関数方程式の解き方のコツ〜全射と単射〜

全射と単射
  • 行き先の候補となるどんな元 yy を持ってきても f(x)=yf(x)=y となる xx が存在するとき,f(x)f(x) は全射であると言う。

  • f(x)=f(y)f(x)=f(y) なら x=yx=y」が成立するとき,f(x)f(x) は単射であると言う。

このページでは,全射・単射のイメージ,具体例,関数方程式への応用を紹介します。全射,単射は高校数学では扱わず,専門用語っぽくてとっつきにくいですが,イメージを理解すれば難しくありません。

全射のイメージと具体例

行き先の候補となるどんな元 yy を持ってきても f(x)=yf(x)=y となる xx が存在する性質を全射と言います。ここでいう「行き先の候補」は状況によりますが,例えば,実数全体 R\mathbb R や有理数全体 Q\mathbb Q です。

全射は「行き先を全て埋め尽くす関数」というイメージです。

1次関数 f(x)=ax+b(a0)f(x)=ax+b\:(a\neq 0) は全射。

なぜなら,任意の実数 yy に対して,x=ybax=\dfrac{y-b}{a} とおけば f(x)=yf(x)=y となるから。

放物線 f(x)=x2f(x)=x^2 は(実数全体で考えると)全射でない。

なぜなら,y=1y=-1 とすると,どんな実数 xx を持ってきても f(x)=yf(x)=y とできないから。

単射のイメージと具体例

f(x)=f(y)f(x)=f(y) なら x=yx=y が成立するとき,f(x)f(x) は単射であると言います。対偶を取ると,xyx\neq y なら f(x)f(y)f(x)\neq f(y) と言うこともできます。

単射は「行き先がかぶらない関数」というイメージです。全射よりも分かりやすいと思います。

1次関数 f(x)=ax+b(a0)f(x)=ax+b\:(a\neq 0) は単射。

実際,f(x)=f(y)f(x)=f(y) のとき ax+b=ay+bax+b=ay+b となり,x=yx=y となる。

三角関数 f(x)=sinxf(x)=\sin x は単射でない。

なぜなら,x=0,y=πx=0,y=\pi とすると,f(x)=f(y)=0f(x)=f(y)=0 だが xyx\neq y である。

注意:例えば,sinx\sin x0xπ20\leq x\leq \dfrac{\pi}{2} の区間で考えれば単射になる。つまり,考える定義域,終域によって全射性,単射性は変わってくる。以下で扱う関数方程式の文脈では,多くの問題で定義域と終域が一致しており,実数全体または有理数全体となっている。そこで以下では定義域と終域が共に実数全体,または共に有理数全体の場合であることを暗黙の了解とする。

関数方程式への応用

関数方程式は,数学オリンピックで頻出の分野です。

参考:コーシーの関数方程式の解法と応用

関数の全射,単射は関数方程式を解く際に強力な武器になります。

(1)関数方程式から全射性または単射性を示すのは比較的容易である

(2)全射性,単射性から,もとの関数についての様々な性質が導ける

(1)関数方程式から全射性または単射性を示す

様々なパターンがありますが,たとえば以下の3つの事実は覚えておきましょう。

  • 1次関数が全単射(全射かつ単射)であること
  • f(g(x))f(g(x)) が全射→ f(x)f(x) が全射
  • f(g(x))f(g(x)) が単射→ g(x)g(x) が単射

(証明は定義に従えば簡単です)

f(f(x))=x+5f(f(x))=x+5 という関数方程式から f(x)f(x) は全単射であることが分かる。

(2ー1)全射だと嬉しい

全射の定義の yy を自分で好きに決めることができるので,関数方程式を変形できます。特に,y=0y=0 とする場合が多いです。

f(f(x))=f(x)+2f(0)f(f(x))=f(x)+2f(0) という関数方程式において,f(x)f(x) が全射なら,f(a)=0f(a)=0 となる aa が存在するので,もとの関数方程式に x=ax=a を代入すると f(0)=2f(0)f(0)=2f(0) より f(0)=0f(0)=0 が分かる。

(2−2)単射だととても嬉しい

関数が単射だと ff を外すことができます。

f(f(x))=f(x+x3)f(f(x))=f(x+x^3) という関数方程式において,f(x)f(x) が単射なら,f(x)=x+x3f(x)=x+x^3 が分かる。

数オリの問題に挑戦

2002 IMO Shortlist からです。

問題

定義域が実数全体であり,出力も実数であるような関数 ff であって,任意の実数 x,yx,\:y に対して以下を満たす関数を全て求めよ。

f(f(x)+y)=2x+f(f(y)x)f(f(x)+y)=2x+f(f(y)-x)

方針

関数が全射であることを証明して,それを利用します。

解答

任意の実数 x,yx,y に対して関数方程式が成立するので,自分の好きな x,yx,y を代入しても成り立つ。

そこで,任意の実数 xx に対して,y=f(x)y=-f(x) とおいて関数方程式に代入すると,

f(0)2x=f(f(f(x))x)f(0)-2x=f(f(-f(x))-x)

となるので,f(x)f(x) は全射。なぜなら,xx が実数全体を動くとき,左辺は実数全体を動くので,ff の値域は実数全体。

よって,f(a)=0f(a)=0 となる aa が存在するので,もとの関数方程式に x=ax=a を代入する:

f(y)=2a+f(f(y)a)f(y)=2a+f(f(y)-a)

ここで,z=f(y)az=f(y)-a をひとかたまりと見る。 ff が全射なので任意の zz に対して z=f(y)az=f(y)-a を満たす yy が存在することに注意すると,任意の実数 zz について,

z+a=2a+f(z)z+a=2a+f(z) ,つまり f(z)=zaf(z)=z-a が得られる。

よって,解の候補としては傾きが 11 の一次関数 f(x)=xA(Af(x)=x-A\:(A は任意の実数)のみ。

実際これをもとの関数方程式に代入すると,解となっていることが確認できる。

関数方程式の問題を見たら,関数の単射性か全射性が示せないか考えるとよいです。

Tag:各地の数オリの過去問

全射かつ単射な関数を全単射といいます。