黄金進法の意味とおもしろい定理

黄金進法という,黄金比を使った数の表し方を紹介します。関連するおもしろい定理も紹介します。

ϕ\phi を黄金比とします。つまり,ϕ=1+521.618\phi=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}\fallingdotseq 1.618 とします。
→黄金比が現れるいろいろな例(方程式・図形・数列)と現れる理由

黄金進法とは

10進法とは +a2102+a1101+a0100+a1101+a2102+\cdots +a_210^2+a_110^1+a_010^0+a_{-1}10^{-1}+a_{-2}10^{-2}+\cdots のことを a2a1a0.a1a2\cdots a_2a_1a_0.a_{-1}a_{-2}\cdots と表す方法でした。ただし,各 aia_i0ai90\leqq a_i\leqq 9 なる整数です。→二進法と十進法の変換方法と計算例

10進法で 123.45123.451×102+2×10+3+410+51021\times 10^2+2\times 10+3+\dfrac{4}{10}+\dfrac{5}{10^2} を表す。

同様に,黄金進法とは, +a2ϕ2+a1ϕ1+a0ϕ0+a1ϕ1+a2ϕ2+\cdots +a_2\phi^2+a_1\phi^1+a_0\phi^0+a_{-1}\phi^{-1}+a_{-2}\phi^{-2}+\cdots のことを a2a1a0.a1a2\cdots a_2a_1a_0.a_{-1}a_{-2}\cdots と表す方法です。ただし,各 aia_i00 または 11 とします。

黄金進法で 10.110.1ϕ2+1ϕ\phi^2+\dfrac{1}{\phi} を表す。

黄金進数の標準形

11 が連続しない」黄金進数を標準形と呼びます。

黄金進法において,

  • 1011.011011.01 は途中で 11 が連続するので標準形ではない
  • 10000.0110000.01 は途中で 11 が連続しないので標準形
定理1

任意の黄金進数は標準形になおせる。

つまり,値を変えないままで「11 が連続しない」ようにできるということです。

証明

黄金比 ϕ\phiϕ2=ϕ+1\phi^2=\phi+1 を満たす。つまり黄金進数として 100100011011 は等しい。

つまり「11 が連続するペアの中で最も左にあるものを 00 にしてその左を 11 にする」という操作を繰り返せば標準形になおせる。この操作により 1111 つ減るので操作は有限回で終わる。

実際に証明中の操作を繰り返して標準形にしてみましょう。

10111.01110111.011 を標準形にすると,

11001.011100001.011100001.1100010\to 11001.011\\ \to 100001.011\\ \to 100001.1\\ \to 100010

自然数を黄金進数で表す

定理2

任意の正の整数は,標準形の黄金進数としてただ1通りの方法で表せる。

小さい数でやってみましょう。ϕ0=1\phi^0=1 ずつ追加して標準形に直します。同じケタでダブったら ϕk+ϕk=ϕk+ϕk1+ϕk2\phi^k+\phi^k=\phi^k+\phi^{k-1}+\phi^{k-2} を使って片方を繰り下げます。

  • 1=ϕ01=\phi^0

  • 2=ϕ0+ϕ0=ϕ0+ϕ1+ϕ2=ϕ+ϕ22=\phi^0+\phi^0=\phi^0+\phi^{-1}+\phi^{-2}=\phi+\phi^{-2}
    ϕ0\phi^0 を追加して繰り下げて標準形にする)

  • 3=ϕ+ϕ0+ϕ2=ϕ2+ϕ23=\phi+\phi^0+\phi^{-2}=\phi^2+\phi^{-2}

  • 4=ϕ2+ϕ0+ϕ24=\phi^2+\phi^{0}+\phi^{-2}

  • 5=ϕ2+ϕ0+ϕ0+ϕ2=ϕ2+ϕ0+ϕ1+ϕ2+ϕ2=ϕ2+ϕ0+ϕ1+ϕ2+ϕ3+ϕ4=ϕ3+ϕ1+ϕ45=\phi^2+\phi^{0}+\phi^0+\phi^{-2}=\phi^2+\phi^0+\phi^{-1}+\phi^{-2}+\phi^{-2}\\ =\phi^2+\phi^0+\phi^{-1}+\phi^{-2}+\phi^{-3}+\phi^{-4}\\ =\phi^3+\phi^{-1}+\phi^{-4}

定理2の証明

標準形として表せることの証明

上の例でほぼ証明になっている。厳密には帰納法。kk を標準形で表せると仮定すると,k+1=k+ϕ0k+1=k+\phi^0 も標準形で表せる。実際

  1. k+ϕ0k+\phi^0 に必要なら繰り下げを何度か繰り返すことで黄金進数で表せる。(kk は標準形で表されているので ϕ0\phi^0 でダブりが生じたら ϕ1\phi^{-1} でダブりが生じることは無い。ϕ2\phi^{-2} でもう一度ダブりが生じる可能性はあるが,その場合さらに繰り下げればよい)
  2. さらに,黄金進数はさきほどの定理1で述べた操作により標準形に直せる

ただ1通りの方法で表せることの証明

2通りの標準形で同じ数が表せるなら, ϕa1+ϕa2++ϕam=ϕb1+ϕb2++ϕbn\phi^{a_1}+\phi^{a_2}+\cdots+\phi^{a_m}=\phi^{b_1}+\phi^{b_2}+\cdots+\phi^{b_n} という等式が成立。ただし,a1>a2>>ama_1>a_2>\cdots>a_mb1>b2>>bnb_1>b_2>\cdots>b_n とする。

a1=b1a_1=b_1 であることを示す。もし a1>b1a_1>b_1 ならどう頑張っても左辺が大きくなる:

  • 左辺 ϕa1\geqq\phi^{a_1}
  • 右辺 <ϕb1+ϕb12+ϕb14+=ϕb11ϕ2=ϕb1+1ϕa1<\phi^{b_1}+\phi^{b_1-2}+\phi^{b_1-4}+\cdots=\dfrac{\phi^{b_1}}{1-\phi^{-2}}=\phi^{b_1+1}\leqq\phi^{a_1} (ただし,右辺の変形の1つめの等号で無限等比級数の公式を使った)

以下同様に a2=b2,a3=b3,a_2=b_2, a_3=b_3,\dots が示せる。

ちなみに,定理2はフィボナッチ数列に関するゼッケンドルフの定理と似ています。

有限黄金進数で表せる数

以下では,符号付きの(先頭にマイナスをつけることも許容した)黄金進数を考えます。

定理3

実数 rr が有限黄金進数で表せる

    r=a+bϕ\iff r=a+b\phi となる整数 a,ba,b が存在する。

証明
  • \Rightarrow の証明
    ϕ2=ϕ+1\phi^2=\phi+1 を使って次数下げをすれば,ϕk(k2)\phi^k\:(k\geq2)mϕ+nm\phi+n という形に直せる。同様に,ϕ2=1ϕ1\phi^{-2}=1-\phi^{-1} を使って次数上げをすれば,ϕk(k1)\phi^k\:(k\leq -1)mϕ+nm\phi+n という形に直せる。同様に,

  • \Leftarrow の証明
    b=0b=0,つまり r=ar=aaa が正のときに rr が有限黄金進数で表せることは,定理2そのもの。aa00 のときは r=ϕ0r=\phi^0aa が負のときはマイナスの符号をつけるだけ。
    b>0b>0 のときは,r=ar=a のときをもとに,ϕ\phi を1つずつ追加していけば帰納的に r=a+bϕr=a+b\phi も有限黄金進数で表せることがわかる(定理2の証明とほぼ同じ)。b<0b<0 のときも b>0b>0 のときが有限黄金進数で表せるならそれにマイナスの符号をつければよい。

なお,他にも「階乗進法」や「e進法」もあります。→階乗進法,素数階乗進法,e進法

定理2の証明は自分で考えました,おもしろいです!