巡回行列の固有値・固有ベクトルと行列式
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のように,「左上~右下方向」に同じ値が並んだ行列を巡回行列(循環行列,Circulant matrix)という。
※より正確に述べると, 成分の値が「 を で割った余り」のみで決まる 行列のことです。
巡回行列の行列式
巡回行列の行列式
巡回行列の行列式は,因数分解できておもしろいです。
巡回行列 の行列式は, の1行目を とすると,
ただし,この記事で は ,つまり の 乗根を表します。→1のn乗根の性質と複素数平面
難しそうな式ですが, の場合で書いてみるとわかりやすいです。
- 定理の左辺は, です。行列式の定義にもとづいて計算すると, となります。
- 定理の右辺は, の 乗根を とおくと,
となります。
つまり,この式は,高校数学で登場する因数分解公式
の右辺第2項をさらに複素数の範囲で分解したものです!→因数分解公式一覧
- 行列式が固有値の積であること:
- 固有値が であること(→後述の定理2)
からわかる。
巡回行列の固有値・固有ベクトル
巡回行列の固有値・固有ベクトル
巡回行列 について, の1行目を とする。
- 固有ベクトルは,
- に対応する固有値は
(ただし,)
が簡単な計算で確認できる。例えば のときには以下の式を確認することになる。
-
:
-
:
-
:
さらに, なら と が直交することも確認できる。
巡回行列と離散フーリエ変換
巡回行列と離散フーリエ変換
定理2の応用です。この節は少し難しいです。
-
巡回行列の固有ベクトルを求めましたが,これらを並べた行列は,離散フーリエ変換を表す行列 と一致します。
例えば, の場合,3次元ベクトル の離散フーリエ変換は と表せます。 -
つまり,巡回行列は「離散フーリエ変換を表す行列で対角化できる」と言えます:(ただし が固有値を並べた対角行列)
-
さらに,この式から という重要な式を導出できます。ただし, は 次元ベクトルの巡回畳み込み(畳み込みの巡回バージョン)で, はベクトルの要素ごとの積を表します。
1行目が である巡回行列を とおくと,巡回畳み込みの定義より
よって,
高校数学で習う因数分解公式が出てくるのがおもしろいです。