ガンマ関数とゼータ関数の解析接続

定理

ガンマ関数とゼータ関数は複素数全体に拡張(解析接続)される。

ガンマ関数とゼータ関数の解析接続は,複素解析の枠を超え,整数論などでも重要となります。

ガンマ関数の解析接続

ガンマ関数は,実部が正の複素数 zz に対して, Γ(z)=0tz1etdt \Gamma(z)= \int_0^{\infty} t^{z-1} e^{-t}dt と定義されます。この積分は実際に収束(特に絶対収束)し,Γ(z)\Gamma (z) は正則関数となります。

→ コーシーの積分公式とその応用~グルサの定理・モレラの定理

ガンマ関数の性質

ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質 では実数上で定義されたガンマ関数の性質を紹介しました。

これらの性質は複素数値でも成立するのでしょうか。

答えはYesです。これは一致の定理の1番の「DD」を「実部が正の複素平面」,「線分」を「実軸」に置き換えることで成立します。

ガンマ関数の拡張1

ガンマ関数の性質2 Γ(x+1)=xΓ(x) \Gamma (x+1) = x \Gamma (x) を複素数に拡張したものを考えます。

Γ1(z)=Γ(z+1)z \Gamma_{-1} (z) = \dfrac{\Gamma (z+1)}{z} と定義すれば Γ(z)\Gamma (z)Re(z)>1\mathrm{Re} (z) > -1 まで拡張することができます。

こうして正の整数 mm に対して Γm(z)=Γ(z+m)z(z+1)(z+m1) \Gamma_{-m} (z) = \dfrac{\Gamma (z+m)}{z (z+1) \cdots (z+m-1)} と定めることで,ガンマ関数を Re(z)>m\mathrm{Re} (z) > -m まで拡張することができるのです。

ガンマ関数の拡張2

ガンマ関数の性質4を複素数に拡張することで, Γ(z)=limnnzn!z(z+1)(z+2)(z+n) \Gamma (z) = \lim_{n\to\infty} \dfrac{n^z n!}{z(z+1)(z+2)\cdots(z+n)} と複素数全体でガンマ関数を定義できます。

またガンマ関数は正でない整数で極をとる有理型関数に拡張されることがわかります。

ガンマ関数の極と留数

拡張2の形では計算が大変ですね。解析接続の理論を踏まえれば,拡張1の形で計算すればよいです。

拡張1から Re(z)>m1\mathrm{Re} (z) > - m-1 においてガンマ関数は Γm1=Γ(z+m+1)z(z+1)(z+m) \Gamma_{m-1} = \dfrac{\Gamma (z+m+1)}{z (z+1) \cdots (z+m)} と拡張されるのでした。

この表示から位数は1位であることがわかります。

留数

留数は Res  (Γ(z),m)=Res  (Γm1(z),m)=limzmΓ(z+m+1)z(z+1)(z+m1)=Γ(1)(m)(m+1)(1)=(1)mm!\begin{aligned} \mathrm{Res} \; (\Gamma(z) , -m) &= \mathrm{Res} \; (\Gamma_{-m-1} (z) , -m)\\ &= \lim_{z \to -m} \dfrac{\Gamma (z+m+1)}{z (z+1) \cdots (z+m-1)}\\ &= \dfrac{\Gamma (1)}{(-m)(-m+1) \cdots (-1)}\\ &= \dfrac{(-1)^m}{m!} \end{aligned} と計算されます。

ゼータ関数の解析接続

ゼータ関数は ζ(z)=n=11nz \zeta (z) = \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^z} と定義されたのでした。右辺の級数は Re(z)>1\mathrm{Re} (z) > 1 で収束し,ゼータ関数は正則関数となります。

→ コーシーの積分公式とその応用~グルサの定理・モレラの定理

ゼータ関数とガンマ関数の積

ゼータ関数の解析接続は,ガンマ関数の解析接続から計算されます。

関係式

Re (z)>1\mathrm{Re} \ (z) > 1ζ(z)Γ(z)=0tz1ez1dt \zeta (z) \Gamma (z) = \int_0^{\infty} \dfrac{t^{z-1}}{e^z-1} dt となる。

ガンマ関数に nzn^{-z} を掛けると nzΓ(z)=0esnzsz1ds=0enttz1dt(s=nt)\begin{aligned} n^{-z} \Gamma (z) &= \int_0^{\infty} e^{-s} n^{-z} s^{z-1} ds\\ &=\int_0^{\infty} e^{-nt} t^{z-1} dt &(s = nt) \end{aligned} となります。これを n=1,2,n = 1 , 2 , \cdots で和を取ると ζ(z)Γ(z)=n=10enttz1dt \zeta (z) \Gamma (z) = \sum_{n=1}^{\infty} \int_0^{\infty} e^{-nt} t^{z-1} dt この積分と無限和は交換することができます。(証明略)

結果, ζ(z)Γ(z)=0n=1enttz1dt=0tz1et1dt\begin{aligned} \zeta (z) \Gamma (z) &= \int_0^{\infty} \sum_{n=1}^{\infty} e^{-nt} t^{z-1} dt\\ &= \int_0^{\infty} \dfrac{t^{z-1}}{e^t-1} dt \end{aligned} を得ます。

正則関数「化」

関係式の右辺 0tz1et1dt \int_0^{\infty} \dfrac{t^{z-1}}{e^t-1} dt zz に関する複素関数と見なせます。

しかし,これは正則関数(有理関数)になっているのでしょうか。確認する必要があります。

定理

δ\delta を正の実数とする。

積分路 CC を次の C1,C2,C3C_1 , C_2 , C_3 の合併と定める。

  • C1C_1 は,実軸を正の無限大の方向から δ\delta まで進む路
  • C2C_2 は,δ\delta から中心 00 半径 δ\delta の円周を一周する路
  • C3C_3 は,実軸を δ\delta から正の無限大まで進む路

I(z)=Ctz1et1dt I(z) = \int_C \dfrac{t^{z-1}}{e^t-1} dt と定めると,I(z)I(z) は複素平面全体で正則関数になる。

さらに Re (z)>1\mathrm{Re} \ (z) > 1I(z)=(e2πiz1)0tz1et1dt I(z) = (e^{2\pi i z} - 1) \int_0^{\infty} \dfrac{t^{z-1}}{e^t-1} dt となる。

証明は省きます。

こうして ζ(z)=I(z)(e2πiz1)Γ(z) \zeta (z) = \dfrac{I(z)}{(e^{2\pi i z} - 1) \Gamma (z)} と解析接続されます。

ゼータ関数の極と留数

Re (z)>1\mathrm{Re} \ (z) > 1 においては ζ\zeta は正則です。そのため,Re (z)1\mathrm{Re} \ (z) \leqq 1 で留数を探せばよいです。

I(z)I(z) は正則なので極に関係しません。

e2πiz1e^{2\pi i z}-1zZz \in \mathbb{Z} で1位の零点を持ちます。一方 Γ(z)\Gamma (z)zz が非正整数で1位の極を持ちます。

よって,非正整数においては極と零点が打ち消し合い,ζ(z)\zeta (z) は,非正整数で正則になります。

こうして ζ(z)\zeta (z)z=1z = 1 で1位の極を持ちます。

留数

Res (ζ,1)=limz1z1e2πiz1I(z)Γ(z)=1Γ(1)limz112πiz1ez1I(z)=12πilimz1I(z)\begin{aligned} &\mathrm{Res} \ \left( \zeta , 1 \right)\\ &= \lim_{z \to 1} \dfrac{z-1}{e^{2\pi i z} - 1} \dfrac{I(z) }{\Gamma (z)}\\ &= \dfrac{1}{\Gamma (1)} \lim_{z \to 1} \dfrac{1}{2\pi i} \dfrac{z-1}{e^z-1} I(z)\\ &= \dfrac{1}{2\pi i} \lim_{z \to 1} I(z) \end{aligned} となります。

limz1I(z)\displaystyle \lim_{z \to 1} I(z) を計算してみましょう。

z=1z=1 で被積分関数は 1et1\dfrac{1}{e^t-1} になります。このとき C1C_1C3C_3 での積分は打ち消し合います。よって C2C_2 でのみ考えればOKです。

limz1I(z)=C2dtet1=Res (1et1,0)=2πilimt0tet1=2πi\begin{aligned} \lim_{z \to 1} I(z) &= \oint_{C_2} \dfrac{dt}{e^t-1}\\ &= \mathrm{Res} \ \left( \dfrac{1}{e^t-1} , 0 \right)\\ &= 2\pi i \lim_{t \to 0} \dfrac{t}{e^t - 1}\\ &= 2 \pi i \end{aligned}

よって Res (ζ,1)=1\begin{aligned} \mathrm{Res} \ \left( \zeta , 1 \right) = 1 \end{aligned} と計算されます。

ベルヌーイ数との関係

ベルヌーイ数とゼータ関数 で登場した定理

定理

nn22 以上の整数のとき, ζ(1n)=(1)n1nBn \zeta (1-n) = \dfrac{(-1)^{n-1}}{n} B_n となる。

を証明しましょう。

証明

まず Γ(z)Γ(1z)=πsinπz \Gamma (z) \Gamma (1-z) = \dfrac{\pi}{\sin \pi z} であるため 1Γ(z)=sinπzπΓ(1z) \dfrac{1}{\Gamma (z)} = \dfrac{\sin \pi z}{\pi} \Gamma (1-z) なので

ζ(z)=sinπzπΓ(1z)e2πiz1I(z)\begin{aligned} \zeta (z) &= \dfrac{\sin \pi z}{\pi} \dfrac{\Gamma (1-z)}{e^{2\pi i z} - 1} I(z) \end{aligned}

limz1nsinπze2πiz1=limz0sinπ(z+n1)e2πi(z+n1)1=limz0(1)n1sinπzπz2πize2πiz112i=(1)n12i\begin{aligned} &\lim_{z \to 1-n} \dfrac{\sin \pi z}{e^{2\pi i z} - 1}\\ &= \lim_{z \to 0} \dfrac{\sin \pi (z+n-1)}{e^{2\pi i (z +n-1)} - 1}\\ &= \lim_{z \to 0} (-1)^{n-1} \dfrac{\sin \pi z}{\pi z} \dfrac{2\pi iz}{e^{2\pi i z} - 1} \dfrac{1}{2i}\\ &= \dfrac{(-1)^{n-1}}{2i} \end{aligned} となるため ζ(1n)=(1)n1Γ(n)I(1n)2πi \zeta (1-n) = (-1)^{n-1}\dfrac{\Gamma (n) I(1-n)}{2\pi i}

I(1n)=C2tnet1dt=C21tn+1tet1dt=C2k=0Bkk!tkn1dt=k=0C2Bkk!tkn1dt\begin{aligned} I(1-n) &= \oint_{C_2} \dfrac{t^{-n}}{e^t-1} dt\\ &= \oint_{C_2} \dfrac{1}{t^{n+1}} \dfrac{t}{e^t-1} dt\\ &= \oint_{C_2} \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{B_k}{k!} t^{k-n-1} dt\\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \oint_{C_2} \dfrac{B_k}{k!} t^{k-n-1} dt \end{aligned}

ここでコーシーの積分公式より k=nk = n の場合以外の積分は消える。

こうして I(1n)=C2Bnn!x1=2πBnin!\begin{aligned} I(1-n) &= \oint_{C_2} \dfrac{B_n}{n!} x^{-1}\\ &= \dfrac{2\pi B_n i}{n!} \end{aligned} を得る。

以上をまとめて ζ(1n)=(1)n1Γ(n)2πiI(1n)=(1)n1(n1)!2πi2πBnin!=(1)n1nBn\begin{aligned} \zeta (1-n) &= (-1)^{n-1} \dfrac{\Gamma (n)}{2\pi i} I(1-n)\\ &= (-1)^{n-1} \dfrac{(n-1)!}{2\pi i} \dfrac{2\pi B_n i}{n!}\\ &= \dfrac{(-1)^{n-1}}{n} B_n \end{aligned} を得る。

複素関数論などの解析的手法でゼータ関数などを調べる分野を解析的整数論といいます。