ビュフォンの針の問題と確率の導出

ビュフォンの針

平面上に間隔 dd で平行線を引く。長さ l(d)l\:(\leq d) の針を適当に投げたとき,針が線と交わる確率は 2lπd\dfrac{2l}{\pi d}

ビュフォンの針

ビュフォンの針(Buffon’s needle problem)と呼ばれる有名な確率の問題を紹介します。円周率が登場するのが面白いです。

ビュフォンの針を使って円周率を求める

針が線と交わる確率は 2lπd\dfrac{2l}{\pi d} です(この式は後ほど証明します)。

確率に円周率が登場します。よって,実際に以下の例のようなビュフォンの針の実験を行うことで円周率の近似値を求めることができます。

実験の例

係数を綺麗にするために d=2ld=2l として実験する。このとき針が線と交わる確率は 1π\dfrac{1}{\pi} となる。例えば 10001000 回針を投げてそのうち NN 回が直線と交わった場合,

N10001π\dfrac{N}{1000}\fallingdotseq \dfrac{1}{\pi} となるはず。

よって,1000N\dfrac{1000}{N} を円周率の値 π\pi の近似値とみなすことができる。

確率の導出

それでは,針が線と交わる確率が 2lπd\dfrac{2l}{\pi d} であることを証明します。

証明を厳密に理解するためには大学の確率論が必要ですが,雰囲気は高校数学でも十分理解できます。

まずは証明に向けて,ランダムに投げた針の状態がどのようになるのか,確率の言葉を使ってきちんと解釈します。

ビュフォンの針のモデル化

投げた針の中心 AA から最も近い線までの距離を yy とします。

0yd20\leq y\leq \dfrac{d}{2} です。

また,針と直線のなす角を θ\theta とします。

0θπ20\leq \theta\leq\dfrac{\pi}{2} です。

yyθ\theta は(連続型の)確率変数です。「ランダムに針を投げた」という言葉は以下のように解釈できます。

・針の中心 AA の座標はランダムyy は区間 [0,d2][0,\frac{d}{2}] 上の一様分布に従う)

・針がどの方向を向くかはランダムθ\theta は区間 [0,π2][0,\frac{\pi}{2}] 上の一様分布に従う)

このような解釈のもと,針が線と交わる確率を求めてみます。

ビュフォンの針の確率の導出

さきほどの図より,
針が線と交わる(共有点を持つ)    yl2sinθ\iff y \leq \dfrac{l}{2}\sin\theta

よって,yyθ\theta をランダムに決めたときに yl2sinθy\leq \dfrac{l}{2}\sin\theta となる確率を求めればよい。

ビュフォンの針の確率の導出

「ランダムに yyθ\theta を選ぶ」ことは「図の長方形内にランダムに一つ点を取る」ことに対応する。よって,求める確率は図において (青い部分の面積)÷(長方形の面積)である。

長方形の面積は πd4\dfrac{\pi d}{4} であり,青い部分の面積は 0π2l2sinθdθ=l2\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{l}{2}\sin\theta d\theta=\dfrac{l}{2} であるので,求める確率は 2lπd\dfrac{2l}{\pi d} となる。

針が長い場合の確率

ここまでは ldl\leq d の場合を考えましたが,l>dl>d の場合も考えてみましょう。

ビュフォンの針(針が長い場合)の確率

ビュフォンの針において l>dl>d の場合,針が線と交わる確率は

2lπd(11d2l2)+12πArcsin(dl)\dfrac{2l}{\pi d}\left(1-\sqrt{1-\dfrac{d^2}{l^2}}\right)+1-\dfrac{2}{\pi}\mathrm{Arcsin}\left(\dfrac{d}{l}\right)

ただし,Arcsin\mathrm{Arcsin}sin\sin の逆関数です。→逆三角関数(Arcsin,Arccos,Arctan)の意味と性質

証明

ldl\leq d の場合と考え方は同じ。求める確率は図において (青い部分の面積)÷(長方形の面積)である。 ビュフォンの針の確率の導出2

ただし,θ0\theta_0l2sinθ0=d2\dfrac{l}{2}\sin\theta_0=\dfrac{d}{2} を満たす。

長方形の面積は πd4\dfrac{\pi d}{4} であり,青い部分の面積は 0θ0l2sinθdθ+(π2θ0)d2=l2(cosθ0+1)+πd4dθ02\displaystyle\int_0^{\theta_0}\dfrac{l}{2}\sin\theta d\theta+(\dfrac{\pi}{2}-\theta_0)\cdot\dfrac{d}{2}\\ =\dfrac{l}{2}(-\cos\theta_0+1)+\dfrac{\pi d}{4}-\dfrac{d\theta_0}{2}

つまり,求める確率は

2lπd(1cosθ0)+12θ0π=2lπd2lπd1sin2θ0+12θ0π=2lπd(11d2l2)+12πArcsin(dl)\dfrac{2l}{\pi d}(1-\cos\theta_0)+1-\dfrac{2\theta_0}{\pi}\\ =\dfrac{2l}{\pi d}-\dfrac{2l}{\pi d}\sqrt{1-\sin^2\theta_0}+1-\dfrac{2\theta_0}{\pi}\\ =\dfrac{2l}{\pi d}\left(1-\sqrt{1-\dfrac{d^2}{l^2}}\right)+1-\dfrac{2}{\pi}\mathrm{Arcsin}\left(\dfrac{d}{l}\right)

非常に面白い方法ですが,円周率の近似の精度は悪いです(誤差を 110\dfrac{1}{10} くらいにするには投げる本数を 100100 倍くらいにする必要がある)。

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