図形の美しい3つの定理〜逆数の和〜

逆数の和に関する平面図形の美しい定理を3つ紹介します。実用的な定理ではありませんが,証明はよい練習問題になるのでトライしてみてください!

定理1:垂線の長さの定理

定理1

theorem1

三角形 ABCABC の内接円の半径を rr ,各頂点から対辺に下ろした垂線の長さを hA,hB,hCh_A,h_B,h_C とおくと, 1r=1hA+1hB+1hC\dfrac{1}{r}=\dfrac{1}{h_A}+\dfrac{1}{h_B}+\dfrac{1}{h_C}

非常に美しい定理です。

証明には 三角形 ABCABC の情報(できれば各辺の長さ a,b,ca,b,c のみ)で全てを表す方針が有効です。

証明1

hA=csinBh_A=c\sin B

であり,正弦定理より bsinB=2R\dfrac{b}{\sin B}=2R

よって hA=bc2Rh_A=\dfrac{bc}{2R}

よって hB,hCh_B,h_C も同様に求まるので,右辺は

2Rbc+2Rca+2Rab=2Rabc(a+b+c)\dfrac{2R}{bc}+\dfrac{2R}{ca}+\dfrac{2R}{ab}\\ =\dfrac{2R}{abc}(a+b+c)

ここで,外接円の半径と三角形の面積の関係S=abc4RS=\dfrac{abc}{4R} より

上式 =12S(a+b+c)=\dfrac{1}{2S}(a+b+c)

これと S=r2(a+b+c)S=\dfrac{r}{2}(a+b+c) より定理は示された。

垂線なので,三角形の面積に注目して証明することもできます。

証明2

S=12ahA=12bhB=12chCS=\dfrac{1}{2}ah_A=\dfrac{1}{2}bh_B=\dfrac{1}{2}ch_C

より,

1r=a+b+c2S=2S2S(1hA+1hB+1hC)\dfrac{1}{r}\\ =\dfrac{a+b+c}{2S}\\ =\dfrac{2S}{2S}\left(\dfrac{1}{h_A}+\dfrac{1}{h_B}+\dfrac{1}{h_C}\right)

定理2:定理1と似たような定理

定理2

theorem2

三角形 ABCABC の外心を OO として,AOAOBCBC の交点を DD とおく(E,FE,F も同様)

すると,1AD+1BE+1CF=2R\dfrac{1}{AD}+\dfrac{1}{BE}+\dfrac{1}{CF}=\dfrac{2}{R}

まずは,定理1の証明1と同様に計算で証明します。三角形 ABCABC の情報で ADAD を求めに行きます。

証明1

三角形 ABDABD に正弦定理を用いると,

ADsinB=csinADB\dfrac{AD}{\sin B}=\dfrac{c}{\sin \angle ADB}

ここで OO から ACAC に下ろした垂線の足を HH とおくと AOH=B\angle AOH=\angle B より DAC=90B\angle DAC=90^{\circ}-B である。

よって,ADB=DAC+C=(90B)+C\angle ADB=\angle DAC+C=(90^{\circ}-B)+C

であるので AD=csinBcos(BC)AD=\dfrac{c\sin B}{\cos(B-C)}

さらに正弦定理と加法定理を用いて角度のみの情報にする:

1AD=cosBcosC+sinBsinC2RsinBsinC=12R(1+1tanBtanC)\dfrac{1}{AD}\\ =\dfrac{\cos B\cos C+\sin B\sin C}{2R\sin B\sin C}\\ =\dfrac{1}{2R}\left(1+\dfrac{1}{\tan B\tan C}\right)

1BE,1CF\dfrac{1}{BE},\dfrac{1}{CF} も求まるので

右辺は,

12R(3+1tanAtanB+1tanBtanC+1tanCtanA)=2R\dfrac{1}{2R}\left(3+\dfrac{1}{\tan A\tan B}+\dfrac{1}{\tan B\tan C}+\dfrac{1}{\tan C\tan A}\right)\\ =\dfrac{2}{R}

ただし,最後の等号はタンジェントの美しい関係式を用いた。

次は,三角形の面積に注目した証明です。

証明2

三角形 AOB,BOC,COAAOB,BOC,COA の面積をそれぞれ SC,SA,SBS_C,S_A,S_B とおく。

S:SSA=AD:AO=AD:RS:S-S_A=AD:AO=AD:R

より AD=SRSSAAD=\dfrac{SR}{S-S_A}

同様に BE=SRSSB,CF=SRSSCBE=\dfrac{SR}{S-S_B},CF=\dfrac{SR}{S-S_C}

よって

1AD+1BE+1CF=(SSA)+(SSB)+(SSC)SR=2SSR=2R\dfrac{1}{AD}+\dfrac{1}{BE}+\dfrac{1}{CF}\\ =\dfrac{(S-S_A)+(S-S_B)+(S-S_C)}{SR}\\ =\dfrac{2S}{SR}\\ =\dfrac{2}{R}

定理3:ルーリエの定理

定理3

内接円の半径を rr ,傍接円の半径をそれぞれ rA,rB,rCr_A, r_B, r_C とすると,

1r=1rA+1rB+1rC\dfrac{1}{r}=\dfrac{1}{r_A}+\dfrac{1}{r_B}+\dfrac{1}{r_C}

ルーリエの定理も非常に美しい定理です。 傍心の意味と性質・内心との比較にあるように内接円の半径も傍接円の半径も簡単に求まるので証明は比較的簡単です。

証明

内接円の半径の公式より,

1r=a+b+c2S\dfrac{1}{r}=\dfrac{a+b+c}{2S}

一方,傍接円の半径の公式より,

1rA=a+b+c2S\dfrac{1}{r_A}=\dfrac{-a+b+c}{2S}

1rB=ab+c2S\dfrac{1}{r_B}=\dfrac{a-b+c}{2S}

1rC=a+bc2S\dfrac{1}{r_C}=\dfrac{a+b-c}{2S}

以上の4つの式よりルーリエの定理が成立する。

私は計算で証明する図形問題が大好きです。定理1の証明2と定理2の証明2は読者の方に教えていただきました!