対称性を用いた定積分の計算(King Property)

King Property

abf(x)dx=abf(a+bx)dx\displaystyle\int_a^bf(x)dx=\displaystyle\int_a^bf(a+b-x)dx

入試でもたまに題材になる定積分のおもしろい性質です。King Property の導出と応用例を紹介します。

King Property の導出

名前はかっこいいですが,ただの置換積分です。

y=a+bxy=a+b-x と置換すると,

abf(x)dx=baf(a+bx)dydxdx=baf(a+bx)(1)dx=abf(a+bx)dx\begin{aligned} &\int_a^bf(x)dx\\ &= \int_b^af(a+b-x)\dfrac{dy}{dx}dx\\ &= \int_b^af(a+b-x)(-1)dx\\ &= \int_a^bf(a+b-x)dx \end{aligned}

図形的には,下図のように y=f(x)y=f(x) のグラフを x=a+b2x = \dfrac{a+b}{2} を中心として「鏡映し」にしたものが y=f(a+bx)y=f(a+b-x) となります。

「積分は面積を表す」ので公式が成立することわかります。

geometric_meaning

具体例

King Property は以下のテクニックと一緒に使われることが多いです。

テクニック

A=BA=B のとき,A=A+B2A=\dfrac{A+B}{2}

つまり,King Property と「テクニック」より abf(x)dx=12ab{f(x)+f(a+bx)}dx\displaystyle\int_a^bf(x)dx=\dfrac{1}{2}\displaystyle\int_a^b\{f(x)+f(a+b-x)\}dx となります。

三角関数の定積分

King Property の例として,

0π2f(cosx)dx=0π2f(sinx)dx\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\cos x)dx=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\sin x)dx

が成立します。sinのn乗,cosのn乗の積分公式でも紹介した式です。

この式を利用した,「不定積分を求めるのは難しいけど定積分なら求まる」ようなおもしろい例を紹介します。

問題1

I=0π2sinxdxsinx+cosxI=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin xdx}{\sin x+\cos x} を求めよ。

解答

King Property より,I=0π2cosxdxsinx+cosxI=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\cos xdx}{\sin x+\cos x} となる(y=π2xy=\dfrac{\pi}{2}-x と置換すれば直接確認できる)。

よって,

I=12(I+I)=12(0π2sinxdxsinx+cosx+0π2cosxdxsinx+cosx)=120π21dx=π4\begin{aligned} I &= \dfrac{1}{2} (I+I)\\ &= \dfrac{1}{2}\left(\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin xdx}{\sin x+\cos x}+\int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\cos xdx}{\sin x+\cos x}\right)\\ &= \dfrac{1}{2}\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}1dx\\ &= \dfrac{\pi}{4} \end{aligned}

ちなみに,この例では頑張れば不定積分を求めることもできます。→三角関数の有理式の積分

指数関数の定積分

問題2

I=11dx1+e2xI=\displaystyle\int_{-1}^1\dfrac{dx}{1+e^{-2x}} を求めよ。

解答

分母分子に exe^x をかけると問題1のような形になる:

I=11exex+exdxI=\displaystyle\int_{-1}^1\dfrac{e^x}{e^x+e^{-x}}dx

また,King Property より I=11exex+exdxI=\displaystyle\int_{-1}^1\dfrac{e^{-x}}{e^x+e^{-x}}dx

y=xy=-x と置換すると直接確認できる)

よって,

I=12(I+I)=12111dx=1\begin{aligned} I&=\dfrac{1}{2} (I+I)\\ &=\dfrac{1}{2} \int_{-1}^11dx\\ &=1 \end{aligned}

→高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~のT24では,この問題の別解と計算ミスを減らすコツを紹介しています。

対数関数の定積分

問題3

I=0π4log(1+tanx)dxI=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}}\log(1+\tan x)dx を求めよ。

解答

y=π4xy=\dfrac{\pi}{4}-x と置換すると,

I=π40log{1+tan(π4x)}(1)dx=0π4log(1+1tanx1+tanx)dx=0π4log21+tanxdx=0π4{log2log(1+tanx)}dx=π4log2I\begin{aligned} I&=\displaystyle\int_{\frac{\pi}{4}}^0\log\left\{1+\tan\left(\frac{\pi}{4}-x\right)\right\}(-1)dx\\ &=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}}\log\left(1+\dfrac{1-\tan x}{1+\tan x}\right)dx\\ &=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}}\log\dfrac{2}{1+\tan x}dx\\ &=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}}\{\log 2-\log(1+\tan x)\}dx\\ &=\dfrac{\pi}{4}\log 2-I \end{aligned}

よって,I=π8log2I=\dfrac{\pi}{8}\log 2

入試問題

問題4(長崎大学2023)

I=12x2x2+(3x)2dxI=\displaystyle\int_1^2\dfrac{x^2}{x^2+(3-x)^2}dx を求めよ。

解答

y=3xy=3-x と置換すると,

I=21(3y)2(3y)2+y2(dy)I=\displaystyle\int_2^1\dfrac{(3-y)^2}{(3-y)^2+y^2}(-dy)

よって,I+I=121dx=1I+I=\displaystyle\int_1^2 1dx=1

I=12I=\dfrac{1}{2}

Putnam Competitionの問題に挑戦

このテクニックは積分だけでなくシグマ計算にも使えます。

次の問題はPutnam Competition(PC,パトナム競争)と呼ばれる数学コンテストの過去問です。

問題5(PC 1994 A-4)

I=m=1n=1m2n3m(n3m+m3n)I=\displaystyle\sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{m^2n}{3^m(n3^m+m3^n)} を求めよ。

証明

与式を眺めると,分母分子を m2nm^2n で割ることで綺麗な形になることが分かる:

I=m=1n=113mm(3mm+3nn)=m=1n=11am(am+an)\begin{aligned} I &= \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{\dfrac{3^m}{m} \left( \dfrac{3^m}{m}+\dfrac{3^n}{n} \right)}\\ &= \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{a_m(a_m+a_n)} \end{aligned}

ただし,an=3nna_n=\dfrac{3^n}{n} とおいた。

よって,対称性と上記のテクニックを用いると,

2I=m=1n=1{1am(am+an)+1an(am+an)}=m=1n=1am+anaman(am+an)=m=1n=11aman=(n=1n3n)2\begin{aligned} 2I &= \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\left\{\dfrac{1}{a_m(a_m+a_n)}+\dfrac{1}{a_n(a_m+a_n)}\right\}\\ &= \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{a_m+a_n}{a_ma_n(a_m+a_n)}\\ &= \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{a_ma_n}\\ &= \left( \sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{n}{3^n} \right)^2 \end{aligned}

ただし,最後の変形では2つのシグマの分解公式を用いた。

→シグマ計算を機械的に行うための3つの公式の最後の方)

ここで,等比×等差数列の和を求めると,

n=1n3n=34\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{n}{3^n}=\dfrac{3}{4} となる。

→等差×等比,2乗×等比の和を求める2通りの方法

以上から,I=932I=\dfrac{9}{32}

PCはアメリカとカナダの大学生のための数学コンテストです。問題3と4は恩師のy先生に教えていただきました。

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