log2に収束する交代級数の証明

メルカトル級数

112+1314+=k=1(1)k1k=log21-\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}-\dfrac{1}{4}+\cdots=\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{(-1)^{k-1}}{k}=\log 2

ニュートンメルカトル級数とも呼ばれる有名な無限級数です。

分数を交互に足し引きしてくと,log2=0.693\log 2=0.693\cdots になります。 log2\log 2 が出てくるのが美しいですね。

交代級数

交互に足し引きしていく級数のことを,「交代級数」や「交項級数」などと言います。この log2\log 2 に収束する無限級数は,最も有名な交代級数です。メルカトル級数を背景とした入試問題が頻繁に出題されています。

このページでは,メルカトル級数が log2\log 2 に収束することを,巧妙な式変形と区分求積法を用いて示します。

ちなみに,次に有名な交代級数はライプニッツ級数です。→グレゴリー・ライプニッツ級数の2通りの証明

準備:交代級数を変形する

目標の交代級数をうまく式変形することによって,全ての項を足し算にできます:

補題

k=12n(1)k1k=k=1n1n+k\displaystyle\sum_{k=1}^{2n}\dfrac{(-1)^{k-1}}{k}=\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{n+k}

この恒等式自体有名で, 導出方法も美しいので覚える価値があります。

上記の恒等式を一般の nn について証明する前に,n=2n=2 の場合で試してみます。

112+1314=(1+12+13+14)2(12+14)=(1+12+13+14)(1+12)=13+14\begin{aligned} &1-\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}-\dfrac{1}{4}\\ &=\left(1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}\right)-2\left(\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{4}\right)\\ &=\left(1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}\right)-\left(1+\dfrac{1}{2}\right)\\ &=\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4} \end{aligned}

この巧妙な式変形を用いて,一般の場合も同様に証明できます。

補題の証明

k=12n(1)k1k=(k=12n(1)k1k+2k=1n12k)2k=1n12k=k=12n1kk=1n1k=k=1n1n+k\begin{aligned} &\sum_{k=1}^{2n}\dfrac{(-1)^{k-1}}{k}\\ &=\left(\sum_{k=1}^{2n}\dfrac{(-1)^{k-1}}{k}+2\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{2k}\right)-2\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{2k}\\ &=\sum_{k=1}^{2n}\dfrac{1}{k}-\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k}\\ &=\sum_{k=1}^{n}\dfrac{1}{n+k} \end{aligned}

nn に関する数学的帰納法を用いて証明することもできます。しかし,この式変形は美しいのでみなさんにぜひ覚えていただきたいです!

区分求積法を用いた証明

メルカトル級数が log2\log 2 に収束することを示すには,

limnk=1n1n+k=log2\displaystyle\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^{n}\dfrac{1}{n+k}=\log 2

を示せばよいわけです。

リミットとシグマを見たら区分求積法が使えそうと疑うのが定石です:

証明

limnk=1n1n+k=limn1nk=1n11+kn=0111+xdx=log2\begin{aligned} &\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^{n}\dfrac{1}{n+k}=\lim_{n\to \infty}\dfrac{1}{n}\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{1+\tfrac{k}{n}}\\ &=\int_0^1\dfrac{1}{1+x}dx\\ &=\log 2 \end{aligned}

log2\log 2 に収束することが証明できました! 高校数学の知識のみで収束する値が求められる交代級数は,メルカトル級数くらいしかありません。

※ご指摘に基づく追記:

以上で 2n2n 項目までの部分和 S2nS_{2n} に対して,limnS2n=log2\displaystyle\lim_{n\to\infty}S_{2n}=\log 2

が示せました。厳密には,奇数番目までの部分和についても,limnS2n+1=limn(S2n+12n+1)=log2\displaystyle\lim_{n\to\infty}S_{2n+1}=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(S_{2n}+\dfrac{1}{2n+1}\right)=\log 2

のように,同じ値に収束することを述べる必要があります。

マクローリン展開を用いた証明

ちなみに,マクローリン展開(テイラーの定理)という飛び道具を使った証明もあります。

実際,log(1+x)\log(1+x) をマクローリン展開すると,

log(1+x)=k=0(1)kxk+1k+1=xx22+x33\log (1+x)={\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}}(-1)^k\dfrac{x^{k+1}}{k+1}=x-\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^3}{3}\cdots

となります。そして,この式は 1<x1-1 < x \leq 1 で成立することが知られています。 → log(1+x)のマクローリン展開

そこで,この式に x=1x=1 を代入すると,求めるメルカトル級数の式になります!

補足:この交代級数は絶対収束はしない

一般的な級数 k=1ak\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}a_k において,すべての項の絶対値の和 k=1ak\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}|a_k| が収束するとき,もとの級数は絶対収束するといいます。絶対収束すると,微分や積分と和の順序が交換できたりと,いろいろ嬉しいことがあります。

しかし,残念ながら k=11k\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty}\dfrac{1}{k} は無限大に発散する(→調和級数1+1/2+1/3…が発散することの証明)ので,この交代級数は絶対収束はしません。

全部足すと発散するけど,交互に足し引きすると log2\log 2 になるというわけです。

分数をどんどんたし引きしていくと log2\log 2 になるなんてとても意外。

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