シュトルツ=チェザロの定理~ロピタルの定理の数列版

シュトルツ=チェザロの定理

数列 {an}\{ a_n \}{bn}\{ b_n \} について,次のどちらかを満たすとする。

  1. {bn}\{ b_n \} は単調増加(もしくは単調減少)で limnbn=±\displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n = \pm\infty
  2. {bn}\{ b_n \} は単調増加(もしくは単調減少)で limnan=limnbn=0\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} b_n = 0

このとき,極限 limnanan1bnbn1\displaystyle \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n - a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} が存在すれば, limnanbn=limnanan1bnbn1 \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n}{b_n} = \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n - a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} である。

シュトルツ=チェザロの定理は,数列の極限を求めるのに役立つ定理です。ロピタルの定理 の数列版とも言えます。

例1:チェザロ平均との関係

シュトルツ=チェザロの定理の応用例として,チェザロ平均の性質を導出してみます。

チェザロ平均の性質とは,チェザロ平均の性質と関連する東大の問題でも紹介した以下の有名な性質です。

チェザロ平均の性質

数列 {cn}\{c_n\} に対して,

limncn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=\alpha なら limnc1+c2++cnn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty} \dfrac{c_1+c_2+\cdots +c_n}{n} =\alpha

導出

シュトルツ=チェザロの定理において an=c1+c2++cna_n = c_1+c_2+\cdots +c_nbn=nb_n = n とおくと,定理の条件1を満たし limnanan1bnbn1=limncn1=α \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n - a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} = \lim_{n \to \infty} \dfrac{c_n}{1} = \alpha となるため limnc1+c2++cnn=α \lim_{n \to \infty} \dfrac{c_1+c_2+\cdots +c_n}{n} = \alpha

例2:バーゼル問題に関連する極限

バーゼル問題 でも紹介しましたが, k=11k2=π26 \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{k^2} = \dfrac{\pi^2}{6} です。これにまつわる極限を紹介します。

問題

次の極限を求めよ。 limnn(π26k=1n1k2) \lim_{n \to \infty} n \left( \dfrac{\pi^2}{6} - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k^2} \right)

解答

limn(π26k=1n1k2)=0\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( \dfrac{\pi^2}{6} - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k^2} \right) = 0 に注意する。

an=π26k=1n1k2\displaystyle a_n = \dfrac{\pi^2}{6} - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k^2}bn=1nb_n = \dfrac{1}{n} とおくと,これらは定理の条件2を満たす。

limnanan1bnbn1=limn1n21n1n1=limn1n2n(n1)1=1\begin{aligned} \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n -a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} &= \lim_{n \to \infty} \dfrac{\dfrac{1}{n^2}}{\dfrac{1}{n} - \dfrac{1}{n-1}}\\ &= \lim_{n \to \infty} \dfrac{1}{n^2} \dfrac{n(n-1)}{1}\\ &= 1 \end{aligned} であるため limnn(π26k=1n1k2)=1 \lim_{n \to \infty} n \left( \dfrac{\pi^2}{6} - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k^2} \right) = 1 を得る。

一般化

より一般に,ζ(s)=k=11ks\zeta(s)=\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{k^s} に対して,次の定理が成立します。

定理

s>1s > 1 とする。 limnns1(ζ(s)k=1n1ks)=1s1 \lim_{n \to \infty} n^{s-1} \left( \zeta (s) - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k^s} \right) = \dfrac{1}{s-1}

ζ(s)\zeta(s) については,ゼータ関数の定義と基本的な話もどうぞ。

証明

イプシロンエヌ論法を用います。少し長いです。

証明

limnanan1bnbn1=c\displaystyle \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n - a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} = c とおく。

ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。ある正の整数 MM があって n>Mn > M のとき anbnc<ε\left| \dfrac{a_n}{b_n} - c \right| < \varepsilon であることを示せばよい。

ck=akak1bkbk1c\displaystyle c_k = \dfrac{a_k - a_{k-1}}{b_k - b_{k-1}} - c とおく。limnanan1bnbn1=c\displaystyle \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n - a_{n-1}}{b_n - b_{n-1}} = c より limncn=0\displaystyle \lim_{n \to \infty} c_n = 0 である。

よって,ある正の整数 NN があって,n>Nn > N であれば cn<13ε|c_n| < \dfrac{1}{3} \varepsilon となる。

さて,ここで ckc_k の定義より任意の正整数 kk に対して akak1=(ck+c)(bkbk1) a_k - a_{k-1} = (c_k + c) (b_k - b_{k-1}) である。

  1. bnb_n が発散するとき

n>Nn > N のもとで, anaN=k=N+1n(akak1)=k=N+1n(ck+c)(bkbk1)=c(bnbN)+k=N+1nck(bkbk1)\begin{aligned} a_n - a_N &= \sum_{k=N+1}^n (a_k - a_{k-1})\\ &= \sum_{k=N+1}^n (c_k + c) (b_k - b_{k-1})\\ &= c (b_n - b_N) + \sum_{k=N+1}^n c_k (b_k - b_{k-1})\\ \end{aligned} である。

式を整理すると anbnc=aNbn+cbNbn+k=N+1nckbkbk1bn \dfrac{a_n}{b_n} -c = \dfrac{a_N}{b_n} + c\dfrac{b_N}{b_n} + \sum_{k=N+1}^n c_k \dfrac{b_k - b_{k-1}}{b_n} となる。

よって anbncaNbn+cbNbn+k=N+1nckbkbk1bn \left| \dfrac{a_n}{b_n} -c \right| \leqq \left| \dfrac{a_N}{b_n} \right| + \left| c\dfrac{b_N}{b_n} \right| + \left| \sum_{k=N+1}^n c_k \dfrac{b_k - b_{k-1}}{b_n} \right| である。

nn \to \infty で1,2項目は 00 に収束するため,ある正の整数 NN' があって,n>Nn > N' のとき aNbn<13ε\left| \dfrac{a_N}{b_n} \right| < \dfrac{1}{3} \varepsiloncbNbn<13ε\left| c\dfrac{b_N}{b_n} \right| < \dfrac{1}{3} \varepsilon を得る。

3項目について考える。

k>Nk > N であるため ck<ε3|c_k| < \dfrac{\varepsilon}{3} である。ゆえに k=N+1nckbkbk1bnk=N+1nbkbk1bn13ε=1bNbn13ε13ε\begin{aligned} \left| \sum_{k=N+1}^n c_k \dfrac{b_k - b_{k-1}}{b_n} \right| &\leqq \left| \sum_{k=N+1}^n \dfrac{b_k - b_{k-1}}{b_n} \right| \dfrac{1}{3} \varepsilon\\ &= \left| 1-\dfrac{b_N}{b_n} \right| \dfrac{1}{3} \varepsilon\\ &\leqq \dfrac{1}{3} \varepsilon \end{aligned} である。

以上より nn が十分大きいとき anbnc<ε \left| \dfrac{a_n}{b_n} - c \right| < \varepsilon である。こうして limnanbn=c\displaystyle \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n}{b_n} = c である。

  1. an,bna_n , b_n00 に収束するとき

mm を正の整数とする。同様の計算から anan+m=c(bnbn+m)+k=nn+mck(bkbk+1) a_n - a_{n+m} = c (b_n - b_{n+m}) + \sum_{k=n}^{n+m} c_k (b_k - b_{k+1})\\ である。

同様に anbncan+mbn+cbn+mbn+k=nn+mckbkbk+1bn \left| \dfrac{a_n}{b_n} -c \right| \leqq \left| \dfrac{a_{n+m}}{b_n} \right| + \left| c \dfrac{b_{n+m}}{b_n} \right| + \left| \sum_{k=n}^{n+m} c_k \dfrac{b_k - b_{k+1}}{b_n} \right| となる。

mm \to \infty で 1,2 項目は 00 に収束するため,ある正の整数 MM があって m>Mm > M のとき an+mbn<13ε\left| \dfrac{a_{n+m}}{b_n} \right| < \dfrac{1}{3} \varepsiloncbn+mbn<13ε\left| c \dfrac{b_{n+m}}{b_n} \right| < \dfrac{1}{3} \varepsilon を得る。

3項目も同様に,正の整数 NN'' があって n>Nn > N'' のとき 13ε\dfrac{1}{3} \varepsilon で抑えられる。

以上より nn が十分大きいとき anbnc<ε \left| \dfrac{a_n}{b_n} - c \right| < \varepsilon である。こうして limnanbn=c\displaystyle \lim_{n \to \infty} \dfrac{a_n}{b_n} = c である。

ロピタルほどではないですが,入試のとき検算に使えます。