京大理系数学2021入試過去問解答解説
※以下の解答と解説は京都大学が公表したものではなく,当サイトオリジナルのものです。問題は京都大学第2次試験問題からの引用です。
この記事では,京都大学の2021年度入学試験の理系数学について解説します。
第一問[ベクトル・確率]
第一問[ベクトル・確率]
次の各問に答えよ。
問1 空間の 点 を通る平面 に関して点 と対称な点 の座標を求めよ。ただし,点 が平面 に関して と対称であるとは,線分 の中点 が平面 上にあり,直線 が から平面 に下ろした垂線となることである。
問2 赤玉,白玉,青玉,黄玉が 個ずつ入った袋がある。よくかき混ぜた後に袋から玉を 個取り出し,その玉の色を記録してから袋に戻す。この試行を繰り返すとき, 回目の試行で初めて赤玉が取り出されて 種類全ての色が記録済みとなる確率を求めよ。ただし は 以上の整数とする。
問1については,計算がやや面倒ですが,方針をたてるのには困らないでしょう。計算ミスに気をつけて問題を解きます。
より,平面 上の任意の点 は,実数 を用いて, で表せる。 が から平面 に下ろした垂線の足だとすると, は, を満たす。よって, また, を解いて, よって, したがって, より,
続いて問2です。 回目では絶対赤玉が取り出されることになるので, から 回目の試行で他の 色の玉が取り出されていれば良いです。
回目から 回目の試行で,赤以外の 色のみを取り出す確率 は, 回目から 回目の試行で,赤以外の 色のみを取り出す確率 は, よって, 回目から 回目の試行で,赤以外の 色のみを取り出す確率 は, これより,求める確率は,
第二問[微分]
第二問[微分]
曲線 上の点 における接線は 軸と交わるとし,その交点を とおく。線分 の長さを とするとき, が取りうる値の最小値を求めよ。
とても素直な問題です。問題の条件を数式におこしていって,最小値を求めましょう。途中で4次の項が出てきたりしますが,置き換えをすることによって計算の複雑さを抑えることができます。
接線が 軸と交わるのは のときである。 とおけば, における接線は, ここで, とすると, のとき よって, である。これより, とおけば, ここで, とおく。 を で微分して, であることを考えて, の増減表をかくと以下の通り。 したがって, がとりうる値の最小値は
第三問[複素数]
第三問[複素数]
無限級数 の和を求めよ。
シグマの中の式が の形をしています。これをみて複素数の利用を思いつきましょう。複素数の極形式はこの形の処理に強いです。→複素数平面における極形式と回転
複素数 を で定義する。すると, より, これにより, ここで, のとき, より, よって, において として,
第四問[積分]
第四問[積分]
曲線 の の部分の長さを求めよ。
この問題も方針は一瞬でたってしまいます。ただ,積分計算がやや煩雑です。三角関数の積分は入試で本当によく出題されます。今回の問題でつまずいてしまった人は,積分の練習をよくしておくと良いでしょう。
より, よって,求める曲線の長さを とすると
第五問[図形と方程式・ベクトル]
第五問[図形と方程式・ベクトル]
平面において, 点 に対し,点 は次の条件 を満たすとする。
かつ点 の 座標は正。
次の各問に答えよ。
(1) の外心の座標を求めよ。
(2) 点 が条件 を満たしながら動くとき, の垂心の軌跡を求めよ。
(1)から考えます。 はすでに与えられていますので,外心はこれら 点の垂直二等分線上にあることが必要です。これを出発点に の座標を変数で現し,数式で表現していきましょう。半径の長さを求めるには正弦定理が使いやすいでしょう。→正弦定理の意味と3通りの証明・頻出の応用例
の外心を とする。 は の垂直二等分線上,つまり 軸上にある。ここで, とおくと, の外接円の半径 は, また, に正弦定理を適用すれば, より, の 座標は正より, の方を採用して, が答えとなる。
(2)も素直に条件を数式化していきましょう。詰まるところはあまりないと思います。
は を中心とする半径 の円の, を満たす部分を動く。つまり, と書いた時, と表される範囲を動く。
さて, の座標を求める。 とおく。 が 軸に平行なことから, は 軸に平行であるから, また, つまり, ここで, より, であるから, より, を に代入して, よって,求める奇跡は
「 を中心とする半径 の円の, を満たす部分」
である。
第六問[整数・極限・微分]
第六問[整数・極限・微分]
次の各問に答えよ。
問1 を 以上の整数とする。 が素数ならば も素数であることを示せ。
問2 を より大きい定数とする。微分可能な関数 が を満たすとき,曲線 の接線で原点 を通るものが存在することを示せ。
問1から考えます。素数であることを数式で表すのは,なかなかやりづらいです。ここで,問題の主張の対偶:
「 が素数でないなら, も素数でない」
を示すことを考えます。これならば, を などと表すことができます。また, が素数でないことを示すのも,この数が合成数であることを示せばよくなります。対偶をとることによって,条件を数式に落とし込みやすくなることを利用しましょう。
また,途中の因数分解には,「 乗の差の因数分解公式」を利用します。→因数分解公式(n乗の差,和)
問題の主張の対偶:
「 が素数でないなら, も素数でない」
を示す。
が素数ではない時, なる整数 を用いて を表せる。このとき, ここで, より, よって, は合成数であり,素数ではない。
最後に問2です。今年の問題の中では,この問題が一番やりにくかったのではないでしょうか。どのような発想で解くかを詳しく解説したいと思います。
上の点 における接線の方程式は, です。 は任意の実数を動きます。この直線の方程式が を通るとき, が成立しています。つまり,この問題は 式を満たす実数 が存在することを示すという問題に変わります。
式をみて何か連想できるでしょうか。もし,左辺が, だったらより簡単に思いつくかもしれません。これは に等しいですね。
このことから類推して, の微分を考えてみてはどうでしょうか。この関数の微分は, で表されます。やはり, 式の左辺が出てきてくれました。ということは,この問題はさらに言い換えられて, なる実数 が存在することを示す という問題に変わります。ちなみに では は定義されないので で探すことになります。
では, についてなにか性質がないか調べてみます。この問題では, がよく出てきていますから,この点についての情報を求めてみます。 このことから, がわかります!これは使えそうな情報です。
さて,一般論として,数学の問題を解く上で「 の形を含む時は,平均値の定理の利用を疑う」ことが有効です。このことは平均値の定理の意味・証明・応用例題2パターンの記事でも述べています。上記で求めた はこの形をしていますので, に平均値の定理を適用すれば, を満たす が と の間に存在します。 より, であり,これは なる実数 が存在することを示せています!これでOKです。
このような連想の仮定は解答の中に示す必要はありません。より整然と淡々とした,簡潔な解答を答案には書けばよいのです。例えば, をどうして導入するか,などと言ったことは解答に反映する必要はなく,ただ定義のみを書けば良いです。
ではこれらの議論を答案っぽくまとめてみましょう。
関数 に対し,新たな関数 を で定義する。この関数に平均値の定理を適用すれば, を満たす実数 が, と の間に存在することになる。ここで, より, また, これら2式により, さて, 上の点 における接線は, で表される。ここで,式 より, における接線は, で表せる。この接線は原点 を通っている。よって,題意は示された。
京都大学二次試験理系数学2021入試問題解答解説まとめ
京都大学二次試験理系数学2021入試問題解答解説まとめ
基本的な問題が多かったです。特に第一問,第二問,第四問,第五問は教科書レベルの問題と言えますので,教科書レベルの問題を深く理解して解けるようになること,また計算ミスをしないことがとても重要になります。
第三問は複素数の利用に気づかないと計算がなかなか大変だったと思います。この手の問題を解いたことのあった人にとっては,とても簡単な問題に見えたかもしれません。経験が物を言う問題でした。
第六問の問1は,因数分解の公式さえ覚えていれば非常に簡単にとけたでしょう。入試では,1つを知っているかどうかで,難易度が全く変わって見えてしまいます。入試までに,できるだけたくさんの公式を「武装」して準備しましょう。 なにより,公式をたくさん勉強するのは楽しいものです。
第六問の問2が今年の最難関でしょう。平均値の定理がらみの問題は正答率が下がりがちです。平均値の定理の典型問題をよく勉強しておいて,応用できるようにしておくと良いかもしれません。個人的には連想ゲームみたいで楽しい問題でした。
でも,第三問や第六問のような問題がとけることより,基本的な問題をちゃんと勉強しておくことが,文系理系問わず,これからの京大受験生にとっては重要になってくるのかもしれませんね。
まずは難しい問題をがむしゃらに解くよりも,基本的な土台をちゃんと組み上げましょう。土台があると数学をより楽しむことができるようになると思います。