実数を分数で近似する【ディリクレのディオファントス近似定理】
実数 に対して,以下を満たす整数 を探しましょう。 つまり,
- を近似する分数 を探す
- 近似誤差が 未満になるようにする(分母が小さい単純な分数で近似したい)
という問題です。
分数による実数の良い近似
分数による実数の良い近似
例えば を分数で近似しましょう。
素朴には, や など,小数を途中で打ち切って 型の分数で表せば良さそうです。
実は,このような分数では は達成できますが は一般には達成できません。
以下では,上の赤い式を満たす既約分数 を の良い近似と呼ぶことにします。また, は正とします。
- が有理数なら, の良い近似は有限個しかない
- が無理数なら, の良い近似が無限個ある
- が無理数なら,連分数展開により の良い近似が無限個得られる
有理数の良い近似
有理数の良い近似
が有理数なら, の良い近似は有限個しかない。
「近似分数の分母 を大きくすると,誤差の要求 が厳しくなるので, の良い近似にはならなさそう」という発想で証明します。
とおく。近似誤差について, であるが,もし なら
- なので分子は 以上
- 分母は
つまり, となり良い近似にならない。
よって, が良い近似なら分母 は 以下である。
分母が有限通りに絞れれば後は簡単。例えば, の良い近似は 以下である必要があるが,「 以下」かつ「分母が 以下」である分数は有限個しかない。
ディリクレのディオファントス近似定理
ディリクレのディオファントス近似定理
が無理数なら, の良い近似が無限個ある。
証明には「うまいこと を選べば をほぼ整数にできる」こと使います。これはクロネッカーの稠密定理の証明と同じ議論です。
任意の に対して,整数 をうまく選べば にできる。さらに とできる(→補足)
このとき, となるが,これは が の良い近似であることを表している。 は任意なので良い近似が無数に構成できそう。
実際,良い近似が の 個(有限個)あるなら,以下のように 個目を構成できる:
の最小値よりも が小さくなるように を十分大きく取る。この から上記の方法で定まる良い近似 を持ってくると,これは今までの 個とは( が最も小さいので)異なる。
補足: から の区間を 等分する。鳩ノ巣原理より, のいずれかは同じ区間に属する。それを と とおくと がほぼ整数(最寄りの整数との差が 未満)になる。 をその整数, とすればよい。
連分数展開と良い近似
連分数展開と良い近似
の連分数展開を途中で打ち切ったものは の良い近似になる。
連分数展開については 連分数展開とその計算方法 で解説しています。
を連分数展開してみる。
- 行目で打ち切る( を無視する)と
- 行目で打ち切る( を無視する)と
- 行目で打ち切る( を無視する)と
はいずれも の良い近似になっている!
「 が無理数なら連分数展開は無限に続くこと」と定理3から定理2がわかります。
定理3の証明は,例えば 連分数とディオファントス近似 を参照してください。
無理数度
無理数度
を満たす既約分数 が無限にある,という条件を満たす の最大値を実数 の無理数度と呼びます。
定理1より,有理数の無理数度が 未満であることがわかります。定理2より,無理数の無理数度は 以上であることがわかります。
実は,
- 有理数の無理数度は です。
- 代数的な無理数の無理数度は です。
- 超越数の無理数度は 以上です。
- リウビル数の無理数度は です。→リウヴィル数の具体例と性質
参考:Wikipedia
鳩ノ巣原理や連分数展開など楽しい話題が詰まっています。