合成積(畳み込み)の意味と応用3つ
合成積(畳み込み)は「二つの関数」から「一つの関数」を作る演算で,いろいろなところに登場する。
合成積の定義,意味,応用例を解説します。
合成積の定義
意味
諸注意
応用
合成積の定義
無限や積分が入っていて一見複雑ですが「和が一定となるようなものをかけて足し合わせる」という操作です。
連続版(畳み込み積分)
二つの関数 と から以下のような操作をして新しい関数 を作ります:
この を と の合成積,畳み込み,畳み込み積分,重畳積分などと呼びます。 , などと書くことが多いです。※合成関数とは全く別の概念です。
離散版(畳み込み和)
定義域が整数値であるような二つの関数(数列) と から以下のような操作をして新しい数列 を作ります:
この を と の合成積,畳み込み,畳み込み和などと呼びます。 , などと書くことが多いです。
意味
合成積の定義は数式を丸暗記するよりも以下のように日本語で覚えたほうがよいです。
- 添字の和が一定である部分の関数値をかけて足しあわせたもの
- 少しずつ逆方向に添字をスライドさせながらかけて足し合わせたもの
→数学のいろいろな場面で登場する重要なもの
諸注意
この節は連続版で説明しますが離散版も全く同様です。
-
畳み込みの定義において,右辺に が入っていますが, 積分すると消えるので右辺は の関数です。
-
畳み込みは可換です。つまり, です。これは畳み込みの意味を考えれば当たり前ですが,以下のように置換積分を用いても簡単に証明できます。
ここで と置換すると,上式は,
- 上記の定義で積分区間は から となっていますが,状況によっては和を取る区間を制限する場合もあります。特に信号処理の文脈では周期関数の畳み込みが重要ですが,そのような場合には積分区間を一周期ぶんにとります。
応用
合成積の構造はいろいろなところに出現します。
多項式の積
多項式 と の積の係数は と の畳み込みになっています。
の の係数は と添字の和が2の部分を足しあわせた形になっている。他の次数も同様。
これは考えてみれば当たり前ですが,たまに役立ちます。例えば「原始多項式の積が原始多項式であること」の証明の見通しがよくなります。→原始多項式とその積について
確率変数の和の確率
確率変数 と の確率分布が分かっているときに の確率分布は合成積で与えられます。
離散版の場合:
連続版の場合: の確率密度関数が の確率密度関数と の確率密度関数の合成積になります。確率密度関数の意味と具体例
信号処理
詳細は述べませんが,線形時不変システムという都合のよいシステムなら
システムの出力はインパルス応答(あらかじめ求めておける)と入力の合成積で求まるという素晴らしい性質が成立します。
また,合成積はフーリエ変換,ラプラス変換とも相性がよく,信号処理論で重要な役割を果たします。
その他
他にもカタラン数が満たす漸化式やヴァンデルモンドの畳み込みなど,畳み込みっぽい構造はいろいろなところに出現します。 →カタラン数の意味と漸化式 →ヴァンデルモンドの畳み込みの証明
「畳」という漢字。たたみっぽくて好きです。