複素数平面における回転と極形式

更新日時 2023/05/07
極形式

複素数を reiθre^{i\theta} という形で表すことがあります。これを複素数の「極形式」と言います。

この記事では,複素数の極形式と回転について詳しく解説します。複素数平面の復習もします。

複素数の極形式

例えば,3+i\sqrt{3}+i という複素数は,2eπ6i2e^{\frac{\pi}{6}i} と表すことができます。2eπ6i2e^{\frac{\pi}{6}i} という表記は少しわかりにくいので,もう少し詳しく説明すると,

  • ee はネイピア数(自然対数の底)です。→自然対数の底
  • eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta}=\cos\theta +i\sin\theta という等式が成立します。→オイラーの公式
  • つまり,eπ6i=cosπ6+isinπ6=32+12ie^{\frac{\pi}{6}i}=\cos\dfrac{\pi}{6} +i\sin\dfrac{\pi}{6}=\dfrac{\sqrt{3}}{2}+\dfrac{1}{2}i となります。
  • 両辺を2倍すると,確かに 3+i=2eπ6i\sqrt{3}+i=2e^{\frac{\pi}{6}i} がわかります。

このように,複素数は reiθre^{i\theta}(ただし,rrθ\theta は実数)という形で表すことができ,この形を極形式と呼びます。全く同じことですが,指数関数を使わずに r(cosθ+isinθ)r(\cos\theta+i\sin\theta) と表したものも極形式と呼びます。

2eπ6i2e^{\frac{\pi}{6}i} の場合,r=2r=2θ=π6\theta=\dfrac{\pi}{6} です。

複素数を極形式で表す方法

複素数と複素数平面

z=x+iyz=x+iy を極形式で表す手順です:

  1. 直交座標に (x,y)(x,y) をプロットする。
  2. 極座標 (r,θ)(r,\theta) に変換する
  3. 得られた rrθ\theta を使って,r(cosθ+isinθ)=reiθr(\cos\theta+i\sin\theta)=re^{i\theta} としたものが極形式

例として,3+i\sqrt{3}+i を極形式で表してみましょう。

偏角

  1. z=3+iz=\sqrt{3}+i は直交座標では (3,1)(\sqrt{3},1) に対応している。

  2. (3,1)(\sqrt{3},1) は原点からの距離が 22 で,xx 軸の正の向きとなす角が π6\dfrac{\pi}{6} なので,極座標では (2,π6)\left( 2,\:\dfrac{\pi}{6} \right) に対応している。

  3. z=2(cosπ6+isinπ6)z = 2 \left( \cos\dfrac{\pi}{6}+i\sin\dfrac{\pi}{6} \right) または z=2eπ6iz=2e^{\frac{\pi}{6}i} と表せる。これが zz の極形式である。

rr を複素数 zz の絶対値,θ\theta を偏角と呼びます。 3+i\sqrt{3}+i の絶対値は 22 ,偏角は π6\dfrac{\pi}{6} です。

複素数平面について

極形式について理解を深めるために,複素数平面について述べます。

複素数平面(ガウス平面)

複素数 z=x+iyz=x+iy を直交座標の (x,y)(x,\:y) に対応させ,xx 軸を実軸に,yy 軸を虚軸におきかえたものを複素数平面とよぶ。

ガウス平面

  • 例えば,2+3i2+3i という複素数には「原点から右に2,上に3行った点」が対応します。

  • 複素数と平面上の点を一対一対応させています。複素数 x+iyx+iy を1つ決めると,複素数平面上の点 (x,y)(x,y) が1つ決まります。逆もしかりです。

  • ではなぜ複素数平面を考えるのか?直交座標でよいのでは?と思うかもしれません。実は,「極形式」と「複素数平面における回転」を理解すれば複素数平面の意義がわかります。

複素数平面における回転

極形式の知識をふまえて,複素数平面における回転について解説します。

「複素数平面における点の回転」は「複素数のかけ算」に対応している。

もっと数学的にきちんと言うと,「偏角が θ1\theta_1 である複素数」と「偏角が θ2\theta_2 である複素数」の積は「偏角が θ1+θ2\theta_1+\theta_2 である複素数」となる,です。

「回転」という一見やっかいな操作が,複素数のかけ算という簡単な計算で表現できるのでありがたいです。「回転をかけ算で扱える」というのが,複素数平面を使う最大のメリットと言えるでしょう。

この性質を証明してみましょう。

証明

絶対値が r1r_1 で偏角が θ1\theta_1 である複素数 z1z_1 と,絶対値が r2r_2 で偏角が θ2\theta_2 である複素数 z2z_2 の積を考える。

複素数 z1,z2z_1,\:z_2 を極形式で表すと,

z1=r1(cosθ1+isinθ1)z_1=r_1(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)

z2=r2(cosθ2+isinθ2)z_2=r_2(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)

よって,地道に計算すると,

z1z2=r1r2(cosθ1+isinθ1)(cosθ2+isinθ2)=r1r2(cosθ1cosθ2sinθ1sinθ2)+r1r2i(cosθ1sinθ2+sinθ1cosθ2)=r1r2(cos(θ1+θ2)+isin(θ1+θ2))\begin{aligned} z_1z_2 &= r_1r_2(\cos\theta_1+i\sin\theta_1)(\cos\theta_2+i\sin\theta_2)\\ &= r_1r_2(\cos\theta_1\cos\theta_2-\sin\theta_1\sin\theta_2)\\ & \quad +r_1r_2i(\cos\theta_1\sin\theta_2+\sin\theta_1\cos\theta_2)\\ &= r_1r_2(\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)) \end{aligned}

ただし,最後の行で三角関数の加法定理を用いた。

よって,z1z2z_1z_2 の極形式が得られて,絶対値が r1r2r_1r_2,偏角が θ1+θ2\theta_1+\theta_2 であることが分かった。

  • 例えば z1z_1 を絶対値を保ったまま π6\dfrac{\pi}{6} 回転させたいときには,z2=12(3+i)z_2=\dfrac{1}{2}(\sqrt{3}+i) とすればよいです(z2z_2 は絶対値が 11 で偏角が π6\dfrac{\pi}{6} です)。 複素数のかけ算を1回行うだけで。回転後の座標が計算できるというのが複素数平面の素晴らしさです。直交座標だと加法定理なり一次変換なりを使う必要があり,めんどうです。

  • 上記の証明から分かるように「複素数の積」は「絶対値は積,偏角は和」になります。

高校時代,なぜ複素数平面を考えるのか?直交座標でよいのでは?と悩んだ記憶があります。

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