エジプト分数(単位分数の和)に関する4つの話題

エジプト分数

12\dfrac{1}{2} のように,分子が 11 である分数を単位分数と言います。

12+13+16\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{6} のように,分母が異なる単位分数の和のことをエジプト分数(エジプト式分数)と言います。

エジプト分数に関連する4つの話題を紹介します。

分子が1の場合

まずは,分子が 11 である分数 1n\dfrac{1}{n} をエジプト分数で表してみましょう。

1n=1n+1+1n(n+1)\dfrac{1}{n}=\dfrac{1}{n+1}+\dfrac{1}{n(n+1)}

という等式を使うと,

  • 12=13+16\dfrac{1}{2}=\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{6}
  • 13=14+112\dfrac{1}{3}=\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{12}
  • 14=15+120\dfrac{1}{4}=\dfrac{1}{5}+\dfrac{1}{20}

のように表せます。ちなみに,上記の等式は右辺を通分すれば簡単に示せます。

有名な整数問題

次に,1を単位分数の和で表してみましょう。

問題

1a+1b+1c=1\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=1 を満たす正の整数の組 (a,b,c)(a,b,c) をすべて求めよ。

入試で頻出の整数問題です。不等式で範囲を絞ります(→不定方程式の整数解【例題4問と解き方6パターン】のパターン4)。

解答

まず,abca\leq b\leq c のもとで考える。

a4a\geq 4 だと,bbcc44 以上になるので,1a+1b+1c34\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}\leq\dfrac{3}{4} となり不適。

  • a=3a=3 の場合
    1b+1c=23\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=\dfrac{2}{3}
    を満たす (b,c)(b,c) を求めたいが,b4b\geq 4 だと 1b+1c12\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}\leq\dfrac{1}{2} となり不適。よって,b=c=3b=c=3 のみが解。

  • a=2a=2 の場合
    1b+1c=12\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}=\dfrac{1}{2}
    を満たす (b,c)(b,c) を求めたいが,b5b\geq 5 だと 1b+1c25\dfrac{1}{b}+\dfrac{1}{c}\leq\dfrac{2}{5} となり不適。よって,(b,c)=(3,6),(4,4)(b,c)=(3,6),(4,4) が解。

よって,答えは (a,b,c)=(3,3,3),(2,3,6),(2,4,4)(a,b,c)=(3,3,3),(2,3,6),(2,4,4) とその並べ替え。

分母が異なるのは (2,3,6)(2,3,6) の場合だけです。 1=12+13+161=\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{6} というのはなかなかきれいな式です。

→高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~のT13では,この問題の別解や計算ミスを減らすコツも紹介しています。

ちなみに,この問題の不等式バージョンに関する話題としてシルベスターの数列とその性質もおもしろいです。

必ずエジプト分数で表せる

定理

00 より大きく 11 より小さい任意の有理数は,エジプト分数の形で表せる。

証明はきちんと書くと少し長いですが,要するに貪欲法(とれるだけとっていくことを繰り返す)」です。

証明

具体的に,pq\dfrac{p}{q}p,qp,q は正の整数で p<qp<q)をエジプト分数で表す方法を述べる。

まず,一番「惜しい」単位分数,つまり pq\dfrac{p}{q} 以下の中で pq\dfrac{p}{q} に最も近い単位分数 1n\dfrac{1}{n} を選ぶ。

つまり,1npq<1n1\dfrac{1}{n}\leq\dfrac{p}{q}<\dfrac{1}{n-1}

このとき,pq1n=pnqqn\dfrac{p}{q}-\dfrac{1}{n}=\dfrac{pn-q}{qn} となるので,残った pnqqn\dfrac{pn-q}{qn} を単位分数の和で表せばよい。

ところが,上の不等式より p(n1)<qp(n-1)< q つまり,pnq<ppn-q<p なので,残った pnqqn\dfrac{pn-q}{qn} の分子はもとの分子 pp よりも小さい。よって,この操作を最大 pp 回繰り返すと分子が 00 になるので,pq\dfrac{p}{q} は単位分数の和で表せる。

また,選ばれた単位分数の分母たちが互いに異なることも確認できる。具体的には,選ぶたびに nn が増えていくことが,以下のように証明できる。

  • 「残り」は単調減少するので nn が減ることはない。
  • 「残りが XX の状態」から同じ nn が2回続くと仮定すると,
    1nX<1n1\dfrac{1}{n}\leq X <\dfrac{1}{n-1}
    1nX1n<1n1\dfrac{1}{n}\leq X-\dfrac{1}{n}<\dfrac{1}{n-1}
    より 1n<1n11n\dfrac{1}{n}<\dfrac{1}{n-1}-\dfrac{1}{n},つまり n<2n<2 となるが,X<1X<1 よりそんなことはない。よって同じ nn が続くこともない。

例えば,上記の貪欲法で 67\dfrac{6}{7} をエジプト分数にしてみましょう。

  • 67\dfrac{6}{7} について,一番「惜しい」単位分数は 12\dfrac{1}{2} である。残りは 6712=514\dfrac{6}{7}-\dfrac{1}{2}=\dfrac{5}{14}
  • 514\dfrac{5}{14} について,一番「惜しい」単位分数は 13\dfrac{1}{3} である。残りは 51413=142\dfrac{5}{14}-\dfrac{1}{3}=\dfrac{1}{42}
  • 142\dfrac{1}{42} は単位分数

よって,67=12+13+142\dfrac{6}{7}=\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{42}

補足

記事公開後,以下の2つを Twitter で教えていただきました!

  1. 上記の証明が誘導付きで2021年広島大学の後期に出題されています。
  2. 上記の定理では「1より小さい」としましたが,1以上の場合もエジプト分数の形で表せます!
2の証明

調和級数が発散することから,正の有理数 qq に対して 12+13++1kq<12+13++1k+1\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{k}\leq q < \dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{k+1} を満たす kk が存在する。q(12+13++1k)q-\left(\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\cdots +\dfrac{1}{k}\right)1k+1\dfrac{1}{k+1} より小さい有理数なので,さきほどの手法でエジプト分数の形で表せる。その際,1k+1\dfrac{1}{k+1} よりも小さいことから分母として現れるのは k+2k+2 以上の整数。

調和数列の和

エジプト分数と調和数列に関する定理です。

定理

a,d,na,d,n を正の整数とする。このとき,k=0n1a+kd\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{a+kd} は整数ではない。

非常に簡潔でおもしろい定理ですが,証明は難しそうです。→Erdős の論文(外部PDF)

a=1a=1 かつ d=1d=1 の場合について,ベルトランの仮説を用いた証明を思いついたので紹介します。

限定したバージョンの証明

S=11+12++1NS=\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\cdots+\dfrac{1}{N} が整数にならないことを証明する。

NN 以下の素数の中で最大のものを pp とする。すると,2p>N2p>N となる。なぜなら,もし 2pN2p\leq N と仮定すると,ベルトランの仮説より pp から 2p2p の間に別の素数 qq が存在するが,これは pp の最大性に矛盾する。

よって,11 から NN の中で pp の倍数は pp のみである。よって,SS を通分したもの: N!1+N!2++N!NN!\dfrac{\frac{N!}{1}+\frac{N!}{2}+\cdots+\frac{N!}{N}}{N!} の分子の第 pp 項以外はすべて pp の倍数になり,第 pp 項は pp の倍数ではない。つまり,分子は pp の倍数ではない。一方,分母は pp の倍数なので,SS は整数ではない。

エジプトと聞くとガウス分布くんを思い出します。