リーマン積分 VS ルベーグ積分

  1. リーマン積分可能なら「ルベーグ積分の値=リーマン積分の値」

  2. ルベーグ積分できるがリーマン積分できない場合がある

  3. 広義リーマン積分できるがルベーグ積分できない場合がある

この記事ではリーマン積分とルベーグ積分の違いを見ていきます。 なお,リーマン積分とルベーグ積分の定義は

を参照してください。

ルベーグ積分値とリーマン積分値は同じ

ルベーグ積分を実際に運用していく際は,リーマン積分と同じように計算できることが多いです。

定理

ff[a,b][a,b] 上の有界な連続関数とする。このとき,リーマン積分可能であれば,リーマン積分の値とルベーグ積分の値は一致する。

リーマン積分とルベーグ積分を区別するため,リーマン積分は ab\int_a^b,ルベーグ積分は [a,b]\int_{[a,b]} で表記します。

証明の概要

分割 Δn\Delta_nΔn:a=x0<x1<x2<<x2n=b \Delta_n : a = x_0 < x_1 < x_2 < \cdots < x_{2^n} = b で,各 ii に対して,xi+1xi=ba2nx_{i+1} - x_i = \dfrac{b-a}{2^n} となるように定める。

Mk=maxx[xk,xk+1]f(x)\displaystyle M_k = \max_{x \in [x_k , x_{k+1}]} f (x)mk=minx[xk,xk+1]f(x)\displaystyle m_k = \min_{x \in [x_k , x_{k+1}]} f (x) とおく。

fM,n(x)=k=02n1Mkχ[xk,xk+1](x)fm,n(x)=k=02n1mkχ[xk,xk+1](x) f_{M,n} (x) = \sum_{k=0}^{2^n-1} M_k \chi_{[x_k, x_{k+1}]} (x)\\ f_{m,n} (x) = \sum_{k=0}^{2^n-1} m_k \chi_{[x_k,x_{k+1}]} (x) とする。

ff はリーマン積分可能であるため, abf(x)dx=limn[a,b]fM,n(x)dx=limn[a,b]fm,n(x)dx\begin{aligned} \int_a^b f(x) dx &= \lim_{n \to \infty} \int_{[a,b]} f_{M,n} (x) dx\\ &= \lim_{n \to \infty} \int_{[a,b]} f_{m,n} (x) dx \end{aligned} となる。

ff は有界であるため,f|f| は最大値 AA を持つ。

fM,n,fm,nf_{M,n} , f_{m,n} に対して,ルベーグ可積分な優関数 g(x)={A(axb)0(その他) g(x) = \begin{cases} A &(a \leqq x \leqq b)\\ 0 &(\text{その他}) \end{cases} を取れる。ルベーグの収束定理を用いると, [a,b]limnfM,n(x)dx=limn[a,b]fM,n(x)dx[a,b]limnfm,n(x)dx=limn[a,b]fm,n(x)dx\begin{aligned} \int_{[a,b]} \lim_{n \to \infty} f_{M,n} (x) dx &= \lim_{n \to \infty} \int_{[a,b]} f_{M,n} (x) dx\\ \int_{[a,b]} \lim_{n \to \infty} f_{m,n} (x) dx &= \lim_{n \to \infty} \int_{[a,b]} f_{m,n} (x) dx \end{aligned} となる。

各点で fM,n,fm,nf_{M,n},f_{m,n}ff に収束するため [a,b]f(x)dx=[a,b]limnfm,n(x)dx=limn[a,b]fm,n(x)dx=abf(x)dx\begin{aligned} \int_{[a,b]} f(x) dx &= \int_{[a,b]} \lim_{n \to \infty} f_{m,n} (x) dx\\ &= \lim_{n \to \infty} \int_{[a,b]} f_{m,n} (x) dx\\ &= \int_a^b f(x) dx \end{aligned} となる。

ルベーグ積分はできるが,リーマン積分はできない例

ディリクレ関数とは,有理数では 11,無理数では 00 となる関数です。

f(x)={1(xQ)0(xR\Q) f (x)= \begin{cases} 1 &(x \in \mathbb{Q})\\ 0 &(x \in \mathbb{R} \backslash \mathbb{Q}) \end{cases}

積分 01f(x)dx \int_0^1 f(x) dx を考えます。

リーマン積分

リーマン積分から引用します。

計算

[0,1][0,1] の分割 Δ\Delta に対して Ik=[xk1,xk]I_k = [x_{k-1} , x_k] とおく。

どのように区間 IkI_k を小さく取っても IkI_k は有理数,無理数両方を含む。(→有理数と無理数の稠密性

よって Mk=1M_k = 1mk=0m_k = 0 である。ゆえに SΔ,M=k=1nMk(xkxk1)=k=1n(xkxk1)=1SΔ,m=k=1nmk(xkxk1)=0\begin{aligned} S_{\Delta,M} &= \sum_{k=1}^n M_k (x_k - x_{k-1})\\ &= \sum_{k=1}^n (x_k - x_{k-1})\\ &= 1\\ S_{\Delta,m} &= \sum_{k=1}^n m_k (x_k - x_{k-1})\\ &= 0 \end{aligned} である。

よって, limΔ0SΔ,M=10=limΔ0SΔ,m \lim_{|\Delta| \to 0} S_{\Delta,M} = 1 \neq 0 = \lim_{|\Delta| \to 0} S_{\Delta,m} となり,リーマン可積分ではない。

ルベーグ積分

計算

f(x)=χQ(x)f (x) = \chi_{\mathbb{Q}} (x) と表されるため 01f(x)dx=μ(Q[0,1]) \int_0^1 f(x) dx = \mu (\mathbb{Q} \cap [0,1]) となる。

ここで Q\mathbb{Q} の測度は 00 であったため,μ(Q[0,1])=0\mu (\mathbb{Q} \cap [0,1]) = 0 である。こうして 01f(x)dx=0 \int_0^1 f(x) dx = 0

広義リーマン積分はできるが,ルベーグ積分はできない例

リーマン可積分であれば,ルベーグ可積分です。

しかし,広義リーマン積分になると,ルベーグ積分を飛び出ることがあります。そのような例である

sinc 関数(シンク関数)の積分(ディリクレ積分)

0sinxxdx \int_0^{\infty} \dfrac{\sin x}{x} dx を考えます。

広義リーマン積分

留数定理を用いた三角関数の積分 で証明していますが, 0sinxxdx=π2 \int_0^{\infty} \dfrac{\sin x}{x} dx = \dfrac{\pi}{2} となります。

ルベーグ積分

ルベーグ積分の立場では 0sinxxdx=0(sinxx)+dx0(sinxx)dx\begin{aligned} &\int_{0}^{\infty} \dfrac{\sin x}{x} dx\\ &= \int_0^{\infty} \left( \dfrac{\sin x}{x} \right)_+ dx - \int_0^{\infty} \left( \dfrac{\sin x}{x} \right)_- dx \end{aligned} で定義されます。 実は右辺は2項とも発散しており,ルベーグ可積分ではありません。これを確認してみましょう。

ルベーグ積分できないことの確認

0(sinxx)+dx=n=02πn2πn+πsinxxdxn=02πn2πn+πsinx2πn+πdx=n=02π(2n+1)=\begin{aligned} \int_0^{\infty} \left( \dfrac{\sin x}{x} \right)_+ dx &= \sum_{n=0}^{\infty} \int_{2\pi n}^{2\pi n + \pi} \dfrac{\sin x}{x} dx\\ &\geqq \sum_{n=0}^{\infty} \int_{2\pi n}^{2\pi n + \pi} \dfrac{\sin x}{2\pi n + \pi} dx\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{2}{\pi (2n+1)}\\ &= \infty \end{aligned} となる。同様に 0(sinxx)dx= \int_0^{\infty} \left( \dfrac{\sin x}{x} \right)_- dx = \infty となり, 0sinxxdx= \int_{0}^{\infty} \dfrac{\sin x}{x} dx = \infty - \infty という不定形になる。

こうしてルベーグ積分はできない。

広義リーマン積分とルベーグ積分を共に含むさらに大きな積分論に「ヘンストック=クルツヴァイル積分」というものがあります。