ディガンマ関数

ディガンマ関数

ディガンマ関数 ψ(z)\psi (z)とは,ガンマ関数の対数微分,すなわち ψ(z)=ddzlogΓ(z) \psi (z) = \dfrac{d}{dz} \log \Gamma (z) のことである。

ディガンマ関数は,ガンマ関数の対数微分によって得られる特殊関数です。

この記事では,ガンマ関数を通してディガンマ関数の様々な性質を見ていきます。

明示的な表記

公式

ψ(z)=limn(lognk=0n1z+k) \psi (z) = \lim_{n \to \infty} \left( \log n - \sum_{k=0}^n \dfrac{1}{z+k} \right)

ガンマ関数の無限積 limnnxn!x(x+1)(x+2)(x+n) \lim_{n\to\infty}\dfrac{n^xn!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)} を用いてディガンマ関数を計算してみましょう。

証明

logΓ(z)=limn(zlogn+k=1nlogkk=0nlog(z+k)) \log \Gamma (z) = \lim_{n \to \infty} \left( z \log n + \sum_{k=1}^n \log k - \sum_{k=0}^n \log (z+k) \right) となる。

両辺を微分することで ddzlogΓ(z)=limn(lognk=0n1z+k) \dfrac{d}{dz} \log \Gamma (z) = \lim_{n \to \infty} \left( \log n - \sum_{k=0}^n \dfrac{1}{z+k} \right) を得る。

ガンマ関数の無限積表示はもう1つあります。これを用いると次が得られます。導出は同様にできるので是非やってみてください。

公式~別バージョン

ψ(z)=γ1z+limnk=1n(1k1z+k) \psi (z) = -\gamma - \dfrac{1}{z} + \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \left( \dfrac{1}{k} - \dfrac{1}{z+k} \right)

特殊値の計算

ψ(1)\psi (1)

さきほどのこの公式で z=1z = 1 とすると, ψ(1)=limn(lognk=1n1k) \psi (1) = \lim_{n \to \infty} \left( \log n - \sum_{k=1}^{n} \dfrac{1}{k} \right) となります。これはオイラーの定数(のマイナス) γ-\gamma そのものです。

こうして特殊値 ψ(1)=γ\psi (1) = -\gamma が成立します。

ψ(12)\psi \left( \dfrac{1}{2} \right)

次は z=12z = \dfrac{1}{2} を代入しましょう。

計算

lognk=0n112+k=lognk=1n1k+k=1n22kk=1n22k+1\begin{aligned} &\log n - \sum_{k=0}^n \dfrac{1}{\frac{1}{2} +k}\\ &= \log n - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k} + \sum_{k=1}^n \dfrac{2}{2k} - \sum_{k=1}^n \dfrac{2}{2k+1} \end{aligned} と整理される。

前半と後半に分けて計算する。

前半 limn(lognk=1n1k)=γ \lim_{n \to \infty} \left( \log n - \sum_{k=1}^n \dfrac{1}{k} \right) = - \gamma

後半

log2に収束する交代級数の証明 を用いる。 limn(k=1n22kk=1n22k+1)=limn2k=12n+1(1)k+1k=2log2\begin{aligned} &\lim_{n \to \infty} \left( \sum_{k=1}^n \dfrac{2}{2k} - \sum_{k=1}^n \dfrac{2}{2k+1} \right)\\ &= \lim_{n \to \infty} 2 \sum_{k=1}^{2n+1} \dfrac{(-1)^{k+1}}{k} \\ &= - 2 \log 2 \end{aligned}

以上をまとめて ψ(12)=γ2log2 \psi \left( \dfrac{1}{2} \right) = - \gamma - 2\log 2 となる。

いくつかの公式

公式
  1. ψ(z+1)=ψ(z)+1z\psi (z+1) = \psi (z) + \dfrac{1}{z}
  2. ψ(1z)ψ(z)=πtanπz\psi (1-z) - \psi (z) = \dfrac{\pi}{\tan \pi z}

公式1

この公式と特殊値 ψ(1)=γ\psi (1) = -\gamma を使うことで ψ(n)=γ+k=1n11k \psi (n) = - \gamma + \sum_{k=1}^{n-1} \dfrac{1}{k} が得られます。このようにディガンマ関数で調和級数を表すことができます。

証明自体は log\log を取って微分をすればよいです。

証明

ガンマ関数の公式 Γ(z+1)=zΓ(z) \Gamma (z+1) = z \Gamma (z) の両辺に log\log を取ると logΓ(z+1)=logΓ(z)+logz \log \Gamma (z+1) = \log \Gamma (z) + \log z であるため,これらの辺々を微分すると ψ(z+1)=ψ(z)+1z \psi (z+1) = \psi (z) + \dfrac{1}{z} を得る。

公式2

z=12z = \dfrac{1}{2} を代入することで

こちらも同じく log\log を取って微分をすればよいです。

証明

相反公式 Γ(z)Γ(1z)=πsinπz \Gamma (z) \Gamma (1-z) = \dfrac{\pi}{\sin \pi z} の両辺に log\log を取って微分をすると ψ(z)ψ(1z)=ddzlogsinπz \psi (z) - \psi (1-z) = -\dfrac{d}{dz} \log \sin \pi z となる。

右辺は ddzlogsinπz=(sinπz)sinπz=πcosπzsinπz=πtanπz\begin{aligned} \dfrac{d}{dz} \log \sin \pi z &= \dfrac{(\sin \pi z)'}{\sin \pi z}\\ &= \dfrac{\pi \cos \pi z}{\sin \pi z}\\ &= \dfrac{\pi}{\tan \pi z} \end{aligned} となるため,式が示された。

積分表示

次のような公式が知られています。

ディガンマ関数の積分表示

ψ(z)=0(ettezt1et)dt \psi (z) = \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{t} - \dfrac{e^{-zt}}{1-e^{-t}} \right) dt

証明は少々テクニカルです。特殊関数の積分表示に興味がある方は是非チャレンジしてみてください。

証明

1z+k=0et(z+k)dt \dfrac{1}{z+k} = \int_0^{\infty} e^{-t(z+k)} dt オイラーの定数の積分表示 γ=0(et1etett)dt \gamma = \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{1-e^{-t}} - \dfrac{e^{-t}}{t} \right) dt に注意すると, ψ(z)=γ0eztdt+limn0k=1n(ekte(k+z)t)dt=0(ettet1et)dt0ezte(z+1)t1etdt+limn0ete(z+1)te(n+1)t+e(z+n+1)t1et=0(ettezt1et)dtlimn01ezt1ete(n+1)tdt\begin{aligned} &\psi (z) \\ &= - \gamma - \int_0^{\infty} e^{-zt} dt \\ &\qquad + \lim_{n \to \infty} \int_0^{\infty} \sum_{k=1}^n \left( e^{-kt} - e^{-(k+z)t} \right) dt\\ &= \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{t} - \dfrac{e^{-t}}{1-e^{-t}} \right) dt\\ &\qquad - \int_0^{\infty} \dfrac{e^{-zt} - e^{-(z+1)t}}{1-e^{-t}} dt\\ &\qquad + \lim_{n \to \infty} \int_0^{\infty} \dfrac{e^{-t} - e^{-(z+1)t} - e^{-(n+1)t} + e^{-(z+n+1)t}}{1-e^{-t}} \\ &= \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{t} - \dfrac{e^{-zt}}{1-e^{-t}} \right) dt \\ &\qquad - \lim_{n \to \infty} \int_0^{\infty} \dfrac{1-e^{-zt}}{1-e^{-t}} e^{-(n+1)t} dt \end{aligned} と変形される。

2項目について,1ezt1et\dfrac{1-e^{-zt}}{1-e^{-t}} は有界であることが計算できる(→ 練習)ため,1ezt1etK\left| \dfrac{1-e^{-zt}}{1-e^{-t}} \right| \leqq K となる実数 KK を取ると, 01ezt1ete(n+1)tdt01ezt1ete(n+1)tdt0Ke(n+1)tdt=Kn+10(n)\begin{aligned} &\left| \int_0^{\infty} \dfrac{1-e^{-zt}}{1-e^{-t}} e^{-(n+1)t} dt \right|\\ &\leqq \int_0^{\infty} \left| \dfrac{1-e^{-zt}}{1-e^{-t}} \right| e^{-(n+1)t} dt\\ &\leqq \int_0^{\infty} K e^{-(n+1)t} dt\\ &= \dfrac{K}{n+1} \to 0 \quad (n \to \infty) \end{aligned} と計算される。

こうして ψ(z)=0(ettezt1et)dt \psi (z) = \int_0^{\infty} \left( \dfrac{e^{-t}}{t} - \dfrac{e^{-zt}}{1-e^{-t}} \right) dt を得る。

差の積分表示

公式

ψ(y)ψ(x)=01sx1sy11sds \psi (y) - \psi (x) = \int_0^{1} \dfrac{s^{x-1} - s^{y-1}}{1-s} ds

積分表示を用いて証明してみましょう。

証明

ψ(y)ψ(x)=0exteyt1etdt\begin{aligned} &\psi (y) - \psi (x)\\ &= \int_0^{\infty} \dfrac{e^{-xt} - e^{-yt}}{1-e^{-t}} dt \end{aligned}

ここで s=ets = e^{-t} とおくと,dt=dssdt = -\dfrac{ds}{s} になるため ψ(y)ψ(x)=10sxsy1sdss=01sx1sy11sds\begin{aligned} &\psi (y) - \psi (x)\\ &= \int_1^0 \dfrac{s^{-x}-s^{-y}}{1-s} \dfrac{-ds}{s}\\ &= \int_0^{1} \dfrac{s^{x-1} - s^{y-1}}{1-s} ds \end{aligned} と計算された。

ディガンマ関数によって様々な積分を表すことができます。