線型汎関数と双対ベクトル空間

定義

VV を実ベクトル空間とする。

R\mathbb{R} への線型写像 ϕ:VR\phi : V \to \mathbb{R}線型汎関数という。

線型汎関数の集合を V={ϕ:VRϕ は線型写像} V^{\ast} = \{ \phi : V \to \mathbb{R} \mid \phi \ \text{は線型写像} \} と定める。

VV^{\ast} に和とスカラー倍を以下のように定めると,VV^{\ast} はベクトル空間になる。

  1. (ϕ+ψ)(x)=ϕ(x)+ψ(x)(\phi + \psi) (x) = \phi (x) + \psi (x)
  2. (cϕ)(x)=cϕ(x)(c \phi) (x) = c \phi (x)

VV^{\ast}VV双対ベクトル空間という。

※ 和の単位元は任意の xx00 に送る線型写像である。

※ 複素ベクトル空間に対しても VV から C\mathbb{C} への線型写像の集合を考えれば双対ベクトル空間が得られる。

線型汎関数の例

Rn\mathbb{R}^n

y=(y1,,yn)Rny = (y_1 , \cdots , y_n)\in\mathbb{R}^n を1つ固定します。

縦ベクトル x=(x1xn)Rnx = \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \in \mathbb{R}^n に対して, ϕy(x)=(y1,,yn)(x1xn)=x1y1++xnyn\begin{aligned} &\phi_y (x)\\ &= (y_1 , \cdots , y_n) \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}\\ &= x_1 y_1 + \cdots + x_n y_n \end{aligned} と定めると ϕy\phi_yRn\mathbb{R}^n から R\mathbb{R} への線型汎関数になります。

関数空間

[a,b][a,b] 上で連続な関数の集合 C([a,b])C([a,b]) はベクトル空間です。そして,

ϕ(f)=abf(x)dx \phi (f) = \int_a^b f(x) dx と定めると ϕ\phi は線型汎関数になります。

また evc(f)=f(c) ev_c (f) = f(c) とすると,これも線型汎関数になります。

双対基底

(有限次元)ベクトル空間の基底を {e1,,en}\{ e_1, \cdots , e_n \} とおきます。

このとき,任意の xVx \in Vx=c1e1++cnenx = c_1 e_1 + \cdots + c_n e_n と表すことができるのでした。

ここで fi (1in)f_i\ (1 \leqq i \leqq n)fi(c1e1++cnen)=ci f_i (c_1 e_1 + \cdots + c_n e_n) = c_i と定義すると,これは R\mathbb{R} への線型写像になります。

実は {fi}\{ f_i \}VV^{\ast} の基底になります

証明
  1. VV^{\ast} を張ること

ϕV\phi \in V^{\ast} を任意に取る。

ai=ϕ(ei)a_i = \phi (e_i) とおくと, ϕ=a1f1++anfn \phi = a_1 f_1 + \cdots + a_n f_n である。よって {f1,,fn}\{ f_1 , \cdots , f_n \}VV^{\ast} を張ることが分かる。

  1. 一次独立であること

c1,,cnc_1 , \cdots , c_nc1f1++cnfn=0 c_1 f_1 + \cdots + c_n f_n = 0 満たすものとする。

eie_i を代入すると ci=0c_i = 0 を得る。これは任意の ii に対して成立するため,e1==en=0e_1 = \cdots = e_n = 0,すなわち一次独立であることが分かる。

\quad

以上より {f1,,fn}\{ f_1, \cdots , f_n \} は基底になる。

このことから次の命題が分かります。

命題

VV が有限次元ベクトル空間であるとき,dimV=dimV\dim V = \dim V^{\ast} となる。つまり VVVV^{\ast} は同型になる。

また,双対ベクトル空間の双対 VV^{\ast\ast}VV と同型になる。

Rn\mathbb{R}^n の双対ベクトル空間を考えます。

eie_i を第 ii 成分だけが 11 でそれ以外の成分が 00 である ベクトルとします。このとき ϕe1,,ϕen\phi_{e_1} , \cdots , \phi_{e_n}(Rn)(\mathbb{R}^{n})^{\ast} の基底になります。

一般に VV が有限次元内積空間である場合,直交基底 {vi}\{ v_i \} を用いると,ϕvi\phi_{v_i} により双対基底が得られます。

内積から定まる線型汎関数

Rn\mathbb{R}^n を考えてみましょう。xRnx \in \mathbb{R}^n とすると ϕx(y)\phi_x (y)xxyy の自然な内積になります。

このように内積空間を通して線型汎関数を定義することができます。一般には次が成立します。

定理

VV  ,  \langle \; , \; \rangle を内積に持つ(有限次元の)内積空間とする。

このとき,写像 lV:VVl_V : V \to V^{\ast}lV(v)=v,l_V (v)= \langle v,- \rangle と定義することで VVVV^{\ast} の同型が得られる。

ちょっと記号が分かりにくいですが,議論をする上では都合がいいので,これで許してください。

証明
  1. 単射性

lV(v)=0l_V (v) = 0 すなわち,任意の wVw \in V に対して lV(v)(w)=v,w=0l_V (v) (w) = \langle v,w \rangle = 0 であるとする。

特に w=vw=v を代入すると v,v=0\langle v,v \rangle = 0 となる。このとき,内積の定義から v=0v = 0 である。こうして単射が示された。

  1. 全射性

ϕV\phi \in V^{\ast} を任意に取る。

VV の直交基底 v1,,vnv_1 , \cdots , v_niji\neq j に対して vi,vj=0\langle v_i , v_j \rangle = 0) を取る。

ai=ϕ(vi)a_i = \phi (v_i) とする。w=a1v1++anvnw = a_1 v_1 + \cdots + a_n v_n とおく。このとき ϕ=lV(w)\phi = l_V (w) となる。よって全射が示された。

部分空間と線型汎関数

WWVV の部分空間とします。

VV^{\ast} の元から WW^{\ast} の元が得られます。

実際,ϕV\phi \in V^{\ast} として ϕW\phi \mid_WWW への制限とします。すると ϕW\phi \mid_WWW^{\ast} の元になります。

双対ベクトル空間上の線型写像

定理

VVWW を線型空間,f:VWf : V \to W を線型写像とする。

ψW\psi \in W^{\ast} に対して fψ=ψf:VR f^{\ast} \psi = \psi \circ f : V \to \mathbb{R} と定めると,これは VV^{\ast} の元になる。

こうして得られる f:WVf^{\ast} : W^{\ast} \to V^{\ast} は線型写像になる。

これを双対写像(転置写像・随伴写像)という。

2×32 \times 3 行列 AA(230111)\begin{pmatrix} 2 & 3 & 0\\ 1 & -1 & 1 \end{pmatrix} とします。

x=(x1x2x3)R3x = \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix} \in \mathbb{R}^3 に対して f:R3R2f : \mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2f(x)=Ax f (x) = Ax と定義します。

このとき,双対写像 f:R2R3f^{\ast} : \mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^3f(y)=Ay=(213101)(y1y2) f^{\ast} (y) = A^{\top} y = \begin{pmatrix} 2&1\\ 3&-1\\ 0&1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} y_1\\ y_2 \end{pmatrix} となります。

行列 AA で表現される線型写像の双対は,元の行列の転置 AA^{\top} で表現されます。ここから双対写像を転置写像ともいう理由がわかりますね。

無限次元ベクトル空間では双対の様子が変わります。