ロジスティック写像と漸化式

一般項を求めるのが難しそうな漸化式を,三角関数を用いて求めることができる例を2つ紹介します。

ロジスティック写像

関数 f(x)=Ax(1x)f(x)=Ax(1-x) をロジスティック写像といいます。

  • ロジスティック写像は人口の推移を表す単純なモデルです。その場合,AA は繁殖率を表します。

  • ロジスティック写像は簡単な関数でありながら「カオス」という複雑な挙動を示す興味深い関数です。カオス現象の知識を入試で問われることはありませんが,応用上重要な関数なので工学系の先生方が入試のテーマにしたくなるのではないかと思います。

今回は漸化式がテーマなので,ロジスティック写像に対応する漸化式: an+1=Aan(1an)a_{n+1}=Aa_n(1-a_n)

を考えます。一般にこの漸化式は解けませんが,A=4A=4 で初項 a1a_10a110\leq a_1\leq 1 を満たす場合には一般項を簡単な式で表すことができます。頭の体操になるので答えを見る前に考えてみてください!

A=4の場合の漸化式の一般項

方針

漸化式 an+1=4an(1an) a_{n+1} = 4 a_n (1-a_n) は,a1=sin2θa_1=\sin^2\theta と置くと倍角公式が出現してうまくいきます。知らないと厳しい問題です。

解法

0a110\leq a_1\leq 1 のとき,

a1=sin2θa_1=\sin^2\theta とおけて,

a2=4sin2θ(1sin2θ)=(2sinθcosθ)2=sin2(2θ)\begin{aligned} a_2&=4\sin^2\theta(1-\sin^2\theta)\\ &=(2\sin\theta\cos\theta)^2\\ &=\sin^2(2\theta) \end{aligned}

以下同様にして an=sin2(2n1θ)a_n=\sin^2(2^{n-1}\theta) が示せる(厳密には数学的帰納法で証明できる)。

※倍角の公式を使うためには A=4A=4 であることと初項が 00 以上 11 以下であることが必要です。

次に,似たような漸化式をもう1つ紹介します。

三角関数を用いた漸化式の解法

問題

an=1+an12a_n=\sqrt{\dfrac{1+a_{n-1}}{2}}1a11-1\leq a_1\leq 1 のとき数列の一般項 ana_n を簡単な式で表わせ。

方針

漸化式の形を見て cos\cos半角の公式を思いつきたいです。

解答

a1=cosθ(0θπ)a_1=\cos\theta\:(0\leq \theta\leq \pi) とおくと,

a2=1+cosθ2=cosθ2\begin{aligned} a_2&=\sqrt{\dfrac{1+\cos\theta}{2}}\\ &=\cos\dfrac{\theta}{2} \end{aligned}

ただし,cosθ20\cos\dfrac{\theta}{2}\geq 0 であることを用いた。

以下同様にして an=cosθ2n1a_n=\cos\dfrac{\theta}{2^{n-1}} が示せる(厳密には帰納法)。

追記:北大の入試問題

2010年北大理系で上記の問題と本質的に同じ問題が出題されていました。(教えてくださった読者の方ありがとうございました!)

問題

正の実数 rrπ2<θ<π2-\dfrac{\pi}{2}<\theta <\dfrac{\pi}{2} の範囲の実数 θ\theta に対して a0=rcosθ,b0=ra_0=r\cos\theta,b_0=r とおく。

an,bna_n,b_n を漸化式 an=an1+bn12a_n=\dfrac{a_{n-1}+b_{n-1}}{2}bn=anbn1b_n=\sqrt{a_nb_{n-1}} により定める

(1)a1b1,a2b2\dfrac{a_1}{b_1},\dfrac{a_2}{b_2}θ\theta で表わせ。

(2)anbn\dfrac{a_n}{b_n}nnθ\theta で表わせ。

(3)θ0\theta\neq 0 のとき limnan=limnbn=rsinθθ\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\lim_{n\to\infty}b_n=\dfrac{r\sin\theta}{\theta} を示せ。

数列 {anbn}\left\{ \dfrac{a_n}{b_n} \right\} が満たす漸化式を計算してみましょう。

anbn=an1+bn12×1an1+bn12bn1=an1+bn12×1bn1=an1bn1+12\begin{aligned} \dfrac{a_n}{b_n} &= \dfrac{a_{n-1}+b_{n-1}}{2} \times \dfrac{1}{\sqrt{\dfrac{a_{n-1}+b_{n-1}}{2} b_{n-1}}}\\ &= \sqrt{\dfrac{a_{n-1}+b_{n-1}}{2} \times \dfrac{1}{b_{n-1}}}\\ &= \sqrt{\dfrac{\dfrac{a_{n-1}}{b_{n-1}}+1}{2}} \end{aligned}

(1)の計算結果と前節の例を元にすると,anbn=cosθ2n\dfrac{a_n}{b_n}=\cos\dfrac{\theta}{2^n} が分かります。

※実は,anbn=cn\dfrac{a_n}{b_n}=c_n とおいて与えられた漸化式から cnc_n の漸化式を求めると cn=1+cn12c_n=\sqrt{\dfrac{1+c_{n-1}}{2}} となるので本質的にはさきほどと同じ問題です。

(3)わりと難しい問題です。 bnb_n の一般項を求めてからサインの倍角公式を繰り返し用いると証明できます。

bn=rcosθ2cosθ22cosθ2n=rsinθθ b_n=r\cos\dfrac{\theta}{2}\cos\dfrac{\theta}{2^2}\cdots\cos\dfrac{\theta}{2^n}=\dfrac{r\sin\theta}{\theta}

ana_n も同様。

※これはヴィエトの無限積の公式で紹介したオイラーの公式を知っていれば一発です!

北大の入試問題だけでなく,2006年の九州大学,2008年の東京医科歯科大学,2009年の新潟大学でも同様な問題が出題されていました。頻出のテーマのようです。

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