をその整数,q=jiq=j-i とすればよい。

連分数展開と良い近似

定理3

rr の連分数展開を途中で打ち切ったものは rr の良い近似になる。

連分数展開については 連分数展開とその計算方法 で解説しています。

2\sqrt{2} を連分数展開してみる。

2=1+(21)=1+1121=1+12+1=1+12+(21)=1+12+12+1=1+12+12+12+1=\sqrt{2}\\ =1+(\sqrt{2}-1)\\ =1+\dfrac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}-1}}\\ =1+\dfrac{1}{\sqrt{2}+1}\\ =1+\dfrac{1}{2+(\sqrt{2}-1)}\\ =1+\dfrac{1}{2+\frac{1}{\sqrt{2}+1}}\\ =1+\dfrac{1}{2+\frac{1}{2+\frac{1}{\sqrt{2}+1}}}\\=\cdots

  • 22 行目で打ち切る(21\sqrt{2}-1 を無視する)と 21\sqrt{2}\fallingdotseq 1
  • 55 行目で打ち切る(21\sqrt{2}-1 を無視する)と 232\sqrt{2}\fallingdotseq \dfrac{3}{2}
  • 77 行目で打ち切る(21\sqrt{2}-1 を無視する)と 275\sqrt{2}\fallingdotseq \dfrac{7}{5}

1,32,751,\dfrac{3}{2},\dfrac{7}{5} はいずれも 2\sqrt{2} の良い近似になっている!

rr が無理数なら連分数展開は無限に続くこと」と定理3から定理2がわかります。

定理3の証明は,例えば 連分数とディオファントス近似 を参照してください。

無理数度

rpq<1qA\left|r-\dfrac{p}{q}\right|<\dfrac{1}{q^A} を満たす既約分数 pq\dfrac{p}{q} が無限にある,という条件を満たす AA の最大値を実数 rr の無理数度と呼びます。

定理1より,有理数の無理数度が 22 未満であることがわかります。定理2より,無理数の無理数度は 22 以上であることがわかります。

実は,

参考:Wikipedia

鳩ノ巣原理や連分数展開など楽しい話題が詰まっています。