単位行列の意味と性質,1との比較

単位行列の定義

対角成分が 11 で,それ以外の成分が 00 である正方行列を単位行列と言う。

  • サイズ2の単位行列:(1001)\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}
  • サイズ3の単位行列:(100010001)\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}

単位行列は,数の 11 に似ています。以下では,数の 11 と比較しながら単位行列の性質を見ていきます。

単位行列の記号

  • 単位行列は,英語で Identity Matrix と言うので,II と表すことが多いです。

  • ドイツ語では Einheitsmatrix と言うので,EE で表すことも多いです。

  • n×nn\times n の単位行列を InI_nEnE_n と表すこともあります。

単位行列の2乗,べき乗

単位行列の性質1

In=II^n=I

つまり,単位行列 II は何回かけても単位行列のまま。

11 も同じ性質を持っています。何回かけても 11 のままですね。

性質1の確認

サイズ 22 の場合に確認してみる。まず,22 乗について,

(1001)(1001)=(1001)\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}

となることが確認できる。つまり I2=II^2=I である。これを繰り返し使うと In=II^n=I である。

ちなみに,A2=AA^2=A を満たす行列のことをべき等行列と言います。単位行列はべき等行列です。

単位行列と逆行列

単位行列を使って逆行列という重要な概念が定義されます。

逆行列の定義

正方行列 AA に対して,AB=BA=IAB=BA=I となる行列 BB のことを AA の逆行列と言う。

より詳しくは,→逆行列の定義・逆行列を求める2通りの方法と例題

なお,実数 aa に対して,ab=1ab=1 となる実数 bb のことを aa の逆数と言います。やはり 11 と単位行列 II は似ていますね。

単位行列の性質2

単位行列 II の逆行列は II

これは,単位行列の性質1からわかります。I×I=II\times I=I だからです。

「1の逆数は1」という性質と似ています。

また,性質2より単位行列は正則であることがわかります。→行列が正則であることの意味と5つの条件

そのほかの性質

  • 単位行列は,非対角成分が 00 なので対角行列です。

  • 単位行列の固有値11 のみです。対角行列の固有値は対角成分そのものだからです。

  • 単位行列の行列式11 です。対角行列の行列式は対角成分の積だからです。

  • n×nn\times n の単位行列のトレースnn です。

  • 単位行列は直交行列です。→直交行列の5つの定義と性質の証明

  • 単位行列は置換行列です。

私は EE よりも II という記号を使います。